俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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東京都内激戦区 ①

「―――――祭りの相手はアンタでいいか?」

 

ああ、強いなこの子。 この距離で相対してあらためて感じる。

構え、立ち振る舞い、ざっと見た限り変に力が入っていない。 自然体だ。

この状況を気負う事も無く、かと言って驕ってもいない。 心象が力として宿る魔法少女にとっては理想的な精神性だ。

 

「い、一応確認だけどさぁ……無理矢理従ってる子じゃない、よね?」

 

「何を、ただこのどうしようもないムシャクシャを晴らしたくて」

 

「やっぱりかぁ……ちなみに、魔法少女名は?」

 

「そんなものが戦いに必要か?」

 

これは私の持論ではあるが、優秀な魔法少女の条件とは“心のネジが吹っ飛んでいること”だと考えている。

たまにいるのだ、彼女のように生まれた時からどこかイカれている“怪物”が。

彼女に先天的な魔力の才が備わっていなかったのは幸か不幸か、後天的な(チャンジャー式)魔法少女であればメンタルテストで振り落とされる。

 

「魔法少女になれなくて魔女の誘いに乗った口かぁ……ローレルからはなんて?」

 

()()()

 

「だろうねぇ……私も、あなたみたいなタイプは好き勝手暴れさせるのが良いと思う」

 

弧を描くようにカミソリの先端をひっかけ、足元のコンクリートを削ぎ剥がす。

同時に、先ほどと同じように飛んで来た黒い何かがコンクリートの膜に衝突した。

薄皮一枚の厚さに受け止められたそれは、シュウシュウと音を立ててコンクリートを焼き溶かす。 やはり「毒」か。

 

「不意打ちなんてしつけがなってないなぁ……それに殺意も十分だぁ」

 

「はっ! 面白い、お前が相手ならこのムシャクシャも少しは晴れそうだ」

 

「吠えるねえぽっと出がさぁ……いいよぉ、悪人は悪人同士相手に――――」

 

なろうか、と言うより早く再三の毒が飛んでくる。

正確に一射目の毒で溶かした穴を狙った射撃、上体を捻って躱してようやく攻撃の正体がつかめた。

相手の背後……正確にはその影から顔だけ覗かせてこちらを狙う魔物がいるのだ。

 

「――――魔物を従わせる、魔法少女パイロンを模した魔法かなぁ?」

 

「知らん、今は私が使っているんだから私のものだろ」

 

「そりゃごもっと――――も!」

 

片足で跳ね上げたコンクリート片を蹴り付ける。

防御膜のついでとして鋭利な形で削ぎ取っておいた板切れ、当然私の魔力が込められたそれは相手の頬を掠め、旋回しながら屋上階下へ消えていく。

彼女頬にはカッターで切られたような鋭利な傷口が刻まれ、鮮血がしたたり落ちる。

 

「お・か・え・し……ふへっ」

 

「……ふふふ」

 

「ふへへへ……」

 

「「――――あっははははははは!!!」」

 

ああダメだ、こんなところブルーム達には見せられないや。

やっぱり私は根っからこういう性分なんだなぁ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「うおおおおおおおお待てえええええええええええ!!!!」

 

「い、いやだああああああああああああああああ!!!!」

 

銃撃者との攻防は醜い鬼ごっこへと発展していた。

直線状に身体をさらすと容赦なく弾丸が飛んでくる、走りながらの闇雲な射撃だから運よく命中を避けられているが、このままではいつ当たるかも分からない。

 

「お、おちつけ赤い魔女よ! 我を倒したところで何も状況は解決しないぞ!?」

 

「うるさい、そんな黒くて悪そうな格好をした奴の言う事なんて信用できるか!」

 

「我心外!!」

 

完全に錯乱状態で交渉の余地がない。 しかしこのまま追いかけっこを続けていたら、先に限界を迎えるのは体力がない我の方だ。

だがひとつ、不幸中の幸いがあるとすれば……

 

「――――いた! いたわ、魔法局の魔法少女がこっちに……」

 

「邪魔だぁ!!!」

 

「へっ……うぎゃあああ!!?」

 

こうして、時折エンカウントする他の魔女を倒してくれることだ。

突き当りでばったり出会った名も知らぬ魔法少女が着弾と同時に爆発、死んではいないが気は失っている。

お蔭でこの赤い魔女が扱う魔法についてもその性質が見えて来た、とてもピーキーなものだ。

 

「ふー、ふー……! クソ、タロットの引きが悪い……!」

 

拳銃型の杖にセットされたカードの束がある、時おりタイミングを見てカードを引き抜いては、拳銃の背に刻まれた溝に通しているようだ。

そのたびに撃たれる弾の軌道や種類が変わっていく、おそらく引き抜いたカードの種類に対応しているようだが、本人も何が引けるかは完全にランダムらしい。

 

「使い勝手……悪いのでは……?」

 

「そ、そんな事ない! 凄い奴引けば凄いんだぞ! 見てろ……って待て! 見ろ、見てろ!」

 

立ち止まってガチャガチャ杖を弄る赤い魔女に振り返りもせず、今が好機とばかりに距離を離す。

相手の魔法はおおよそ理解した、何が出てくるか分からない恐ろしさはあるが、私が紙にペンを走らせるように発動の隙があると分かっただけで十分。 射線を切るため、突き当たりの角を曲がる。

 

「ゴルドロスよ……お前の知恵、使わせてもらうぞ!」

 

「待て! 待――――みぎゃー!?」

 

私を追って角を曲がった赤い魔女が爆煙に包まれる。 私が角を曲がった直後、死角となる壁面に魔力を書き込んだ紙を張り付けておいたのだ。

だが今仕掛けたのは威力はないこけおどしの音と煙だけのもの、なぜなら今彼女に倒れてもらっては困る。

正直、私だけで何人いるかも分からない魔女たちを相手取る力はない。 だから相手の力を利用させてもらう。

 

「あっち! 今何か聞こえた!!」

 

「魔法局が来たか、私が相手だ!!」

 

「ゲッホゴッホウォェ!? くっそ、何も見えなーい!!」

 

思惑通り、隠れていた魔女たちが今の音と煙に釣られて集まって来た。

さあここからは正念場だ、幸いにも死角の多い地形に、この東京は以前に足を踏み入れた分だけ地の利は私にある。

 

「ご、ゴルドロス直伝ゲリラ戦術……今こそ、実践の時である!」

 

大丈夫だ、オーキスは必ず戻って来る。

だから私は私がやるべきことを―――――少しでも、仲間への負担を減らすのだ。 

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