俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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悪魔の科学者 ①

「……へ? うええぇええぇぇええぇえぇええぇ!!?」

 

「お、脅しではないぞ。 動くと私も引き金を引いてしまうかもしれない」

 

彼女からは見えていないだろうが、縁クンの背中に押し当てているのは正真正銘本物の拳銃だ。

もの自体は一般的に警察官へ支給されるリボルバーと変わりないが、殺傷力としては十分だ。

 

「な、なんでぇ!? どうしてぇ!?」

 

「演技はもう結構だ、単刀直入に聞こう。 縁クン、()()()()()()()()?」

 

「…………へぁ?」

 

鳩が豆鉄砲を喰らったような声を上げ、縁クンの体が一瞬フリーズする。

本当に何が起きているのか分かっていないような、混乱に思考が追いついていない……ように見える。

揺らぐな、自分の考えを信じろ。 目の前のいる彼女こそがこの事件の真犯人なのだと。

 

「縁クン、ネズミの事件を覚えているかね」

 

「え? あ、ああ。 局長を囮にした……ま、まさかその時の恨みですか?」

 

「違うわい、そもそもあの時に疑問だったのだよ。 ネズミたちの行動が知性的すぎると」

 

「そ、それはペストマスクの魔物が操っていたから……」

 

「街中のカメラを把握し、姿を隠した隠密行動だぞ。 魔物一匹に成し得る行動とは思えん」

 

「な、ならドクターが協力していたとか?」

 

そうだ、その可能性もある。 私はあの時、恐怖心を紛らわせるために色々一人で喋っていた。

魔法局(身内)の共犯を指摘するような内容が面白いほど良いタイミングで遮られ、ネズミに攫われた。

だからこそ的を射ているのではないかと、彼女こそがローレルなのではないかと。 だがそれだけでは証拠として弱い。

 

「色々考えたよ、可能性を。 だがそのたびにキミへの疑念が深まって行った」

 

「な、なんでですかぁ?」

 

「君以外に適任が思いつかなかった。 街中のカメラを把握し、魔女たちの心理を掌握し、魔女化の錠剤を生み出せる知識がある内部犯がね」

 

「そ、そんなの状況証拠だけじゃないですか!?」

 

「ああそうだね、だがこの程度の事は()()ではない。 ()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()――――――!?」

 

はっとした顔で縁クンが自分の口を押える。 自分でも意に添わぬ発言だったのだ。

だが、そうか。 聞き間違いなどではない、聞き間違いであってほしかった。 やはり彼女こそがローレルだった。

 

「………………アンサー、ですか? 今のは」

 

「ああ、こんな方法は使いたくなかった。 そして彼女の魔法についても君は知っているだろう」

 

資料室の外から急いでこの場を駆け離れる靴音が聞こえる、私が頼んで待機してもらったアンサーが離脱する足音だ。

彼女達を匿い、姿を隠匿したのもこのためだ。 この数秒の尋問のために準備を重ねてきた。

 

「驚きました、彼女自身の発言でなくても答えを引き出せるんですね」

 

「正確には私の声にかぶせて薄っすらと質問をしていたのだがね、相手が認識していなくとも魔法は働くらしい」

 

「そうですか、油断しました。 ええ、あなた独りかと思って完全に警戒していませんでした」

 

彼女は背中に突きつけられた拳銃など気にも留めず、眼鏡を外してゆっくりとこちらに振り替える。

警戒していなかった、か。 そうか、君にとって私はその程度の男でしかなかったか。

 

「ずっとお飾りの局長でいてくれたら助かったんですけど……で、どうしてわかったのかしら?」

 

そうしてほほ笑む彼女の顔は、今まで見たどんな人間よりも邪悪に見えた。

 

「君は酷く用心深かった。 いくら私が怪しんだところでその証拠をつかむには至らなかった」

 

「ええ、私もそれだけ気を使って立ち回っていたのだけど」

 

「……だから君が犯人であってほしくないと思った」

 

目を丸くした彼女の表情は、心からの驚きだったのだと思う。

 

「…………ぷっ、アハハハハハ! なにそれ、つまり私を疑いたくなかったからバレちゃったってこと!? もー、一生懸命隠してたの馬鹿らしいじゃないですかぁ!」

 

「ゆ、縁クン……何か理由があったのだろう? こんな事をするだけの理由が」

 

「理由、ですか? ええ、ありますよもちろん」

 

「なら、話してほしい。 理由によっては協力できる事もあるかもしれない、まだやり直せる!」

 

まだ手遅れではないと思いたかった、そのためにこの舞台を整えた。

この事件を終わらせ、全ての罪を償えばまた元の日常に戻れると考えた。

 

だがしかし、彼女の返答は床を突き破って現れたツタが代弁した。

 

「む、むぉわっ!?」

 

「局長、本当にあなたって生易しいですね。 こんな拳銃一本でどうにかできると思うなんて……あら?」

 

巻きつくツタに腕を締め上げられ、握りしめていた拳銃を取り落とす。

うすら笑いを浮かべた縁クンがそれを拾い上げるが、弾倉を広げてみれば中には一発の銃弾も込められていない。

 

「ふ、ふん……私が君を撃つ度胸があるとでも思ったかね?」

 

「あらあら、本当にお優しい。 いえ、ただ臆病なだけですね、あなたは自分で重大な決定をしたくないだけです」

 

手に取った拳銃が脅しに使えないと分かると、彼女はそれを飽きた玩具のように投げ捨てる。

落ちるよりも早くツタやコケに浸食された拳銃は、タイル床と衝突した衝撃で粉々に砕け散った。

 

「“自分で捕まえるのは怖い、だから自首してほしい”、“人を撃つのは怖い、だからこれは自分のやさしさだ”、そんなだから私のような悪ぅい魔女に利用されちゃうんですよ、局長?」

 

腕を締め付けるツタの力はぎりぎりと増して行く、それどころか枝分かれした細い触手が段々と腕を伝って私の体を侵食し始めて来た。

……最後は私も、そこに転がる拳銃と同じ末路をさらすのだろうか。

 

「……いつからだ、いつから君はこの計画を企んでいた?」

 

「はじめからですよ、だから改心も贖罪も弁明もありえません。 桂樹 縁はこの魔法少女事変のために全てを用意してきたんです」

 

「君は一体、何者なんだね……!?」

 

「アッハ! そうですね、一応まだ人間だと思いますよ。 ああ、名残惜しいですがそろそろお別れですね、心臓に達します」

 

ころころと笑う彼女が指し示す通り、腕を伝うツタの侵食はそろそろ私の胸に差し掛かる所だ。

だんだんと息苦しくなり、意識も遠ざかって来た。

アンサー君は無事に逃げおおせたはずだ、万が一私が息絶えようとも情報を伝えるものがいる。 大丈夫、大丈夫だ。

 

「さようなら、局長。 その臆病さで私の正体にたどり着いた事だけは褒めてあげます」

 

 

 

「―――――お、お別れにはまだ早いんじゃない……かなぁ?」

 

天井から降りて来た()()()()()()()が、私の腕に絡みつくツタをズタズタに寸断した。

 

 

大丈夫、大丈夫だ。 臆病だのなんだのという罵倒は生まれてこのかた聞き飽きている。

だからこそ“保険”においては抜かりはない

 




桂樹 縁(かつらぎ ゆかり)

魔力学の権威であり、心理学にも精通した才女。
その正体は今回の事件を起こした最悪の魔女その人だった。

名前の由来は「月桂樹」 別名「ローリエ」「ローレル」など。
花言葉は“裏切り” 
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