俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者は沈黙を囀る ⑤

10年前のあの日、この星は魔力という名の毒で汚染された。

幼子の肉体を変質させ、無から怪物を生み出す悪魔の動力。 「夢の万能エネルギー」と称されたそれは立った一晩で全人類に牙をむいた。

あの日の事を、私は一生忘れないだろう。

 

流産だった。 ごく一般的な事故、10人居れば1人2人は経験するような不幸だ、そこまでならまだ悲しみに暮れても納得は出来る。

―――――お腹から出てきた子が、灰色にくすんだ石の塊でもなければ。

 

私のお腹の中にいた子には、魔法少女の才能なんてものがあったらしい。

それが生まれる前に命が断たれ、出来損ないの魔力の塊だけが取り残された……なんて知ったのは。ずっと後の事だった。

魔石の破片で傷つけられた私の身体は、その1回だけが最初で最後のチャンスだったというのに。

 

まだ魔力に対する混乱が大きい時期で、姑にはお前のせいだと罵られ、塩を投げつけられた。

夫とは互いに精神的なショックが大きく、自然と離婚した。

お腹の子は墓に埋める事も、亡骸を抱きしめる事も出来ず、私は魔力に全てを奪われたのだ。

 

あまりにも理不尽なその顛末を、私は「不幸な事故」で片付けることは出来なかった。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

 

片腕を吹き飛ばされたローレルの出血が止まる、切り飛ばされた肩の断面は木々が生え、無理矢理出血を止めているようだ。

それでも多量の血が流れだしたというのに、ローレルの顔色は変わらない。

……いや、最初からローレルの顔からは血の気が薄かった。

 

「……生まれる前の子供を、取り戻すために?」

 

「ええ、ええ。 魔力が万能の代替エネルギーなら、人の命だって蘇るわ」

 

それは、確かにドクターと同じ……しかし、一つだけ異なる願いだ。

 

《マスター、その……彼女のお子さんは》

 

「……そもそも、生まれていない命だ」

 

失った命を蘇られる――――ということなら、まだ理解も及ぶ。

だがローレルがやろうとしている事はそもそも生まれる事すらなかった命の蘇生だ。

そんなもの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああなるほどねぇ……納得も出来た、同情もするよぉ……けど理解だけは出来ない」

 

「でしょうね、相互理解などできないでしょう。 けどあなた達もいつか親になってみれば分かるわ」

 

「親にもなれなかった人間がよく言うよ」

 

オーキスの嘲笑に対して帰って来たのは無言の刺突。

ローレルの腕から鋭く伸びたツタの槍が、オーキスの頬を掠める。

 

「あれぇ~? 図星突かれて怒っちゃった?」

 

「挑発と分かっていても……その言葉には乗らざるを得ないわね、オーキス」

 

「っ……! ハク!! シルヴァ、ラピリスは任せた!」

 

「め、盟友!?」

 

これ以上は傍観も限界だ、ラピリスの解放をシルヴァに預け、2人の間に駆け出す。

時間にして一分も持たないだろうが、その前に決着をつけるしかない。

 

《マスター、動かせて45秒が限界です! リミッター振り切れるとオーキスちゃん達にも被害が出るので問答無用で閉じますからね!》

 

「分かってる、タイミングはそっちに任せら!」

 

《責任重大ですね! ではハクちゃんタイマーONです!》

 

一瞬だけ視界が黒煙に染まるが、振るう箒の風圧で振り切る。

ローレルもこちらの接近に気付き、いち早くツタを伸ばすがそれは俺に触れる前に発火し、炭と消えた。

 

「草木と炎……徹底的に相性が悪いわね、私達」

 

「だったらどうする、降参でもするか!?」

 

「いいえ、冗談。 ここまで来て今さら過ぎる質問ね」

 

振り下ろした箒を無くなった片腕から生やした樹木で受け止めるローレル、樹木の表面に滴る血が音を立てて蒸発する。

間違いなく今まで見たどの分身よりも反応も、魔力も弱い。 だがこの黒衣と拮抗する力はどこから湧いて来るのだろうか。

 

「せめて抱きしめたかった、名前を呼びたかった、愛してると言いたかった……! それが、そんなに悪いことなの?」

 

「さあな、俺には分からねえよ……ただ、この方法だけは正しくないと言える!」

 

受け止められた箒をいったん解除し、鍔迫り合った状態からさらに一歩体をねじ込む。

ローレルの腹部に向けて振り抜いた拳の中に仕込んだ石が、閃熱を込めた箒となって彼女の胴体を深々と貫く。

 

「っ――――――……!!」

 

「顔を歪めたな、ローレル……!!」

 

肉が焼ける音、人を殺す手ごたえ、吐き気を催すほど悍ましい感触が五感に伝わってくる。

ここにきて、はじめてローレルの表情から余裕が消えさった。

 

《マスター、残り25秒……!》

 

「ふふ、ふ……ええ、そうね……責任感のある、あなただもの……」

 

「――――!! 駄目、ブルームスター! ()()()!!」

 

「ええ、ええ……! 私を殺める最期の一撃は、絶対に他人に譲らないと信じていたわ……!!」

 

ローレルが残った左腕を伸ばし、俺の腕を掴む。

瀕死の人間とは思えぬ力で握られた腕はビクともせず、ローレルから離れる事が出来ない。

 

「あなたも道連れよ、ブルームスター! 死んで頂戴、私の子供のために!」

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