俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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蛇蝎の如く ⑩

……思えば、この自爆も「炎」による攻撃だ。 うっかりしていたが魔術師の補正が掛かる。

そのうえ、きっちり2回分発動した塔は両方とも適用されるらしい。 以前に使った時よりも激しい爆発だった。

密閉空間で塔×2と怪物の自爆が重なったのだ、効果範囲内はもう煤けた更地と化している。

 

「い、生きてるか……生きてるのか私……?」

 

「ま、魔法少女は……自分の魔法に強い耐性ができる……そのおかげだな」

 

全身が筋肉痛の100倍痛いが、意識はある。 少し意識を失っていたのか、横たわる私の顔をシルヴァが覗き込んでいた。

彼女は肩で息をしながら、その表情は怒りとも悲しみともつかない感情でぐしゃぐしゃになっていた。

 

「今治療をしている、我が出来るのはあくまで自然治癒力の加速だ。 痛みは続くが耐えてほしい」

 

「えっ、ちょ、まさかこの痛みって治療のせいかぁ!? あっだだだだだ!!?」

 

「動くなと言ってるだろう馬鹿! 全身がちぎれても知らぬぞ!!」

 

「えっ、千切れるのか私!? あっ、そうだあの怪物は!?」

 

私がこうして生きのこっているのならあいつも生きてておかしくはない。

生死を確認したいが、今は体を起こすのも難しい状態だ。

すると、シルヴァがそっと私の身体を支えてゆっくりと半身を起こしてくれた。

 

「……見ての通りだ。 内側が外側より脆いという予想は大当たりだったな」

 

「うひっ……」

 

そこには私と同じように横たわった怪物の体があった。 

……1つ違う点を上げるとすれば、その上半身が綺麗に吹き飛んでいることだろう。

愚者の力によって互いに暴発した魔力は、見事に奴を打ち取って見せた。

 

「……こ、ここから生き返るって事はないよな?」

 

「すでに消滅が始まっている、ここから再生したという例は我も聞いた事がないぞ」

 

「そっか……そっかぁ」

 

倒した。 99%自爆に近い、シルヴァの助けがなければ絶対にたどり着けなかった結果とはいえ、私が魔物を倒した。

酷く不格好な結末だが、これが私の身の丈という事だろう。 

半人前以下の、魔法少女にもなれない、魔女が成し遂げた功績にしては上出来だ。

 

「え、えっと……それはそれとして、怒らないのか?」

 

「……何をだ、こうして目下の脅威は排除されたのだぞ」

 

「いや、そのぉー……自爆しちゃったこととか、魔女になっちゃったこととか」

 

「…………我は、其方が自爆すると分かっていながらその背を押してしまったのだ、共犯だ。 怒る資格などはない」

 

「いや、それは私が独断で走った結果だし……?」

 

「それでもだ、私の力不足だよ。 ただ独りで倒せるほどに強ければこんな無茶はさせなかった」

 

「そ、それは前提が無理難題すぎる……」

 

あれを1人で問題なく倒せる奴なんて、それこそあの魔法少女ロウゼキぐらいじゃなかろうか。

責任感が強いなんてもんじゃない、魔法少女というのはこんな理想を抱えて、叶えて行かないといけないものなのか。

 

「……って、そうだ! ミズチの奴はどうなった!?」

 

「待て、急に立つのではない! 以前のケースに倣うなら対となる魔物が消える事で……おそらく杖は砕けていると思われる。」

 

「マジか! それならもう安心だなぁ……」

 

怪物は消滅し、その飼い主も共倒れだ。 目前の脅威はこれで去った。

他の魔女たちもあの怪物どもに結構な数薙ぎ倒された、残っているのは一握りの運がいい奴らだけだろう。

 

「……シルヴァ、あのカミソリお化けに合流しろ。 私は見ての通り動けない」

 

「何を言う、こんな所に放置しておけるか。 一緒に行くぞ」

 

「駄目だ、()()()()()()

 

「…………っ!」

 

あの爆発の中でも私の手に握られていた銃をシルヴァに見せる。

深紅に金の装丁が加えられた上品なデザインは、見るも無残に刻まれたヒビのせいで台無しになっている。

「塔」による爆発は私の肉体に致命的なダメージを与えなかったが、どうやら杖は別らしい。

 

「よく分からないけどなぁ、魔力の深いところにダメージを受けたんだなって感覚がある。 きっとこれも時間の問題だ」

 

「……直す。 直して見せる、私が」

 

「駄目だ、どうせ私はすでに魔力がからっけつなんだぞ。 治療したってお前が戦えなくなるだけだ」

 

「だけど……だけど……っ!」

 

シルヴァが言葉に詰まる、本人も分かっているはずだ。 私の治療に意味がない、ただのエゴだと。

それに人体ならともかく、杖が直るなんて保証はどこにもない。 直せるものなら他の魔女だって救えたはずだ。

理解したうえでシルヴァは「だけど」と言っている。 非合理的な優しさ……ああそうだ、これが魔法少女なんだ。 私達が憧れた皆のヒーロー。

 

「……行ってくれよぉ、シルヴァぁ……わ、私だって怖いんだぞ! 本当は助けてって泣いて縋りたいんだぞ!!」

 

「だから助けると言ってるではないか!」

 

「駄目なんだよそれじゃぁ! 直らないし時間の無駄なんだってば、お前は! 元凶を倒さないと駄目なの!!」

 

「元凶を……」

 

シルヴァが私の言葉を反芻する。

 

「そうだよ、私達を魔女に誘った悪い奴がいるんだろ! 倒してくれよ、私みたいな馬鹿がまた問題起こさないうちにさ! 頼むよ、魔法少女……!!」

 

気づけば私の頬を熱い涙が伝っていた。

それはこの状況でなお頼む事しかできない情けなさか、杖が砕けかかっている恐怖か、それとも無力な自分への悔しさか。

歯の根が合わない、腕が震える。 それでも、涙でぼやけた視界でもシルヴァが私を真っ直ぐに見つめ変えていることは分かった。

 

「……ああ、分かった。 必ず起こす、だから今は眠っていてくれ」

 

「うん、うん……頼むぞ、頼んだぞぉ……怖いんだ、助けて……!」

 

「――――絶対に助けるとも、魔法少女バレッタよ」

 

ああ、その名は……私にはもったいない。

けど……最期になるかもしれないけど、いい夢が見れたなぁ

 

 

何かが砕ける音と共に、私の意識は遠のいた。

さようなら、大嫌いな私。 少しだけ、私はヒーローになれたぞ。

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