俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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蒼炎燃ゆる ⑦

炎が燃える、陽の光が届かないこの東京の真っただ中で。

蒼く輝くそれは「希望」そのものだ、立ち向かう術を失った私たちに残された最後の灯。

間違いない、詳細は分からないがブルームスターたちが何かをやってくれた。

 

「お、お二人ともぉ……戦況はどうなってるっすか……?」

 

「待ってねぇ、私達もよく分かんないや……シルヴァ、なんだろあれ」

 

「我に聞かれても何とも言えぬ、ただローレルたちとも負けず劣らずの魔力を放っているようだ」

 

この距離からでもひしひしと感じる魔力の圧、しかしそれはローレルたちが放つものとも異なるものだ。

どの道あれだけの魔力がぶつかり合っている戦場だ、近づけばただでは済まない。

何が起きているのかは気になるが、我々はここから見守ることしかできないのだ。

 

「……っと、このビルにいたか。 探したぜ三人とも」

 

「ええい、邪魔してくれぬな盟友。 今は盟友たちが戦って……盟友!?」

 

「うえぇ!? 何でここにいるっすか!?」

 

本来ここにいるはずのない声に驚き、振り返るとそこには以前にペスト戦で見た姿をした盟友が立っていた。

正確には所々意匠が異なる気もするが些細な問題だ、その手にはラピリスの身体が優しく抱きかかえられている。

 

「驚かせて悪いな、ラピリスを預かっててくれ。 ローレルと戦ってる最中に守り切れる自信がない」

 

「わ、分かった。 しかし盟友はどうやってここに……」

 

()()()()()()()()()、少しだけ目閉じててくれ」

 

瞬間、盟友の姿が陽炎のように揺らめく。

盟友がいた空間に激しく突風が吹き込み、思わず閉じた目を開くと、そこに彼女の姿は影も形も無かった。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

 

繭から聞くに堪えない絶叫が響き渡る。

ラピリスの魔法を真似した金属音すらない、心からの叫び。 それは空から絶え間なく降り注ぐ刃の雨によって紡がれるものだ。

重力に任せた自由落下、それ以外の力は何も掛かっていないというのに幾千もの刃物は絶えず私達の肌を斬り裂いて行く。

 

「っ……ク、ソ……嘗めるなァ!!」

 

腕から伸ばしたツタを鞭のように振るい、空から降り注ぐ刃物の雨を薙ぎ払う。

所詮はただ落ちてくるだけの刃物だ、怯まず抵抗すれば振り払える。 繭に至ってはいくら刺さっても刃の長さからして致命傷にはならない。

ブルームスターはどこだ? このふざけた刃物の雨に紛れてどこに隠れた?

 

「人探しか? 悪いな、少し席を外してた」

 

「!? ブル――――ガハァッ!!!」

 

突然目の前に見失っていたブルームスターが現れると同時に、私の顎が蹴り上げられる。

まただ、また()()()()()。 消滅することも無く一方的に蹴り上げられた。

跳ね上げられた頭を引き戻すと、目の前に迫るのは蒼く光る長刀の切っ先。

 

気づいた時にはもう遅く、私の身体は胴から真っ二つに斬り落とされていた。

 

「ぁ……?」

 

呆気としか言いようのない声を漏らし、繭の腕から切り離された私の身体は重量に従い落ちていく。

眼下に待つのは腕の根本、ひび割れた隙間から中身を覗かせる純白の繭。

このまま落下を妨げるものがなければ、私の上半身はあの繭の底へ沈んでいくだろう。

 

こんな所で終わるのか? 訳が分からない、納得ができない。 こんな終わり方など認められるか。

何も理解が及ばぬまま蹂躙などされてたまるか、何か手立てはないのか。 考えろ、そもそもあれの性質は一体何だ。 

無数の刃物と私を斬ったあの長刀はどこから来た。 あの場にあったのは「魔力」だけ―――――

 

「――――――」

 

……そうか、そうだとしたらあれこそが私が本当に求めたものじゃないか。

ならば、()()()。 初めから私が調整したラピリスではなく、彼女を取り込めばよかったのだ。

今この場で最も賢者の石に近いのはあの力に他ならない。

 

「……ふふ、ふ……なら、上げるわ。 私の全部で済むなら安いものよ……!」

 

眼下には繭の内に広がる高密度の魔力の液体、再びあの中に落ちれば私の身体は今度こそ魔力に溶けて消える。

だがそれがどうした、たとえ肉体が消えようとも私の意思は消えはしない。 

あの子の命を作り直すためならば、私は何だってやってやる―――――

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――――……」

 

《マスター? 反応ないですけど大丈夫ですか?》

 

「ん? ああ、悪い……」

 

ハクの声とボチャリと重いものが水に落ちた音で意識が戻る。

おそらく繭の腕から切り落としたローレルが繭の内部に満ちる液体に着水した音だ。

上半身と下半身が真っ二つに断たれた以上、常人なら死んでいるはずだが……

 

「あれで終わりとは思えないな、畳み掛けるぞ」

 

《マスターが呆けていたせいで隙が出来たんですよ、取り戻す気で頑張ってください》

 

片手に握った新たな杖……青い刀身を煌めかせる長刀を振るう。

目の前に聳え立つ肉の柱を削り切るつもりで長刀に魔力を込めたその時、繭が小さく鳴いた。

 

『…………ギィ』

 

ラピリスの魔法を真似たものとも違う蚊の鳴くような声、だからこそ不意を突かれた。

しっかりと握っていたはずの長刀が見えない何かに弾き飛ばされる、旋回するそれははるかかなたの地上へと落ちて行った。

 

「なっ……!?」

 

今までと違うパターン、しかし俺はこの魔法を知っている。

斥力……いや、万物を拒むような“拒絶”の力をいやというほど味わったはずだ。

 

『ギ、ギ……ギイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

《……マスター、どうやらまだまだ奴さんは頑張るみたいですよ》

 

「ああ、そうみたいだな……!」

 

ぼこぼこと水柱が繭の内部から吹き上がる、ひび割れた表面からあふれ出た液体は徐々にその圧力を上げて亀裂を広げていく。

苦痛に苦しむような叫び声を上げながら変形するその様子は、不思議にも羽化する蛹のようにも見えた。

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