俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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Re:東京事変 ④

いやな空気だ。 天高くそびえる壁に阻まれ、淀んだ空気。

しかしそれだけではない、廃墟や瓦礫の陰からこちらを窺うような視線を感じる。

確実に私以外の魔法少女……いや、魔女が隠れている。

 

大方、ヴィーラと同じくローレルが招集した魔女か。 彼女達もまた何らかの弱みを突かれ、この東京にやってきたのだろうか。

数はそれほど多くはない、つまりは少人数でも問題ない精鋭たちが揃っているという事だ。

向こうから手を出してくる気はなさそうだが、彼女達の役割は後からやって来るブルームスターたちの足止めだろう。

 

「………………」

 

一瞬、先に打ち倒しておくべきかという思考が過る。

ローレルに当てられる余力を考えながら、総数も分からないような敵の戦力を削る、果たしてできるだろうか。

 

「――――随分と怖いことを考えているわね、ラピリス」

 

鯉口を切り、声の主に視点を定める。

見る影もなく荒廃したビルの屋上からこちらを見下ろす影がある、嫌がらせのようにジャージの上に羽織ったクシャクシャの白衣という()()()()()のいで立ちで。

 

「あなたほどではないと思いますよ、ローレル。 一体ヴィーラたちをどうやって脅したんですか?」

 

「ふふふ、心外ね。 私はちょっとお願いしただけよ?」

 

「……外道め」

 

刀を握る腕に力が籠る……が、同時に周囲から向けられる視線が一層強くなる。

今ここで本体かも分からないローレルを斬り伏せた瞬間、集中砲火を浴びるだけだ。

ローレルとの距離は遠い、こちらの手の内を知り尽くしているからこそ、相手もギリギリの間合いを保っている。

 

「今は奥の手の遠当てを使おうかお悩み中かしら?」

 

「さて、どうでしょうかね」

 

ローレルの指摘通り、抜いた刀を収めれば音の速度で奴の首は跳ね飛ばせる。

が、どうせまた植物で作った偽物が関の山だ。 魔力の消費が激しい大技を抜いてやる必要はない。

 

「あらあら、可愛くないわね。 でも聞いてちょうだい、なにも集まって来たのは私がお願いした子ばかりではないのよ?」

 

「でしょうね、無理矢理連れてこられた割には血気盛んな者も混ざっているようですし」

 

背後と右の建物の陰、それと上空からチラチラとこちらを挑発する魔力を当ててくる気配は既に察している。

ローレルの目があるからか、あくまで向こうから手を出す気はないようだがこちらが仕掛ければ喜んでかかってくる気だ。

だからこそ、ここで戦火を交えるのは得策ではない。

 

「魔法少女たちには分からない感覚かもしれないけど、あなたたちの存在や魔法に憧れる子は少なくないのよ。 自分も超常の力を思う存分振るってみたい、とね」

 

「くだらないですね、こんな力なんて初めから無ければよかったんですよ」

 

「ふふふ、そうかしらね? まあこんな所で話をするのもね」

 

ローレルが指を鳴らすと、私の足元から青々しい草木が萌え、緑を絨毯を敷くように道を作っていく。

ご丁寧な案内だ、これに沿って進めというわけか。

 

「話の続きはまた向こうで顔を合わせてからにしましょう? お互いに積もる話もあるでしょうから」

 

「あなたは私をどこに連れて行く気ですか?」

 

「さあて、道を辿ればわかると思うわ」

 

……退路はない、ひび割れたアスファルトの上に敷かれた緑の絨毯は嫌味なほど親切に道を照らしている。

選択肢はもとよりない、他所の道の先が地獄に続いていようとも私は進まなければいけないのだ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……ここまでか、流石にこれ以上は接近できないな」

 

「ああ、肌がひりつく。 元魔法少女ではここまでが限界かな」

 

遠近感が狂う壁が見えてから十数分、東京までおよそ数百mのところまで来ただろうか。

魔力には疎いけどそれでもわかる、やはり東京の周囲は以前として濃い魔力が漂っている。

 

「無理はしないでください、ここから先は俺たちだけで行きます」

 

「ああ、任せた。 ただしムリはするな」

 

「状況に応じて前向きに善処します。 ……シルヴァ、本当にいいのか?」

 

「う、うむ。 我はもう迷わぬぞ、ローレルの行いは許せない」

 

決意の籠った瞳でシルヴァはペンと本を握り締める。

シルヴァが選んだのはローレルとの敵対、情も迷いも捨てたうえで敵として倒す道だ。

 

「なので、倒したうえできちんとその罪は裁くべきだ。 ……中途半端かもしれないが、これが我の答えだ」

 

「なに、自分で決めた答えならきっとそれが正しいんだ。 だから――――」

 

「――――待って、皆避けて」

 

言うや否や、オーキスに突き飛ばされ、ヘリの壁に身体を押し付けられる。

そして間髪入れずにオーキスはヘリの床と天井をカミソリで切開――――した瞬間、真下から跳んで来たボーリング玉サイズの瓦礫が、切り口を綺麗に抜けて彼方の空に消えて行った。

 

「ほわぁー!? な、何事だぁ!?」

 

「落ち着いてぇ、シルヴァちゃん……敵襲だね、さっさと降りるから距離を取った方が良いよぉ」

 

「分かった、敵の姿は見えるか?」

 

「いや……丁度こんな攻撃してくる奴には心当たりがある……!」

 

オーキスが開けた斬り口が閉じる瞬間、殺風景な地上からこちらを見上げる少女の姿を見つける。

身の丈に余る巨大な鉄槌を軽々しく担ぐ姿に今の石礫を飛ばす攻撃、十中八九間違いない。

 

「ヴィーラ、なんでお前がここにいるんだよ……!」

 

出来れば二度と戦いたくはなかった、魔女の名前を苦々しく噛み潰す。

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