俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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藪医者の攻略戦 ②

――――初めてドクターと出会った時の事を思い出す。

縁さんに連れられ、右も左も分からぬ魔法局の奥にある扉。 そこが彼女の居城だった。

出会ったばかりの印象は「不健康」、扉の隙間から覗くぼさぼさの髪とズレたメガネの裏でじろりと私を睨む瞳は聞いていたイメージと真逆だった。

 

「そうか、分かった」

 

一通りの自己紹介を終えると、たったそれだけの言葉で再び閉じられた扉に随分と憤った。 医者が聞いて呆れると。

それでも、入れ替わりが激しい魔法局の中で、私達は戦友であったと信じている。

 

「……ゲームはね、実はあまり趣味じゃないんだよ。 魔法の都合からトレーニングと……あと、感覚の洗浄に丁度いい」

 

ある日、扉越しに珍しく彼女が話をしてくれたことを思い出す。

その時は珍しく魔物が湧いて出て、二日ほど殆ど寝ずの連戦だった。

 

「ボクらは命を扱う、死に近い仕事をしている。 だからたまにその価値を見誤るんだ。 けど、ゲームはリセットもコンティニューも出来るだろう?」

 

その日は、私達は助けられなかった。

逃げ遅れた人や現場の応援に駆け付けた警官の人たちが……たくさん死んだ。

 

「死んで、覚えて、やり直して。 そのたびに思い出すのさ、”馬鹿め、現実はこうはいかないぞ”って」

 

体育座りのまま、背中を押し付けた扉の向こうからはゲームオーバーを告げる悲しい音楽が流れていた。

 

「……ボクはね、ラピリス。 命の価値が知りたいんだ」

 

その時に初めて、私は彼女の心に触れた気がした。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――ドクタアアアアアアアアアア!!!」

 

ドクターの攻撃を凌ぐ傍ら、後方で待機していたシルヴァは何も事態を傍観していたばかりではない。

少しずつ、少しずつ、細かい紙片をこの一帯に散布していた。

紙片には魔力を込めて刻まれた「炎」や「爆発」を意味する短い言葉が羅列され、強い衝撃を受ければ炸裂する仕組みになっている。

シルヴァは気絶しても、自身の変身も魔力も解いてはいない。 本当によくやってくれた。

 

「くっ……正気か! 自分ごとボクを巻き込むなんて!?」

 

「狂気でもないとやってられませんよッ!!」

 

一枚一枚の火力は小さい、だが近くの紙片を撒きこみながら相乗的に火力は増加していく。

ドクターは先に勘付き、戦場を変えようとしていたようだが、彼女()()の努力をここで水の泡にするわけにはいかない。

自分で誘爆を誘い、爆風で無理やりにドクターの脚をこの場に留めさせる。

 

「ダメージはなくとも、衝撃自体は喰らうはずですよね……!」

 

「それを……片足を犠牲にしてまでやることか……!?」

 

「敵の心配、している暇があるとでも?」

 

火力こそ控えめだが、それでも地雷を踏みつけたようなものだ。

片足に絡みつく焼けるほどの激痛に顔が歪む……だが、これも必要経費だ。

ドクターを掴んだ腕を離さず、二人揃って取っ組み合った格好のまま、砂利の上を転がる。

 

「っ……いくら爆破を重ねても、ボクにダメージは与えられない!」

 

「どうですかね、試してないなら分かりませんよ……!」

 

転がるたびに砂利の下に敷かれた紙片が爆発する。

けっしてこの場からは逃さない、どれだけ無様に転がり土を舐めようともこの手だけは離さない。

 

「いい加減に……しろっ! ボクの耐久に限界があると思ったか! もしかしたらあるかもしれないね、だがそれよりも君の体が先に限界を迎える!!」

 

爆発の余波はドクターばかりに押し付ける事も出来ない。

爆風が、熱が、魔力の乱流が容赦なく傷つける。 だがそれがどうした。

最初から身綺麗に勝てるとは思ってはいない。 傷も痛みも覚悟の上でドクターと対峙している。

 

「クソッ、いつまでも転がっていられるとでも……!」

 

「体術で私に勝てると思っているんですか?」

 

私を振り解こうと立ち上がるドクターの足を払い、のど輪をかけて再び押し倒す。

その気になれば私に反撃も出来ただろう、だがドクターはあくまで私を振り払い、状況を仕切り直す算段だった。

おそらく本人ですら知らず知らずの間に間に生まれているであろう小さな気の迷い、だがこの期に及んでなおその迷いが気に食わない。 

 

「ドクター、あなたの決意とはそんなものだったのですか?」

 

「なに……?」

 

「魔法局を裏切ってまで成したい、あなたのやるべきことはその程度の事かと聞いているんですよ」

 

わざと挑発するように誘ってみれば、ドクターは私の胸倉を掴みかかり、その額を勢いよくぶつける。

息が詰まるほどの衝撃に一瞬意識が飛ぶが、片足を焦がす激痛が無理矢理に私の意識を引き戻してくれた。

 

「っ、ぐあぁ……!」

 

「その程度だと……冗談じゃ、ない! ボクが、どんな思いで……!」

 

「知ったこっちゃないですよ、何も話してくれないじゃないですか……! ええそうですよ、昔からあなたはそうだった!!」

 

胸ぐらをつかむ腕を逆につかみ返し、ドクターの頬を平手でひっぱたく。

当然効くはずもないが、それでもドクターの表情が苦痛に歪んだような気がした。

 

「くどいようですが聞きますよ、ドクター! あなたは何のために……」

 

「――――東京事変を再現する」

 

「…………えっ」

 

平手の衝撃で眼鏡が飛んだドクターの瞳が、私を睨みつける。

 

「誰でも良い、人の命を再編する、蘇らせる。 それがボクの望みだ、()()()()()()()()()()()()

 

それは今にも泣きだしそうで、まるで助けを求めているかのような目をしていた。

 

「もし、生き返ってしまうのなら――――命とは、その程度のものなんだろう……?」

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