俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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藪医者の攻略戦 ③

―――――はじめてラピリスと出会った時の事を思い出す。

一目見た時の印象は「面倒くさそう」だった。 典型的な学級委員長タイプ、反りが合いそうにない。

そしてこの手の魔法少女はものを真っ直ぐに受け止めすぎる。 どうせ今までの子と同じく魔法少女の現実に打ちのめされ、すぐにいなくなるだろうと思っていた。

 

「そうか」

 

だから互いにこれ以上深入りする必要もないだろうと、扉を閉ざした。

しかし、その魔法少女は存外しぶとく生き残った。

戦場でしくじって心が折れると思っていたが、傷つくたびに彼女の振るう刀の鋭さは増して行った。

 

「……無力ですね、魔法少女って」

 

ようやく彼女の名前を覚えた時に、その事件は起きた。

偶発的に現れた魔物の集団暴走事件(スタンピード)、それに対して対処できる魔法少女が2人だけなんて手数が足りるはずがない。

多くの命を取り零した、間に合わなかった、後悔した。 すべてが終わった後で、自然と扉を挟んで二人でぽつぽつと愚痴をこぼし合った。

 

彼女は魔法少女を弱いと言った。 たしかにそうだろう、どれほど異能の力で武装したとはいえ元はただの少女に過ぎない。

だが、魔物の山に立ち向かった彼女が弱いなどとは口が裂けても言えなかった。 彼女がいたからこそ助かった命はあった、凡百の魔法少女とは違い、彼女は……魔法少女ラピリスは強い。

 

だというのに、主人公がピコピコと敵の攻撃を避ける画面の隣に置かれたモニターでは、失った命の数ばかりを数えるニュースばかりが流れている。

「もっと迅速に対処できなかったのか」「遺族への対応はどうするつもりなのか」「魔法少女達に落ち度はなかったのか」、悲劇を飾って視聴率を稼ぎたいばかりの演目が目に映る。

 

失われた命は確かに多い、だがそれでも魔法局は最善を尽くしてきたはずだ。 ボクたちが命を懸け、守ったものの結果が「これ」か。

……分からない、命の価値が。 こんな三文番組のテロップに名前が写り、消費されていくばかりのものなのか?

死ぬ思いをしてまで魔物を戦い、生き残った者たちに石を投げつけられるほどの価値しかないのか?

 

ふと、自分の原点を思い返す。 初めて魔法少女として選ばれ、戦うために誓った理由が歪んだ形で蒸し返される。

 

 ―――――「命の価値」って、一体何なんだ?

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――だから、確かめるのさ! くだらない、誰かの利益に消費される程度のものなら……()()()()()()()()()()()()()! その為の下準備を積んできた!」

 

「……そのために魔女たちから魔力を集めていると」

 

「なんだよ、気づいていたのか……?」

 

「ええ、シルヴァの功績です」

 

やはりという納得こそあれ、驚きはしない。

彼女の魔法に対するセンスは東京事変の時から分かっていたことだ、放っておけばいずれこうなるだろうという予想はついていた。

思ったよりも早かったが、それでも気づいたところですでに間に合いはしない。

 

「あの錠剤の中身は……種のような形をした一種の杖です、飲み込んだ対象の魔力を増幅し、そして回収する。 まるで根から栄養を吸い取るかのように」

 

「7割ほど正解だ、それほど理解しているのなら魔力の行き先がどこなのかぐらいわかっているだろう?」

 

「……それがあなたの無敵のリソースですね、ドクター」

 

ラピリスの考察には無言の笑みで肯定する。

無敵大戦のトリックは暴いてみれば簡単なものだ、膨大な魔力の壁で本体を保護する。 それだけの能力。

問題はその無尽蔵に近しい魔力をどこから引っ張って来るかだが……その問題を解決したのが件の錠剤、ウィッチクラフトだ。

 

「今この瞬間、どれほどの魔女が存在しているか分かるかい? 数多の端末から供給され続ける魔力リソースでも無敵を動かすのに使う量は1割にも満たない、そしてこれだけの数があればかつての東京さえも超える!」

 

「……人は蘇りません」

 

「誰が証明する。 それともそれは倫理観故か? 僕はあの東京で生きた彼女らの理想を肯定する側の人間だ」

 

「ドクター! あなたが謳うそれは命の価値への冒涜だと何故分からない!!」

 

「命が尊いというのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「っ―――――!」

 

組み伏された状態から、手元の砂利を握りつぶして砂に変え、ラピリスの目元に投げつける。

魔法少女には効かないとしても、人は反射的に異物から眼球を守ろうとしてしまう。 ラピリスだってそれは変わらない。

彼女が怯んだところへすかさず膝を叩きこみ、その身体を無理矢理に引き剥がした。

 

「ぐ、ェぁ……!」

 

「何が悪い、手術台の上で行う心肺蘇生と何が違う! 死んでも蘇るのなら、命に残機があればボクだってこんなに悩む事はなかった!!」

 

「それ、は……誰に対しての弁明ですか、ドクター……?」

 

「ボク、は……!」

 

「気づいていないんですか、あなた今泣いているんですよ……!!」

 

鳩尾に膝を喰らい、肩で呼吸をしながらも鋭い声を飛ばすラピリスに指摘され、初めて頬を濡らす涙に気付いた。

 

「命に替えが利くのなら……あなたが謳う、命の価値は急落する……! コンティニューできるから大丈夫なんて言える世界は、ただ“死んでないだけ”の人生ですよ……!!」

 

「違う、やめろ……やめろ!!」

 

「はは……互いにもう引けないところまで来てしまいましたね、ドクター……もう、休みましょう」

 

ラピリスが立ち上がると同時に、背中にパチンと何かが弾けるような衝撃が走った。

 

「―――――歯ぁ食いしばってくださいよ、あなたの病巣を私()()が切除します」

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