「AHA! 凄い、避けた避けた!」
拡大スコープで補足した二人の魔法少女は、間一髪でこちらの狙撃を躱したらしい。
凄い凄い凄い。 なんでバレたのかは分からないが、流石だ。 初めて攻撃を外してしまった。
「そう来なくっちゃね魔法少女! 次はどんな技を見せてくれるのかなぁ!」
再びスコープを覗く。 たとえ遮蔽に隠れようともモニターを切り替え、
ビルの陰に隠れたシルエットが1人、2人いたはずだが散り散りに逃げたのだろう。 それは
誰もこの魔女の包囲網からは逃げられない、1人ずつ確実に仕留め――――
「―――――なるほどねぇ、ジェットパック型の杖ってところかなぁ」
「…………はっ?」
背後から聞こえるはずもない声を掛けられ、首筋には鋭い刃が添えられる。
……モニターが捕らえた影は確かに一人だ、だがありえない。 ここは中空だ。
それに姿も見せていない私をどうやってこの短時間で見つけ出せた?
「と、東京はさぁ、隅から隅まで知ってるんだよぉ。 あの位置取りで狙撃に使えそうなポイントなら大体知ってるよ」
「……そ、空を飛べるなんて……聞いてない……っ!」
「シルヴァに魔術を掛けてもらった、障害物は私の魔法で全部無視できる。 駄目だよぉ、腕はいいのに、獲物の前で舌なめずりしたらさぁ」
首筋を湿らせる暖かい液体は汗なんかじゃない、薄皮一枚切られた傷口から鮮血が染み出している。
高をくくっていた、バレるはずがないと。 本物の魔法少女達を侮っていた。
「た、助け……」
「んー……その装備、なんだっけ? 見覚えがあるんだよねぇ、名前が何だったかなぁ、始まりの10人の中で古い方の……」
「ふぃ、フィス! 後天型の魔法少女として初めて“チェンジャー”を使用した、その魔法少女の力が私に込められている!」
そうだ、ローレルは言っていた。 私達は特別に適合した魔女だと。
私に込められているのは史上最多の装備数を誇ったといわれる、魔法少女の杖だ。
「わ、私に与えられた力は特別な物で、そこらの
「だからゲーム感覚で人撃ってもいいんだぁ」
「……ち、ちが――――ギャッ!?」
私の意識は、予兆も無く振るわれたカミソリによって一瞬で刈り取られた。
――――――――…………
――――……
――…
「あー……全員が全員これだけ楽だと良いのになぁ」
運が良かった、狙撃スポットはいくつかあたりを付けていたがまさか1つ目で当たりを引くとは。
おかげで相手に勘付かれる前に素早く背後を取れた、この物量に物を言わせて絨毯爆撃を喰らっていたら流石にちょっとだけ面倒くさかった。
「殺してはいないよぉ、ブルームに怒られるからねぇ……ふへっ」
腕の中に抱いた魔女はぐったりと脱力し、ひっぱたいても起きる気配が一切ない。
あくまで峰打ちのつもりだったが、殺されたと思ったのか当の本人は泡を吹いて気絶している。
正直起きてくれないと手に余る、かといって放置するのも寝覚めが悪い。
「し、仕方ないなぁ。 一度シルヴァのとこまで戻っ―――――」
僅かな違和感を察知し、反射的にそれを回避できたのは常日頃死線を潜り抜けて来た経験則に他ならない。
間一髪で躱した黒い何かはそのまま上空の雲の中へと消えて行った、一瞬だが視界にとらえた姿は細長い蛇のようにも思える。
「……悪役らしいなぁ、今の攻撃」
追撃は飛んでこない。 あらためて地上を見渡すと、隠れもせずビルの屋上からこちらを見上げる魔女を見つける。
動きやすそうなレザーアーマーに派手な紫色の頭髪、刃を備えた長い杖を肩に担いで不遜な笑みを浮かべている。
心象風景が反映される衣装に“遊び”がない辺り、あれはローレルの命令を聞いている類ではない。
「さ、誘われてるなぁ……うーん」
万が一地上のシルヴァや、追って来るはずのブルームたちと衝突すると被害は軽微じゃすまなくなりそうだ。
手ごろなビルに狙いを定め、抱えた魔女を投げ捨てる。 悠長に降ろすのも待ってくれるか怪しい相手だ。
「いいよぉ、相手になる。 ちょっと私と遊ぼうか」
――――――――…………
――――……
――…
「……10分過ぎても追撃が来ない、やったのだな……!」
オーキスが狙撃手を倒しに向かってから10分が過ぎたが、先ほどのような爆撃は一切飛んでこない。
彼女の実力を信用するなら、姿が見えない狙撃手を倒してくれたのだろう。
流石東京を生き抜いた魔法少女、地の利を得た戦場で魔女に遅れは取らない。
「しかし、まだ戻らぬのか……? そろそろ浮遊の術も切れる頃合い――――」
息を殺した独り言を遮り、封鎖された東京に鈍い剣戟音が鳴り響く。
まさか魔女同士の仲たがいでもあるまい、十中八九この音はオーキスの戦闘によるものだ。
「っ―――! 戻る前に絡まれたか!?」
オーキスの魔法なら離脱も容易に思えるが、相手もそれを容易に許さない相手だということか。
どうする? 助けに行くか、ここで大人しく待つか。
単身で魔女と遭遇してしまえば、私一人で勝てるか怪しい。 盟友たちに余計な負担を掛けたくなければサポートに徹するのが無難だ。
「だが、ここで指を咥えて見ていられるものか―――」
「―――――見つけたぁ!!」
「へ……? ほわぁ!!?」
断続的な銃声が響き、足元のコンクリートがはじける。
慌ててビルの陰に隠れるが、それでも銃声は鳴りやまない。 顔を出す暇もない弾幕が放出され続ける。
「うぐ……ぐず……! 出てこい魔法少女ぉ!
「は、はわわわわ……」
心臓が早鐘を打つ。 恐らく銃を撃っているのはまだ覚悟が決まっていない魔女だ。
しかも状況は1対1、こちらは助けがやってくる見込みは少なく、相手は状況が長引けば他の魔女たちも集まってくるかもしれない。
……万事休す、かもしれない。 私はこの状況を生きて切り抜けられるのだろうか……?