俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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魔法少女トワイライト 変身媒体:なし 杖:サバイバルナイフ(掌~ククリサイズまで調整可)

本名、久奥 永遠(くおく とわ)
固有魔法はナイフから魔力を伝播させることであらゆる物体・エネルギーを半永久的に停止させる「停止の魔法」
運動エネルギーを0にし攻撃を無効化する、物体を空中に固定し足場にするなどその汎用性は高い。
また、注ぎこむ魔力量さえ上回れば魔法少女や魔物の動きすらも止められる。

さらに恐ろしいのは対象の魔力すら停止させることにより、魔法少女から変身能力を剥奪する力だ。
その能力を買われ、ローレルからも重宝されていた。
出過ぎた杭となった魔女をその魔法で刈り取り、変身能力を奪う死神のような仕事もしていたらしい。
作中ではブルームスターがその餌食となった。

対象を停止させるためには相応の魔力消費が必要となるため、本来ならばそうそう連発できるような魔法ではない。
なにかローレルが細工をしていたらしいが……

名前の由来は永遠(とわ)+薄明(トワイライト)
魔法の根幹にあるのは虐待じみた教育による自己成長の停止。
彼女の行く先に光などはなく、永遠に成長するはずもない植物のような人生だった。

たまたま吹いた風は彼女の未来を変えたのだろうか。


たとえ私の全てを賭けてでも ⑦

 

―――――ざり

 

逃げる。

 

―――――ざり、ざり

 

逃げる。

 

 ――――ざり、ざり、ざり

 

逃げる、逃げる、逃げる。

どこまで逃げても追いかけてくる。 どこに逃げようとまた思い出してしまう。

頭は忘れても体に蓄積する疲労がリセットされるわけじゃない、忘却している間にわずかな休息を挟みながらも深夜の街を走る。

 

助けを呼ぼうにも、なんで叫ぼうとしているかを忘れてしまう。

クソッタレな俺の頭をすぐ後ろから迫る危機を忘れる、何度でも、何度でも、何度でも、何度でも。

そして、ついに限界が訪れた俺の脚はもつれて、硬いコンクリの上に身体を打ち付ける。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……なんだよクソォ……何が不満なんだよォ、もういいだろォ!!」

 

―――――ざり

 

「お、俺は悪くねえ! 金が無かったんだ! だから、ローレルの奴に騙されて……そうだ、全部、全部アイツのせいだ!!」

 

―――――ざり

 

「た、頼むよ……見逃してくれよ……ろ、ローレルについての情報とか話せ……」

 

風を切り、尻餅をついた俺の股の間目掛けて黒い箒が飛んで来た。

まるで矢のような速度で飛来したそれは、容易くコンクリに突き刺さり、衝撃の余韻にその穂を揺らす。

あと数センチずれていたら、貫かれていたのは地面ではなく俺の体だ。

 

「ひ、ヒィ!?」

 

「……街の外まで引っ張って来たが、姿一つ見せないんだ。 元からお前には大した情報も渡してないだろ」

 

言われて、余裕がなかった視界がようやく周りの景色を認識し始めた。

ここは街を繋ぐ大橋の上だ、魔法少女事変だかの時に事故か何かで封鎖されて最近補修が終わったばかりの橋。

深夜帯でもあるせいか、人影どころか車が通るような気配すらもない。

 

―――――ざり

 

悪夢のような音を引きずり、闇の中から悪魔が姿を見せる。

確かにそこにいるはずなのに、周囲の空気が陽炎のように揺らめく“それ”の姿がつかめない。

目を離せばまた忘れてしまうのだろうか。 いやだ、もうあんな気が狂うほど逃げ惑うのはもういやだ。

 

「お前は元から利用されてたんだよ。 でもまあ、いいだろ? お前だってトワイライトを利用してたんだ」

 

「お、俺が……そんなわけない、そんなはずがない! ()()()()()()()()()! ローレルも、あのガキも! 俺が―――ごばぅ!?」

 

開いた口の中に箒の穂を突っ込まれ、物理的に口を塞がれる。

熱い、口の中の唾液がジュワジュワ揮発していくのが分かる。 引き抜こうと折れてない腕で柄を掴んでもがくが、まるでビクともしない。

 

「利用していた? その結果が今のテメェのザマだろ。 金に目がくらみ、実の娘を道具のように扱い、追い込まれたらその金蔓すらも簡単に裏切るようなテメェの末路がこれだ」

 

「ひ、ぎ、ひぃあ……やだ、()にたくな……」

 

見た目は子供だ、なのに大の大人が力でねじ伏せられて何もできない。

ああそうだ、これが魔法少女だ。 こいつが少しでも手加減を緩めればその瞬間に俺は死ぬ。

ズボンに温かい液体が染み出す、逃れられない死を目前にしてしまえば恥も醜聞もない。

 

「……どうして、自分ばかり可愛がっていたその愛情を、あいつに分けなかった。 どうして、自分の子供に……お前はそこまで酷い真似が出来るんだ!!」

 

俺の口から引き抜かれた箒が、怒り任せに橋へと叩きつけられる。

子供の身の丈ほどしかない箒が衝突した瞬間、蜘蛛の巣上の亀裂が走る。

こんなもの、人間が喰らえば一瞬で汚いひき肉になっちまう。

 

「俺はテメェを殺さねえ、だがそれは“今”だけの話だ! よく覚えておけ!!」

 

「ヒイイィィイィ!!?」

 

胸ぐらをつかまれ、奴の顔が眼前まで寄せられる。

恐怖と灼けるような熱気のせいで禄に目を開ける事も出来ない。

 

「お前は二度とトワイライトの前に姿を見せるな、二度とあいつをお前の汚い小遣い稼ぎに利用するな! あいつの歩く未来に泥を塗る真似をすれば、その時に必ず俺はお前を殺すッ! どこに逃げようと、どこに隠れようと!!」

 

 

「――――俺の全てを賭けてでも、必ずお前を殺してやる!!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

湿気を含む風が熱を帯びた体を撫でる。

3分という制限を破り、大分無茶をした。 足元で気絶した男を追い詰めるためには本来過ぎた力ではあったが。

 

《……………………》

 

「……ハク、そんなに怒るなよ。 お蔭でほら」

 

スマホの画面に向け、よく見えるように()()を振ってみせた。

トワイライトとの戦闘で負った切り傷もほとんど消えているか、目立たない程度には緩和している。

黒化の反動というか、後遺症というか。 忘れられるという力は現実にも強く影響を与えるのだ。

 

それは時おり、認知度の低い現実すらも曖昧に希釈して誤魔化してしまうほどに。

 

《……私、マスターとはしばらく口を利きませんから》

 

「あー……悪かった、今回は無茶した」

 

《今回もですよ! トワイライトちゃんだけでなくこんな……ふんっ!!》

 

口を開けば文句が湯水のごとく湧いて出てくるが、口を利かないと言った以上は全部飲み込んでこちらを無視する気らしい。

言いわけも弁明も、今は聞いてはくれないだろう。

 

「……はぁ」

 

今までの疲労を吐き出すように溜息を洩らし、足元の男を見る。

自分が利口だと言い聞かせ、ローレルの口車に乗せられてその悪事に加担した男。

児童虐待を含め、魔法局に引き渡せば埃はいくらでも出てくる男だ。 ……だが、それでもトワイライトにとっては親に違いない。

 

二度と近づくなと言った。 どこまで覚えていられるかは分からないが、罪を洗えばトワイライトには近づけない措置が取られるだろう。

しかしそれで本当に良かったのだろうか、非道な男ではあったが俺の判断で親子の縁を切ってしまった。

もしこの男にも一かけらの情があったのなら、もし更生する可能性があったなら……いや、今さらいくら「もしも」を重ねても意味はないか。

 

《……独り言ですけど、更生とか考えるならそういうのはマスターの仕事じゃないですよ。 それに、この男を許すかどうかはトワイライトちゃんが決める事です。 独り言ですけどねっ!》

 

「ハク……そうだな、サンキュ」

 

少し肩の荷が下りた気がした。 するとそこで遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえて来た。

先に通報しておいたものがようやく到着したか、ハクの言う通りあとは専門家に引き渡して任せよう。

サイレンが聞こえる方へ振り返ると、ビルの隙間から覗く空がやけに明るい。

 

―――――俺たちが戦っていた河川敷から、蒼い火柱が燃え上がっていた。

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