俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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永遠にさようなら ⑥

「くっさ! コゲくっさ!? マジでなにやっての!?」

 

「なーにぃ? 子供のくせに朝帰りとか嘗めてるじゃん」

 

あの忌々しいラピリスにしてやられ、パニパニともどもドクターに助けられ、アパートに帰って来たのは朝になっての話だった。

そして箒とともに掃除した部屋の中には、もうもうと立ち込める黒煙が満ち、台所から焦げ付いたフライパンを抱えた母親が顔を出していた。

 

「ゲッホゲホ! マジでありえないし、換気換気!」

 

「いやー、家事と火事間違えるところだったわ」

 

「うっさいわ馬鹿!!」

 

慌てて部屋の窓を開け、立ち込める黒煙を外に逃がす。

台所は酷い有様だ、まな板には包丁が何本も垂直に突き立てられ、流しには大量の食器が積まれている。

なにをどうしたらここまで酷いことになるのか、代わりに錬成されたものと言えば紙皿の上に乗っかった炭だけだ。

 

「はぁー、もぉー勘弁してよなんでこんな暑いのに窓開けなきゃいけないわけ……そもそも仕事はどうしたんだよ!」

 

「いやー、今日は休みだし? 折角だから料理してみようって」

 

「余計なことすんなっての! ったくもー!」

 

昨日、あれだけ箒たちと片付けたのに台所回りの惨状はその努力を台無しにしている。

腹だたしい、何でこの母親はいつもこうなんだ。

 

「片付けっから余計な事すんな! 座ってろ、朝飯なら何か……」

 

冷蔵庫を開けると、ラップされた野菜炒めと卵焼きが分かり易い場所にぽつんと配置されていた。

……箒が作ってくれたおかずの残りだ、残念ながら今日もまた作ってもらうというのは難しい。

昨日の調理だって箒が慣れた手際でやったもので、私達はほとんどなにも手伝えなかった。

 

「ねぇー、昨日の箒って子は今日はいないの?」

 

「……帰ったよ、自分の家に。 メールで連絡来たし」

 

メールの文面を表示したスマホの画面を見せる。

昨日、私達が魔女狩りを探している間、箒は自宅に戻って行ったらしい。

彼女の家庭の事情は分からないが……円満で解決できるならそれが良いはずだ。

 

「あらそぉ、まーたご飯作ってもらえばありがたかったんだけど。 私もさぁ、やってみたけどこのざまだったわけだし」

 

「お前はもう二度と台所に立つなよマジで……はぁ」

 

「なーによー、ちょっと自分でご飯作ろうとしただけなのに……って、あんたちょっと元気ないわねぇ。 箒って子となんかあったわけ?」

 

「うっせ、ほっとけし」

 

箒がいなくなって少し元気がない、というのは自分でも分かっている。 結構気が合う奴だったら余計にだ。

……でも本当にそれだけだろうか、この胸の中に渦巻く違和感は何だろう。

魔女狩りを探し、魔法局と交戦し、その間に箒は去って行った―――この時系列は偶然だろうか。

私の考え過ぎだろうか、頭の片隅に生まれる不安を拭いきれない。 ……仲間を疑うなんて何をやっているんだろうか。

 

「……いい子ね、箒って子。 喧嘩でもしたの?」

 

「うるさい。 台所はアタシが片しておくから、あんたはまた酒でも飲んで寝腐っていたら?」

 

「なーによ、たまには私だって母親らしい真似しようと頑張ったのに」

 

「……母親らしいこと?」

 

鼻で笑う。 ……が、炭が乗った皿が2枚ある事に気付く。

(出来栄えは考えないものとして)まさか私の分も朝食を用意してくれたのだろうか。 いや、まさかね。

 

「そうよ、朝帰りする様な悪い娘相手にご飯作ってたのよ。 ……何やってるか知らないけど、危ない真似してるわけじゃないでしょうね」

 

「さあね、母親に似たんじゃないの? それに今更説教でもかます気なの?」

 

「私は仕事だからしょうがないじゃない。 それとも、あんたも大事な仕事でもあったわけ?」

 

……なんだろう、今日はやけに絡んでくる。 酔っているんだろうか?

いつもだったらこの時間は寝ているか、家にいないかだ。 たとえ会話をしても私が一方的に突っぱねれば黙ってビール缶を呷るだけで話が打ち切られるのに。

 

「別にアタシの勝手でしょ……ってそうだそうだ」

 

癪だが、今の話の流れで思い出した。 トワっちの件だ。

ラピリスにやられ、目を覚ました時にはすでに事態は終わっていたが、トワっちがブルームスターと交戦していたらしい。

魔女狩りごと無事に追い払ったようだが、怪我はしていないだろうか。 安否が気になる。

 

「なに、また新しい女の子連れてくるの? あんたも好きねえ」

 

「次言ったらぶん殴っからな! ……お?」

 

一応、トワっちに向けて現状確認のメールを送る。 

まあ、彼女の性格からして既読スルーが関の山……と、思っていたら案外すぐに帰って来た。

内容は「大丈夫」の3文字だけだが、これだけレスポンスが速いのは珍しい。

 

「嬉しいけどどうしたんだろ……今日は雨でも降んのかな」

 

「人の顔見て失礼な奴ね」

 

こっちもあっちも珍しいことだらけだ、雨どころか雪が降るのかもしれない。

それはそうとこれだけレスポンスが速いのなら、今夜もアジトに集まって集会だ。

魔法局対策の方針もそろそろ固めておきたい、ポチポチとキーボードを叩いて出来上がった文面を送れば、これまたすぐに返事が返って来た。

 

()()()()()()()()()

 

「……あれ?」

 

幾ら反応が悪くても、真面目な集会ならばいつも参加していたはずなのに。

本当に今日は珍しいことばかりだ、開けた窓から空を見上げるが、雲一つない快晴が見えるばかりだというのに。

 

……本当に、今日は色々とおかしなことばかりが起きる。

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