俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者は沈黙を囀る ③

「なんだろうねぇ、あのでっかいの!」

 

「繭って事は……デカい蛾でも生まれるんすかね」

 

「我ちょっと想像したくないなぁそういうの!」

 

「喋ってると舌を噛むぞ!」

 

穂を引きずりながら、過積載の箒が飛ぶ。

彼方に見えるのはへし折れたスカイツリーの只中に聳え立つ、純白の繭だ。

遠近感が狂いそうなほどに巨大な繭は、それを支えているツリーの土台が頼りなく見えるほどだ。

 

「……め、盟友。 気づいているか?」

 

「ああ、俺でもわかるよ。 あの繭からピリピリするぐらい強い魔力をな……」

 

この距離でなお魔力の感知が鈍い俺でもわかるレベルの魔力、鋭敏な感覚を持つシルヴァは相当応えるはずだ。

繭の中には何があるかなんてもはやどうでもいい、あの中にあるものを生まれさせてはならない。

 

「シルヴァ、今のうちに術の補充を……ふげっ!?」

 

「め、盟友ぅー!?」

 

スコーンと綺麗な音を立て、何かが頭部に直撃する。

そして痛みと衝撃で箒の制御を失い、全員が地上に投げ出されてしまった。

 

「とっとっとぉ! 大丈夫か花子ちゃん!?」

 

「だ、大丈夫っスー!」

 

間一髪、宙に投げ出された花子ちゃんをキャッチ。 時間がくるまで身動き取れない彼女が一番危ない。

シルヴァとオーキスは流石の身のこなしでうまく着地できたようだ。

 

「ど、どしたのブルーム?」

 

「悪い、なんか上から降ってきて……」

 

《運がないですねぇマスター、瓦礫でも降ってきました?》

 

俺の額に直撃し、足元に転がった何かを拾い上げる。

この日の光がない東京でも不思議と輝くそれは、どこかで見覚えのあるペンダントだった。

 

「こ、これってもしや……」

 

「…………ラピリスのペンダントだ」

 

本来の変身媒体である小刀型のストラップとも違う、後付けされた強化媒体。

変身中なら戦闘の衝撃で媒体が外れるなんて事はない、それがこうして俺たちの元にあるという事は少なくともラピリスは今、貴重な戦力を欠いた状態だ。

 

「それが上から落ちて来たって事はまさか、ラピリスさんはいまあそこにいるって事っすか!?」

 

「……急ぐぞ、うかうかしてられない。 あの上には確実に何かがある!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「…………賢者の、石?」

 

「聞いた事がない? 遥か昔、錬金術が台頭していた時代の霊薬。 卑金属を金に変える夢の触媒、または――――不老不死の妙薬」

 

聞いた事がない訳ではないが、それは空想で終わったはずの夢物語だ。

錬金術は化学の発展に大いに役立ったが、“賢者の石”は不可能だと断じられたはずだ。

 

「まさか、ここまでの事をしでかしておいてあなたの目的は金や不老不死だと?」

 

「半分正解、半分外れ。 そんなものはあくまで副次的な効果に過ぎないわ……無限の魔力が齎す、ね」

 

「――――――!」

 

「何でも叶えるだけの魔力を抱えた夢の結晶、だから“賢者の石”と名付けたのよ。 この私がね」

 

無限の魔力リソース、たしかにそんな悍ましいものが存在するならどんな願いも叶うというのは分かる。

だが、そのためにも発生する副作用も尋常ではない。 魔力はこの世界にとって毒だ。

 

「無限の魔力……? そんなものが存在したらどうなるか、あなたならわかるでしょう? この世界の全てが魔力に汚染され―――――」

 

「もうとっくに汚染されてるじゃない」

 

「―――――は?」

 

「そもそも、なぜこの世界に魔力が溢れたの? 魔法少女や魔物が消費しているのに、なぜ魔力はなくならないのかしら、この世界の魔力が有限ならおかしい話じゃない?」

 

ローレルが、まるで覚えの悪い生徒に一から教える様に言葉を紡ぐ。

 

「…………東京事変以来、この土地の魔力濃度は下がっているはずです」

 

「多少の濃淡が均されているだけよ、水に落としたインクが希釈されるように。 この世界は何も変わってはいない」

 

「魔物がいるから、魔力が増える! 魔力の消費に対し、供給が追い付いているだけです!」

 

「魔物だって魔力をリソースとして使っているのに? 減ることがあっても本来増える事はないのよ」

 

私の稚拙な問答は、専門家である桂樹 縁によって斬り捨てられる。

あり得ないと否定したかった、与太話だと笑いたかった、根拠のない話だ、私たちが戦えばいつかは戻ると―――――。

 

「水に溶けたインクは二度と戻らない。 この世界はもう駄目なのよ、ラピリス」

 

「っ―――――……」

 

いつか来ると思っていた平和な世界は、本当は果てしなく遠い幻想だとローレルが付きつける。

 

「10年前のあの日、確かにこの地に“賢者の石”はあった。 だからこそ魔力なんてものがこの世界に生まれてしまった」

 

言葉を失った私に向かい、畳みかけるようにローレルは更に弁舌を振るう。

 

「だけど事故が起きて賢者の石は形だけが損なわれてしまった、残ったのはこの世界にあふれ続ける魔力だけ。 制御も出来ない理想の万能エネルギーがこの世界を侵したの」

 

「……そんなものを、あなたはまた作ろうとしているのですか?」

 

「ええ、だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

……ああ、分かった。 この人の言う事は本当に正しいのかもしれない。

少なくともこの人は賢者の石とやらの危険性を分かった上で「この世界がどうでもいい」と言っているのだ。

もはや、魔女ローレルは人間ではない。

 

「そのためにはちょっとだけあなたには犠牲になってもらうけど、仕方ない話よね?」

 

ただの―――――魔人だ。

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