俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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Re:東京事変 ②

「……なんじゃこりゃあ!?」

 

屋上、現状を表すような曇り空の下では強い風が吹き続けている。

だがこの風は自然に発生したものではない―――――今なおも上空からこちらを見下ろす一機のヘリから吹き降ろされるものだ。

 

「知らないヨ! 何か外がうるさいと思ったらアレが飛び回っててさ!」

 

「ドクターヘリ……ではないな! ではあれは敵か!?」

 

「――――いいや、味方だとも!!」

 

まだ降下しきっていない減りの扉が勢いよく開かれ、派手なタキシードに身を包んだ女性が半身を躍らせる。

あの宝塚を彷彿とさせる堀の深い顔立ちには見覚えがある、確かあれは忘れもしない武道館で……

 

「……なんであんたがここにいるんだ、キバテビのプロデューサーさん!」

 

「赤銅 音羽だ! 壮健で何よりだよ魔法少女諸君、まずは無作法で悪いが乗ってくれ、ヘリポートに下ろす時間も惜しい!」

 

ヘリからは縄梯子が降ろされ、それを見上げる俺たちの目の前まで垂らされる。

飛行中のヘリに縄梯子一つで乗れとは酷なものだが、魔法少女なら容易な物だろう。

変身を要求するという事は魔法少女の必要な事態だ、という事ではあるが。

 

「なに、ロウゼキと君達の局長から頼まれていたのさ! いざという時にアッシーになれるのは魔力がない私達のような人材だとね!」

 

「き、局長さんが……? そこまで手配してくれてたんだぁ……」

 

「ブルーム、アッシーってなにカナ?」

 

「まあ、タクシー役ってことだよ……とにかくこいつは渡りに船だ」

 

《ヘリですけどね、あはは》

 

小粋なジョークを飛ばしてくれた相棒を軽く小突き、変身用のアプリを起動する……が。

 

「――――待って欲しいっす!!」

 

呼び止める声に、アプリをタップする指が止まる。

後ろに振り返ると、屋上に繋がる鉄扉を開け、肩で息をする花子ちゃんの姿があった。

 

「じ、自分も……行くっす! お姉ちゃんの仇を、取ってねえっす!」

 

「……ブルーム、あの子も魔女?」

 

オーキスの問いに頷きで応える。

アンサーたちに比べて花子ちゃんの顔色はまだまだ元気だが、この先いつまで持つかも分からない。

 

「じゃあ駄目だねぇ、足手まとい予備軍連れて行く余裕はないかなぁ」

 

「ソダヨ、フラワーガール。 あんたは私と一緒に留守番だヨ」

 

「で、でも……!」

 

「花子ちゃん、気持ちは分かるけどここから先は気持ちだけじゃ戦えない。 魔女である以上、君もいつ倒れるか分からないんだ」

 

向かうのは敵の本拠地、東京。 ただでさえどんなイレギュラーが起きるか分からない場所。

そんな所に花子ちゃんを連れて行って守り切れる自信がない、というのが素直な本音だ。

 

「おーい! 状況は分からないがそっちの子も魔法少女かい? とにかく早く乗ってくれー!」

 

「いや、この子は……」

 

「…………分かったっす」

 

すると、花子ちゃんは俯いたまま一歩引き、そのまま身を翻して階段を駆け下りて行った。

 

「コルト、お前は?」

 

「さっきも言ったでショ、魔石の在庫が足りないからお留守番だヨ。 こっちの守りが手薄になっても問題だしネ」

 

「そうか……無理はするなよ、この街の事は任せた」

 

「オーケィ、そっちも死ぬんじゃないヨ!」

 

「それと2人は……」

 

「「もちろんついて行く」」

 

「だよなぁ」

 

コルトと別れ、あらためてスマホの画面をタップする。

東京へ向かうメンバーはシルヴァ、オーキス、そして俺の3人。 以前ほどの賑やかさはないが、実力は確かなメンバーだ。

 

「―――――変身!」

 

……しかし、思ったより花子ちゃんはあっさりと退いてくれたな。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

濃い魔力に当てられてひりつく肌が、東京へ近づいてきたことを教えてくれる。

角飾りを撫でる温く湿った風はこの先に待ち受ける舌なめずりのようだ、正直な話をするならば二度と行きたくはない場所だった。

しかし今さら踵を返して戻るわけにもいかない、私の行動一つに多くの魔女の命が掛かっているのだ。

 

「……さて」

 

変身したままほぼ夜通しの疾駆により、辿り着いたのは東京を囲う巨大な外壁。

始まりの10人が作り上げたこの壁も、東京の脅威が鳴りを潜めた以上、時期に不要となるのだろう。

まあ、魔力に汚染された土壌が回復するまでにどれほどの年月がかかるのか分かったものではないが。

 

「とにかく一人だとどうやって入りましょうかね、この壁……」

 

「――――ああ、やっと来たし」

 

抜刀し、声が聞こえてきた方から大きく距離を取る。

神経は研ぎ澄ましていた、だが気配はなかったはずだ。 一体どこから?

 

「構えんなし、今戦りあうつもりはないないよ。 つかマジで気立ってんなアンタ」

 

「……ヴィーラ? 何故あなたがここに?」

 

身の丈以上の巨大な槌を肩で担ぎながら、こちらに歩いて来るのは見覚えのある魔女だった。

だがここは東京だ、東北に居るはずの彼女がなぜ――――その疑問も、ローレルの存在を思い出せばすぐに紐解けるものだった。

 

「なるほど、魔女は魔女らしくローレルに従っているという訳ですね」

 

「……その話は二度とするなよ、潰すぞ。 アタシがここにいるのはあんたの見送り兼見張りだよ」

 

すると、ヴィーラは肩に担いでいた槌を構え直し、手慰みの如く片手で旋回させ始める。

まるでペン回しでもするかのような手軽さで振り回される槌は、徐々に加速しながら足元の砂埃を巻き上げ始める。

 

「アタシの魔法は“拒絶”、だからこういう壁には相性いいってわけ――――ッしょっ!!」

 

「なっ―――――!?」

 

そしてそのまま遠心力に任せ、振り抜かれた槌は東京を覆う壁を容易く打ち砕いた。

人一人……いや、10人は軽く通れるような大穴だ。 再生能力があるはずの壁は一向に塞がる気配を見せない。

 

「っし、ちょっとスカッとした。 ほらいけし、アタシの力で拒絶しても長くは持たないからな」

 

「……あなたは、あなた達は何が目的なんですか」

 

「仲間を人質に取られてるだけだよ、ローレルのクソッカスに心底従ってるわけじゃない。 ……だからあいつもあくまで大事な役割は私には任せちゃいないよ」

 

仕事を終えたと言わんばかりの彼女はもはや私には一瞥もせず、壁に背を向けて地平線を眺めている。

おそらく彼女に任せられた仕事とは、私の迎えと……必ず追って来る、ブルームスターたちの迎撃だ。

 

「そうですか、自業自得ですから同情はしません。 ……私の仲間は強いですよ」

 

「負けるつもりはないし、あんたもローレルをシバく気ならさっさと先に行きな」

 

「ええ、さようなら」

 

ここで彼女と争えるほど魔力に余裕はない、癪ではあるがローレルの思惑通り、ブルームスターたちはヴィーラと交戦することになるだろう。

遅れてやってくる仲間の武運を祈りながら、私は二度目の東京へ足を踏み入れた。

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