俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ヴィラン ①

始めはただのやつあたりだったんだ。

子供を放ったまま知らない男と酒飲んで、笑って、朝になって帰って来る母親が嫌いだった。

いつしか「お母さん」なんて呼べなくなって、悪態ばっかついていた。

 

「オ……ッラァ!!」

 

お前がちゃんと見てないせいだって言いたかった、檻の中からざまあ見ろって言ってやりたかった。

……今ならわかる、私はただかまってほしかっただけだ。

始めはそんな下らないわがままでしかなかった。

 

「ハァ……ハァ……クソ……!」

 

少しずつ、同じような連中が集まって来て事情が変わった。

本当はもっと賢い手段があったと思う。 だけど私達は馬鹿だからさ、こんな手段でしか自分の言いたい事が言えなかったんだ。

愛してほしかった、振り向いてほしかった、助けてほしかった、認めてほしかった、自分じゃない誰かになりたかった。

 

皆が皆憧れた星の数だけ、泥の中に沈みながら空に手を伸ばしてた。

だけど誰も何も言ってくれないと、皆溺れちまうから……私が皆の手を引っ張ってたんだ。

 

「――――こんなもんかよ、魔法少女!!」

 

「チィ、なんやねん! 1vs2だってのによう粘りよるわ!」

 

電撃を纏った斧を弾き飛ばす。 槌を握る腕にミシリと熱い痛みが走った。

振るう力に魔女の身体強化が追いついていない。 体中が悲鳴を上げている。

だけどそれがなんだってんだ、頭数で負けていようが負ける気がしない。 負けるわけにはいかないんだ。

 

「ヴィーラ、通してくれ! 俺たちはこの事件を終わらせたい、そうすれば――――」

 

「――――うっさい、そんなの望んじゃいない!!」

 

何故かやけに癇に障る魔法少女の説得を槌の一振りで遮る。

本当にどうしてかわからないが、あいつが喋るとやけに腹が立つ。

知らないはずなのに、初めて会うはずなのに、なんであいつの泣きそうな顔を見るとこんなにむしゃくしゃするんだろう。

 

「……パニオットは私が助ける、ローレルは私が倒す! あんたらに一切手出しはさせない、魔女のやったことは魔女が蹴りを付ける!」

 

「――――あら~、その割には随分とローレルの言いなりになってるじゃない?」

 

……まただ、またあいつの格好が変わった。

乙姫を思わせる様な青いドレスと羽衣に、眠たげに垂れ下がった目じり。 あの青いの時は武器が竿のように変形する。

あいつになると立ち回りがねちっこくなるし、手口が狡くなるから嫌いだ。

 

「首輪付けられて出入り口を守って、与えられた力を振るって、最後には反逆してぶちのめせば解決だなんて甘い夢を見てる。 可愛いわね~」

 

「……挑発に乗る気はないし、気づいてないとでも?」

 

「あら~……釣れないわね」

 

拒絶の魔法で地面を抉り抜くと、その下から電撃を帯びた釣り糸が飛び出した。

食えない奴め、会話で気を引きながら地中から私の死角まで釣り針を伸ばすつもりだったんだ。

 

「分かってるよ、私の言ってることが支離滅裂なことぐらい。 だけどやらなくちゃいけない、()()()()()()()()()()()()()……!」

 

魔女になったのはいい気分だった、だからみんなに広めたんだ。

同じ穴に堕ちようと皆を誘ったのは私だ。 こんな私を信じてくれたみんなを先導した、魔女を広めて、チームを作って、かりそめの居場所なんて作ってしまったのは私なんだ。

だから私が責任を取らないといけない。 その役目まで魔法少女に取られたら私に一体何が残る?

 

「――――私から“責任”まで持って行くなよ、魔法少女!!」

 

「ヴィーラ――――!!」

 

今までで最大の力を籠め、大地を抉る。

巻き上げた土砂はもはや巨大な「壁」だ、10mは優に超える分厚い土砂の壁が2人の魔法少女を飲み込む。

退路はない、2人にも、私にも。 取り返しのつかない所まで進んだのは私の意思だ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

《マスター! こんな序盤で出し切るつもりですか!?》

 

「しょうがねえだろ、そうでもなきゃこれは止まらねえ!!」

 

≪BURNING STAKE――――IMPALING BREAK!!≫

 

掟破りの二重詠唱がスマホから鳴り響き、利き足に炎熱が脈動する。

襲い掛かる土壁は並大抵な攻撃じゃ破れるものじゃない、これはヴィーラの全身全霊が籠った一撃だ。

……文字通り「拒絶」の力、その根幹にあるヴィーラの心は何を思っていたのだろう。

 

「おい、パイセン。 これ破れるのか!?」

 

「やらなきゃ窒息か圧死するだけだ! 全力で行くぞ!!」

 

「オッケー、分かりやすい! 行くぜ行くぜ行くぜェ!!」

 

電撃と火炎が交錯する、それでも迫りくる土砂の一粒一粒に込められた魔力がこちらの進行を拒む。

拮抗――――いや、状況はこちらが一方的に押しとどめられているだけだ。

このままでは上から降り注ぐ土砂の質量に押し潰される。

 

「ああくそ、とんでもねえ! あいつ1人でオレたち2人分止めてやがる!!」

 

「……悪い、ちょっとだけ任せる!!」

 

「はぁ!? 何する気だ先輩!?」

 

一度蹴りを止め、左手を荒れ狂う土砂の中に差し込む。

凄まじい速度で巻き上がる石礫に巻き込まれ、一瞬で腕が切り刻まれるが関係ない。

 

「いっ゛……! 外からだめなら、内からこじ開ける……!!」

 

《マスター、無理です! 他の魔法少女の魔力が干渉した物品じゃ箒には……》

 

「注ぐ魔力が足りないってだけの話だろ!!」

 

触れたものを箒に変える魔法、この力は強い魔力や生物には干渉できない。

だが東京内の鉄筋などが変換できるのは確認済みだ、要はいつもより多めに魔力を注げばいい。

あとは気合いと根性、「出来る」というイメージがあれば魔法は答えてくれる。

 

「1粒1粒に込められた魔力は大したものじゃない、少しでいい……石礫の1つでも掴めればいいんだ……!」

 

何度拒絶されても構わない、そのたびに腕を伸ばすだけだ。

こんな自暴自棄な形でお前を終わらせない、独りよがりなけじめなんてつけさせない。

お前は忘れたかもしれないけどな――――俺は相当お節介を焼くんだぞ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

高く撒き上がった土砂が重力に引かれ、完全に2人を巻き込むまでそこまで時間はかかったわけじゃない。

ただ、私の体感時間で言えばかなり長かったと思う。

土砂に埋もれて窒息か、その前に拒絶の力と地面に挟まれて圧死。 苦しむ時間が短い分後者の方がまだマシかもしれない。

 

ともかくとして、私は魔法少女を殺したことになる。

 

「……なんだかんだ言って初めてだな、私は――――」

 

「――――なに勝手に終わらせてんだよ」

 

……土煙の向こうに炎が灯る。 茶色に染まった視界の中にで、毅然としたマフラーの白がはためく。

大っ嫌いな色、大っ嫌いな明かり、大っ嫌いな声。 どれもこれもが気に食わない。

ああそうか、やっとわかった。 私がお前を嫌いな理由。

 

まるでお前がヒーローみたいで、昔憧れた魔法少女にそっくり、なのに、なのに……

 

「……どうしたし、笑えよヒーロー……!!」

 

「笑えるかよ、馬鹿野郎……!!」

 

そんなズタボロになって、泣きそうな顔で私に何度だって手を差し伸べようとするから腹が立つんだ。

ちゃんとしてくれよヒーロー、お前が正義で私が悪なんだからさ。

 

――――迷わずに倒してくれよ。

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