俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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蛇蝎の如く ⑪

自分の中で致命的な何かが砕けた感覚がする。

確証はない、だがあのデカブツと繋がっていた何かが今確かに千切れ、消え失せた。 

同時に、体中にみなぎっていた魔力が穴の開いた風船のように萎んでいく。

 

「……し、シルヴァちゃん達がやったんだぁ。 こっちが先だと思ってたんだけどなぁ」

 

「はっ……抜かせ、どの口が言う」

 

片膝をつき、見上げた視界は赤黒い。 

純白のドレスを鮮血と土くれで汚し、それでもまだギリギリ意識を失っていないオーキスが、数歩先で私を見下ろしていた。

 

「どっちもどっち、だね。 まあ最後は私が競り勝ってたけどさぁ」

 

「虚勢も、そこまで言えるなら……才能か」

 

全身が酷く痛む。 切り傷が無数、オーキスに“張り付け”られた毒液、骨も何本か折れている。

腹立たしい。 全身を苛む激痛が、動かぬ体が、私より先にくたばったあのデカブツが腹立たしい。

 

「……すごいね、まだ意識を保ってるんだ。 杖も砕けかかっているのに」

 

「なに、を……あいつがくたばったぐらいで、何が変わる?」

 

「ミズチ、あなたの魔法は使役した魔物とリンクしている。 魔物が倒された今、あなたの末路は他の魔女と同じ」

 

オーキスがカミソリにへばりついた血痕や毒液を振り払い、こちらへと歩み寄る。

 

「魔女が引き出せる出力はどうしたって魔法少女に劣る、何のリスクも無く魔物を従えるなんて……それこそ本物の魔法少女でもないと無理だねぇ」

 

その瞳はどこか懐かしい、遠い何かを見ているようだった。

……腹立たしい、目の前にいる私を見ろ。 お前の相手を見ろ。 倒すべき魔女を、お前は見るべきなんだ。

 

「……死ぬのか、今から」

 

「降伏するなら受け入れる、でも抵抗するなら……斬り捨てる」

 

カミソリの切っ先が私の頬に当てられる。 少し触れただけで薄く裂けた傷口からはまた新たに血が零れ始める。

抵抗の意思を見せれば、その瞬間にコンマも掛からず私の首は胴体を離れるのだろう。

 

「魔法少女が……殺すのか?」

 

「殺すよ、慣れてる。 私の仕事はね、ちゃんとした魔法少女たちが出来ない仕事をすることだから」

 

その瞳には迷いはない、冷たい眼光が突き刺さる。

 

「失望されたっていい、あの子たちが光の中を歩くためなら――――私は暗闇の中で手を汚す」

 

「そうか、くだらないな」

 

一瞬の間を突き、振り上げた刃の切っ先を見届けぬまま――――私の意識はそこで終わった。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「―――――それぐらいはしてくると思った、あなたは強いから」

 

ミズチと名乗った魔女の変身が解けていく。

意識こそ完全に刈り取られているが……その首は未だ胴体と繋がったままだ。

その傍らには柄から先が切断された彼女の杖が転がっている。

 

「死んでも構わない……いや、自分の生死はどうだってよかったんだ。 最後の最期まであなたは自分の命を顧みないと思った」

 

捨て身の攻撃であろうと、来ると分かっていれば対処は可能だ。

あの瞬間、斬り捨てたのはミズチの首ではなく、魔女の弱点である杖そのもの。

躊躇ったわけではない、必要であれば私は彼女を殺しただろう……ただ、()()()()()

 

「殺してあげないよ、死んでも良いやなんて思ってるなら満足な最期なんて与えない。 決して満たされず、何もないまま生きてしまえ」

 

とはいえ、このまま放置すれば変身が解除され、高濃度の魔力を浴びてお陀仏だ。

そうなる前に彼女との合流が必要になる。

 

「……そっちも何とか生き残ったみたいだねぇ、お互いボロボロだけど」

 

「うむ……なんとか、な」

 

瓦礫を押しのけ、戻って来たシルヴァが素早く書き込んだ紙きれをミズチに放り投げ、その身体を保護する。

彼女の目元は泣きつくしたように赤く晴れている、原因は十中八九背中に負ぶったバレッタだろう。

彼女も変身が解除され、ゆりかごじみた防護膜に守れられたまま安らかに眠っている。

 

「……それ、どうしたの?」

 

「バレッタ、は……巨大な魔物と相打ちになり、杖が砕けた。 生きてはいるとも」

 

「そっかぁ、それは彼女の意思?」

 

「ああ、彼女もまた勇敢な魔法少女だった」

 

作戦の前、分かれる寸前の勘所の顔を思い出す。

とても勇敢という言葉が似つかわしくない、涙と鼻水にまみれた臆病な顔だった。

しかし今の彼女の寝顔は、同じ涙に濡れた顔だが自信と誇りを感じる。 この短い時間の間に何があったのだろう。

 

「とにかく、一度治療が必要だ。 出血多量で死んでしまうぞ」

 

「ああ、うん。 傷口なら問題ないんだよねぇ」

 

傷口に剃刀の刃をあてがい、そのまま滑らせる。

そのまま皮膚の表面を引っぺがすと、下からは傷口がない真新しいし皮膚が顔を覗かせた。

ちょっと痛いのが玉に瑕だが、我ながら珍奇な魔法だと思う。

 

「出血量は誤魔化せないけどねぇ……シルヴァの治癒も、一緒でしょ?」

 

「う、うむ……あくまで自然治癒力の促進でしかないのでな。 動けるか?」

 

「ちょっとふらつくけど、大丈夫……だけど、互いに抱えたものが多いね」

 

杖が破壊されたことで戦闘不能になった魔女が3名、放置するにも抱えたまま進軍するわけにもいかない。

もしローレルと接敵したなら、奴は間違いなくこの瑕疵を突いて来る。 

そうなれば私達だけではなく、彼女達の命も危険だ。

 

「遠回りになるけど、一度ブルームスターたちと合流しよっか……この子たちも避難させないと」

 

「うむ、それはそうと……見てほしいものがあるのだが、良いか?」

 

「……? 見てほしいもの?」

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