俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者は沈黙を囀る ⑧

『――――ギャアアアアアアアアアアア!!!!』

 

繭を破り、天に向かって伸びる腕はかつてそびえていたスカイツリーの高さを優に超えたと思う。

肉々しい血管がこびりつき、絶えず脈動している。 血の気を超えたピンク色の腕にはおよそ人の者とは思えない赤黒い爪が鋭く生え揃っている。

 

「……な、なあ盟友……あれは、どれほど大きいのだ……?」

 

「…………さあな」

 

何より異様なのは、その長さ。

天に伸びる腕は折れたスカイツリーから繭までの距離を測っても2倍はあるだろう。

ピンク色の骨ばった細腕だけが、どこまでもどこまでも伸びていくのだ。

 

「ぺ、ペストの奴を思い出すなぁ……ブルーム、どう? いけそう?」

 

「流石にタッパが違い過ぎる、それに前と違ってこっちは奥の手もねえ」

 

手元にあるスマホには、今だ反応しないアプリがホーム画面に点灯している。

今もなおハクがぺしぺしアイコンを叩いてはいるが、なしの礫だ。

 

「そっかぁ、前回みたいに赤いのに期待は出来ないねぇ」

 

「悪いな、ところでどうやってあれを切り崩す?」

 

「まずシルヴァちゃんに火力を用意してもらってかなぁ」

 

「う、うむ……全力は尽くすが、時間はかかるぞ」

 

「分かってる、その間の時間は――――」

 

不気味で生暖かい風が頬を撫でた。 背筋に悪寒が走り、弾かれたように視線を繭へと戻す。

繭から伸びる腕はピタリとその動きを止め、酷くいびつなオブジェがそびえているだけだ。

 

―――――その指先が今、ピクリと震えた。

 

 

「……乗れ」

 

「む、何か言ったか盟友?」

 

「全員箒に乗れ!! ()()()()()()!!」

 

羽箒を展開し、花子ちゃん達を回収した瞬間、大きく空気が揺らいだ。

繭を破った腕が動く―――――生物の可動域を冒涜したように、周囲を360度薙ぎ払いながら。

 

砂場に立てた山を崩すかの如く、辺り一面のくたびれた建物たちが次々と薙ぎ倒されていく。

舞い散る粉塵が暴風を伴いながら迫って来る、巻き込まれれば視界を奪われながら飛んでくる瓦礫で全員打ちのめされてしまう。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

「うっせぇなぁ! 叫びたいのはこっちなんだよ!!」

 

≪IMPALING BREAK!!≫

 

魔力を消費する大技で出力を上げ、重量オーバーの箒の行動を無理矢理上げる。

間一髪で瓦礫の津波を乗り越えたが、たった一度腕を振っただけで周囲はほぼ更地となってしまった。

 

「ま、街が……私達の東京が……!」

 

「今は我慢だ、オーキス! 町はまた直せる、けどペストより狂暴だぞあれ!?」

 

《マスター、しかもあれ見てください!》

 

土煙が晴れると、そこには更地と化した土地の真っただ中に聳え立つスカイツリーと繭腕だけが残されている……そこまでは良い。

()()だ、程度はあるだろうがこの場合は本当に何も残っていない。

瓦礫も建物の残骸も鉄骨も、なにもかもだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、何っすかあれ……何であんな、綺麗さっぱり……?」

 

「ね、ねえブルーム……ここから復興できるかな……?」

 

「さあ、なぁ……」

 

あたりを薙ぎ払った腕は、またその動きを止めてただただ脈動している。

今だ繭からは腕以外の部位は見えない、一体あいつは何をした?

 

「……下手に箒から降りることができなくなったな。 シルヴァ、準備にどれだけかかる?」

 

「あれに通じる攻撃となると10分20分の話ではないぞ、それと皆にはこれを」

 

ページにペンを走らせながらシルヴァは切り取った紙片をオーキスたちに配る。

そこに記されているのは以前にも見覚えがある、空中浮遊用の術式だ。

 

「2人は盟友と違い、飛べぬからな。 固まるのも危険であろう」

 

「ど、どうもっす……皆さん、あれをどうするつもりっすか」

 

「止める、そして出来れば倒すのが理想だ。 万が一にでもアレが東京の外に出たら大惨事になる」

 

幸いにも東京の周囲には始まりの10人が作り上げた強固な壁があるが、それも今の消滅の力を垣間見ると過信も出来ない。

残り魔力は少ない、黒衣もすでに使った、疲労もかなり限界に近い……が。

 

「あの中にはラピリスがいるんだ、絶対に取り戻す。 3人は……」

 

「盟友は放っておくとすぐ無茶するからな、我も手伝うぞ」

 

「放っておかなくても無茶するけどねぇ、だから首輪つけておかなきゃなんだけど」

 

「そうっすね、ここまで来たら一蓮托生っすよ。 それに今の状態じゃ自分はあの壁超えられないので!」

 

《ですってよ、マスター。 好かれたもんですね》

 

「……嬉しくないんだけどな」

 

3人を巻き込みたくはなかったが、文句を言えるほどの余力もない。

今は使えるだけの死力を尽くし、あのデカブツを倒すのが先決だ。

 

「……シルヴァの火力が用意出来るまで俺たちが時間を稼ぐ、もしあいつが動くようなら全力で気を引くぞ。 全員無茶だけはしないように」

 

「盟友もだぞ」

 

「…………状況と場合によるが、頑張る」

 

「うん、大怪我したら後で説教だねぇ」

 

多分、説教されることにはなるんだろうなと思いながらも箒を操る。

あいつとの戦闘は無傷では済まないことは嫌でもわかる、せめてなるべく叱られないように被害だけは押さえよう。

 

 

―――――なんて、甘い考えが叩き潰されるのにはそこまで時間は掛からなかった。

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