俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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たとえ私の全てを賭けてでも ⑤

「な……!?」

 

トワイライトの杖――――そのナイフが音を立てて砕け散る。

反射的にかき集めて元に戻そうするが、もう遅い。 砕け散った破片は二度とは戻らない。

月明かりに照らされ、煌めきながら散らばる破片は音もなく夜の闇に解けて消えていった。

 

「―――――ぁ」

 

トワイライトが短い吐息を零し、その身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

腕で支える暇もなく、砂利の上に投げ出された体はぐったりと動かず、瞳からは光が消えていく。

 

「トワイライト!! おい、しっかりしろ! クソッ、なんで……!?」

 

「――――おとう、さん……だ……」

 

最後の力を振り絞り、トワイライトが唇を動かす。

杖が砕けた事で彼女の変身は解けかかっている、残された時間は少ない。

 

「――――お父さん……は、ローレルから――――私の()()()()を貰ってる……」

 

「制御装置、だと……!?」

 

「――――杖、いつでも砕ける様にって……ふふ――――私、“その程度”だったんだ……」

 

光を失ったトワイライトの瞳から一筋の涙があふれる。

……どれほどひどい扱いを受けたとしても、彼女は認めてもらおうと奮闘していた、愛してほしいと願った。

だが、唯一そばに立っているはずだった父親からの仕打ちが「これ」だ。

 

「―――――ふふ……悔しい、なぁ……」

 

縋りつき、俺の袖を強く握りしめていたトワイライトの腕から力が抜け、砂利の上に落ちる。

生きてはいる、だが彼女の心はここには無い。 その瞬間、彼女は何を思ったのだろうか。

「悔しい」と言った。 その言葉は誰に向かって吐いた言葉か―――決まっている。

 

「……ハク、魔法局に連絡を。 ラピリス達は戦闘中だけど、スタッフの派遣ぐら―――――」

 

俺の言葉を遮り、背後から跳んで来た石の礫が頬を掠めた。

 

「……ヴィーラ、それとパニオットか」

 

「分かってんなら……退けろし!! お前……トワイライトに、何をしたッ!!」

 

「速やかに離れないと、次は背中を抉る」

 

振り返らずとも分かる、こんな所に現れるのはトワイライトの()()ぐらいだ。

激昂しているようだが、息が荒い。 おそらく町中を探し回っていたのだろう。 大切な友人を。

 

「トワイライトは杖が砕けた、もう戦えない。 この子の事は頼んだ」

 

「はぁ!? お前がやったんじゃ……!」

 

「頼むよ」

 

「…………っ」

 

振り返った俺の顔と腕を見たヴィーラが言葉に詰まり、一歩退く。

まあ、無理もない。 今の右腕はかなりグロッキーな状態だから。

 

「……あなた、その腕……」

 

「なんでもない、大したことじゃない。 俺は、やる事が出来た」

 

「ま、待てし! そんな状態でどこに……」

 

「ケジメをつけてくる」

 

片腕で抱きあげたトワイライトの身柄をヴィーラに預け、その横を抜ける。

こんなズタボロの状態だというのに、何かに気圧されたようなヴィーラたちは襲い掛かってはこなかった。

 

「ヴィーラ、トワイライトの方が先決」

 

「……ブルームスター!!」

 

ヴィーラに呼び止められ、足を止める。

 

「…………あんた、箒って名前の子知ってる?」

 

「ああ」

 

「……あっそ、分かった。 じゃあ後で伝えといて――――アタシら、怒ってるって」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「―――――クソッ!! あいつ、失敗しやがった!!」

 

床に叩きつけたビール缶は鈍い水音を零し、発泡した中身をフローリングに垂れ流す。

クソクソクソクソ、クソが、ガキ一匹殺すのに手間取ってんじゃねえよ何やってんだよ。

 

「あんの役立たずが、床が汚れちまったじゃねえかよォ! 親に迷惑ばかりかけやがって!!」

 

あのアバズレが逃げてからここまで育ててやった恩も忘れて失敗しやがって、親の言うことも聞けねえのかよ。

だが落ち着け、問題はない。 あのガキの事はローレルさんの言う通り()()()()()

あとはあの人が上手くやってくれるはずだ、そういう約束だ。 

 

テーブルの上に投げ捨てられた木製のナイフを見やる、ローレルさんから渡されたそれは半ばから真っ二つに折れている。 俺がへし折った。

ローレルさんから渡されたこれはあのガキ――――トワイライトの杖とリンクしているらしい。

つまりこれを破壊すればあのガキの杖も木っ端みじん、何も余計な事を喋れない木偶と化すってわけだ。

 

「あー、クソが。 ビールビール……」

 

暑いってのにイラつくことばかりで喉が渇く、確かまだ冷蔵庫に何本かビールが残っていたはずだ。

大丈夫だ、あのガキはローレルさんが上手く処理してくれる。 もしあのガキから俺の繋がりがばれて、芋づる式に捕まってしまえばあの人だって困るに決まってる。

だから大丈夫だ、俺は問題ない。 これから先金が入らねえのは面倒だが、まあローレルさんにせびれば……

 

 

 ―――――――ピンポーン

 

「…………あ?」

 

ふと、チャイムが鳴る。 壁にかかる時計は既に深夜の1時を超えていた。

こんな時間に来客なんて非常識だ、まさかあいつが帰って来たのか? いや、あいつはブルームスターとかいうふざけた奴に負けたはずだ。

なら誰が……いや、関係ない。 無視だ無視。 相手するのも面倒――――

 

 

「……よぉ、クソ野郎」

 

――――次に聞こえて来たのはチャイムの音なんて可愛らしいものではなく、玄関の扉が蹴り砕かれた破壊音だった。

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