俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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魔法少女は許さない ⑦

撃っても斬っても釣っても叩いても、まるで霞を相手にしているような手ごたえだ。

いくら木偶人形と分かっていても人の形をしているせいでやりにくい、これが魔物であるならもっと遠慮なしに切り刻めただろうに。

 

「……動きが悪くなってきてるわね、本体と喧嘩でもしたのかしら?」

 

「はっ……しらじらしい、テメェがやったんだろ」

 

体が思うように動かない、殆ど質量がないはずの剣が掌にのしかかってくるようだ。

当たり前だ、この身体の持ち主はあくまで花子。 オレたちは外から形作られただけの異物。

本体の意識がない身体を動かすというのは膨大な労力と精神力を持っていかれる作業だ。

 

『大丈夫デスか? やっぱり花子を起こした方が……』

 

「駄目だ、今起こしてもまたもめるだけだ。 終わった後で起こせばいい」

 

『けどこのままじゃジリ貧やで、何か策はあるんか?』

 

『ん~、一つだけ勝機らしいのはあるけど』

 

性悪女の言いたい事は分かる、幾ら斬っても再生するように見えるが、相手の再生能力だって無限ではない。

それにここまで散々攻撃を仕掛けて分かったことがある。 電撃を浴びせて焼き切った部位は再生が目に見えて遅い。

 

「全身黒っこげにしてやりゃあ流石に再生できねえだろうなぁ……!」

 

「まあ、怖いことを考えるのね。 でもあなたに出来るかしら」

 

「言ってろ、すぐにテメェを今からぶったお……す?」

 

ローレルの足元、岩の隙間からモヤシのように透き通ったツルが一本顔を覗かせる。

今まで四方八方から襲い掛かって来た奴らとは違い、ひょろっちいそれはこちらに突撃することも無く――――ローレルの腹部に深々と突き刺さった。

 

「んなっ……!?」

 

「何を驚いているのかしら、あなたの目の前にいるのはただの木偶人形よ?」

 

ローレルは一切動じない、植物の制御を誤ったのかとも思ったがどうも違う。

彼女に突き刺さったモヤシはドクンドクンと脈打ち、その透き通った管から何かを流し込む。

首筋の当たりがざわざわする。 ああヤバい、出遅れた。 こういう感覚の時はとにかくヤバいことが起きるんだ。

 

「テメェ、何して―――――!」

 

「遅いわね、“魔法少女”なら致命的な隙よ」

 

剣を振り構えるよりも早く、ローレルの身体が膨張する。

その四肢は木の幹のように硬質化し、整った顔立ちは醜く崩れて体に埋もれていく。

十秒と掛からずに変形した後の姿にローレルの面影はどこにも残っていなかった。

 

『――――オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

「おいおいおいおいおいおい……こんなのありかよお前!!」

 

そこに残っていたのは洞窟の天井目いっぱいまで膨れ上がった怪物。

太い藁を何本も束ねて作った様な、巨大な藁人形がオレたちを見下ろしていた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……あなたとはこうして一度、話をしてみたかったのよね」

 

「なんだ、勧誘だってならお断りだぞ」

 

俺たちしかいない地下鉄内にローレルの良く通る声が木霊する。

退路に詰まったマンドラゴラたちは一向に這い出てくる様子もない、あくまであいつらは出入り口の封鎖に努めているだけで手出しする気はないらしい。

 

「冗談、いくら誘ってもなびく気はないでしょう? 一番のイレギュラーさん」

 

「一番のイレギュラー、ねぇ……」

 

なるほど、それがわざわざ俺に接触してきた理由か。

確かに俺の存在はイレギュラー中のイレギュラーだろう、だって中身が男なのだから。

 

「あなたとこうして話をしているのはただの興味よ。 いつ生まれて、どこからきて、何故魔法少女に味方をするのか」

 

「それを知ってどうなる? 俺がどこから来て何をしようが、こうしてお前と敵対してるのが全てだろ」

 

駅構内にローレルの歩く音がカツカツと響く。

掌ににじむ汗を拭う余裕すらもない、会話しながらも一瞬だって気が抜けない相手だ。

 

「……あなたがイレギュラーだというのは存在だけではないのよ? 聞いたわよ、ドクターから倉庫街での一件」

 

「……? 何の話だ」

 

「あら、その様子……本当に何も覚えてないの? 私も又聞きだから半信半疑なんだけど、あの惨状をやって見せたのはあなたでしょう?」

 

倉庫街、惨状……思い当たる節はある。 トワイライトに変身能力を封じられたあの夜だ。

確かにあの時の記憶は曖昧で、倉庫街一体にはすさまじい冷気と濃い魔力が観測された……けど、それを俺が?

 

「笑えない冗談だ、氷なんて俺の性質とまるで違う」

 

「違うわね、氷と炎なんて同じ“温度”でしかない。 表裏一体の存在よ、心の方が如実に現れる魔法少女ならなおさらね」

 

「…………」

 

ローレルの言葉には迷いがない、俺を誑かすというよりもただ事実を並べているだけにしか思えない。

それも彼女が張った罠なのか? それとも本当に……

 

「私はあなたの底に隠されたものが知りたいの、ねえブルームスター……あなたは一体何者なのかしら?」

 

「そんなの、俺だって聞きたいよ」 

 

「とぼけてる? 違うわね、あなたは本当に自分の正体を知らない……? ああ、、だとしたら、本当にあなたは……!」

 

ローレルの語気が上がり、頬には興奮の紅が差し始める。

 

「だとすれば、こんな回りくどい手段は必要なかった……だってあなたが賢者の――――」

 

「――――盟友を誑かすのはそこまでにして貰おうか!!」

 

瞬間、ローレルの言葉を遮って背後のマンドラゴラたちが吹き飛んだ。

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