俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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悪魔の科学者 ⑥

「―――――何があった!」

 

「み、皆の者! 大変だ!」

 

ゴルドロスに呼ばれ、慌てて病室に駆け戻る。

局長は……異常はない、相変わらず顔色は悪いが状態が急変したわけではなさそうだ。

ただ、ベッドの脇では倒れ込んだアンサーの体をシルヴァが抱きかかえていた。

 

「アンサー! どうしたんだ!?」

 

「わ、分からぬ……急に倒れたと思ったら、杖が……」

 

「杖……?」

 

シルヴァが指を指す方へ視線を向けると、床にはアンサーの杖であるメガホンが転がっている。

そして、その表面には細かいヒビが走っていた。

 

「……なん、でだ?」

 

「わ、分からぬ……急にふら着いたと思ったら倒れて……杖にヒビが……」

 

「―――――ローレルの仕業だね」

 

遅れて部屋に入って来たオーキスが床のメガホンを拾い上げ、呟く。

その声は酷く落ち着いている、この部屋の中で一番冷静に状況を俯瞰出来ているのが彼女だ。

 

「ぶ、ブルーム……魔女の子って何人?」

 

「アンサー含めて4人だ、錠剤が関係しているのか?」

 

「おそらくねぇ、魔力が枯渇し始めている。 個人差はあると思うけど、遅かれ早かれみんなこうなって行くと思うよ」

 

「そ、そんな……!」

 

部屋の中には花子ちゃん達もいる、当然今の話を聞かせられて黙っていられるはずもない。

 

「どういう事っすかカミソリさん! な、治るんすかこれ!?」

 

「無理だねぇ。 ドクターの話を思い出してよ、錠剤は女の子から魔力を吸い上げるための媒介装置なんだよ。 だから吸い上げる元を断たないといけない」

 

「ローレルか、早速仕掛けて来やがったな……!」

 

今のアンサーは根から栄養を吸われ続けている状態だ、このまま魔力を吸い尽くされれば杖が砕け、廃人と化すのだろう。

だがしかし、分かったところで俺たちに止める術はない。 飲み込んだ錠剤が原因だとすれば、それさえ取り除けば何とかなるかもしれないが……

 

「……オーキス、魔力を吸う原因を取り除くことは出来るか?」

 

「ごめん、難しいと思う。 わ、私の魔法は複雑に食い込んだものは剥がせないから」

 

「そうか、他の3人は大丈夫か?」

 

「い、今のところは何とも……」

 

花子ちゃん達の顔色には特に変化はない。

魔力の総量過疎質の問題か、今の所事態を瀕しているのはアンサーだけのようだ。

 

「ど、ど、ど、どうするでござるか!? どうすればいいでござるか!? ね、ネギを首に巻いて安静に……」

 

「落ち着けヨ、ニンジャガール。 今はどうにもならない、残念だけどネ」

 

「あは、は……なんか、大変な事になってる……」

 

この喧噪で意識が戻ったのか、息が荒いままアンサーがその身体を起こそうとする。

だが意識がもうろうとしてうまく力が入らないらしい、慌ててその身体をレトロとシノバスの2人が支える。

 

「駄目、今は無茶してはいけない」

 

「そ、そうでござるよアンサー殿! 今動くと色々と不味いのでは……」

 

「どうにもならないってならさ、寝てても意味ないじゃん……皆大変なのに、邪魔しちゃ悪いしさ……」

 

「だからって辛いのに無理する理由にはならないだろ、空いてる病室使えないか聞いて来る!」

 

幸い、一般には公開されていないこの特別病棟には空きがある。

医学的にはどうにもならないと分かっていても、安静にしていた方が良いはずだ。

急いで看護婦を呼ぼうと、地上と繋がるエレベーターへと向かう。

 

《マスター、変身は解除していきますよ、魔法少女姿で表をうろつくと騒ぎになります!》

 

「ああ、頼んだ。 急ぐぞ!」

 

到着の遅いエレベーターに焦れながら待ち、地上1階を目指す。

しかし1階に到着して受付の方へ向かうと―――――そこに広がっていたのは深夜とは思えないひっ迫した現場だった。

 

《……な、なんですかこれ》

 

慌ただしく出入りを繰り返し医師たち、反響して鳴り響く救急車のサイレン。

タンカに担がれて運び込まれてくる患者たちは皆……アンサーと同じくらいの、女の子たちだった。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

屋上から地上の喧騒をやけに冷えた頭で見下ろしている自分がいた。

次から次へと運び込まれてくる年端もいかない少女たち、おそらくはあれの全てが魔女となった被害者だろう。

いつもならば怒りに燃えていたかもしれない、だが今ばかりは度重なる混乱でそういった感情の機微さえも麻痺してしまっている。

 

「…………これも全てあなたの企みですか、ローレル」

 

「――――あら、もう縁さんとは呼んでくれないのね?」

 

虚空に向けて声を掛けると、待ってましたとばかりに貯水槽の陰から見覚えのある人物が現れた。

夜闇に溶けるような黒い服装に、眼鏡をかけていない線の細い顔立ちは別人のような印象を与える……が、間違えようがない。 あれは桂樹 縁でしかないのだ。

 

「なんとなく、独りになれば現れると思ってました」

 

「あらあら、信頼してくれたのね。 嬉しいわ」

 

嬉しそうに、そして静かに笑う彼女を前に、刀の鞘を握る腕に力が籠る。

幾度とない日常の中で見た顔が、同じように笑っている。 眼下に広がるこの惨状を引き起こしておきながら、だ。

 

「けど随分と落ち着いているのね、そこまで冷酷な子だったかしら?」

 

「……混乱に頭が追いついていないだけですよ、それにどうせまた木偶人形を遠くで操っているだけでしょう」

 

「ふふふ、気になるなら試してみれ    ばっ?」

 

言葉を待たず、抜いた刀でその首を斬り落とす。

案の定、床に転がる頭からは血の一滴も零れやしない。

 

「ふふふ、ふふふふふ! 本当に斬っちゃうなんてぇ、万が一本物だったらどうするつもりだったの?」

 

「あなたなら万が一にもリスクは背負わないと信頼していました」

 

「そう、信頼ね。 あなたはそうやって誤魔化すのね、分かってる? 今のはただのやつあたりなの」

 

頭を切り落とされた首の断面から木々が伸び、床を転げながら笑う頭を持ち上げる。

 

「“どうしてこんなことを?”、“あんな優しい人だったのに”、行き場のないもやついた感情をあなたは暴力という形で訴えたの。 だってそうよねぇ、あなたの言葉を借りるなら私の首を斬り落とすメリットが無いもの!」

 

「……魔法局を裏切ったあなたが言いますか」

 

「私の正体も見抜けなかったのによく言うわ。 でもそうね、あなたの言葉も正しいわ、葵ちゃん。 私はあなたの間違いを諭せるような立場じゃない」

 

分かっている、これはただの挑発だ。 

相手は心理学のプロフェッショナル、激昂すればただただ向こうの思うつぼになる。

 

「ご考察のとおり、この五月蠅い救急車のサイレンは私のせいよ。 魔女から徴収する魔力の量を少し引き上げたせい」

 

「……あなたはなぜこのような真似を?」

 

「知りたい? それとも、犠牲となる女の子たちを助けたい? どちらにしても、私があなたに示す選択肢は一つだけよ」

 

拾い上げた頭と首の断面を繋ぎ、完全に接合したローレルが、桂樹 縁の顔で邪悪に笑う。

 

()()()()()()()、あなた独りでね。 そうしたらあなたの疑問も全て答えてあげるし、魔女となった子も全員解放するわ」

 

「――――その言葉に二言はないですね?」

 

「ふふふ、私があなたに嘘をついた事があるかしら? ねえ、葵ちゃ  ん゛」

 

今度は旋毛(つむじ)から縦に切り裂き、巻き起こした炎で分割した体を焼き払う。

炭となった体は二度と動くことも、再生することもなかった。

 

「…………嘘つき」

 

何故ローレルは私にこの条件を出してきたのか、考える猶予はない。

刻一刻と犠牲者は増えていく、その数を1人でも減らすために―――――私は屋上を跳んだ。 

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