俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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爪痕は深く、傷ましく ③

《……それで逃げ出してきちゃったんですか、駄目マスターですねぇ》

 

「言い訳しようがねえな……」

 

日の落ちた空の下、魔法局の屋上で浴びる風は夏だというのに肌寒い。

これからどんどん気温が下がり、秋に移り変わっていくのだろう。

しかし冷たい風はいくら吹きつけようとも頭の中に帯びた熱は収まらない。

 

《死んでしまう、ですか……まあ、アオちゃんの言うことももっともですね》

 

画面の中のハクがブラウザを引っ張り出す、SNSのタイムラインを展開する。

検索窓に打ち込まれているのは「ブルームスター」の文字、検索結果は3桁程度だ。

 

《ちなみにヒットしているのもゲームのアイテムなどばかり、マスターの事を呟くものはほぼ0ですよ》

 

「そりゃまあ、野良の魔法少女だからな」

 

《そんなわけないじゃないですか、黒衣の代償ですよ。 明らかにマスターが戦った記録が失われています》

 

「……別に今さらそれぐらいでビビらねえよ」

 

《手足の欠損が直るのは“それぐらい”ですか?》

 

「…………」

 

トワイライト戦で1回、ローレル戦で1回。 すでに2度その力は目の当たりにしている。

自身の「存在」が薄まることにより、四肢の欠損という異常性が希釈された。 

それはこの力の代償がただ人に忘れられるだけのものではないと理解するには十分なものだった。

 

《腕や足が戻ったのは運が良かっただけですよ、下手をすればあなたという存在そのものが消えさっていたかもしれない》

 

「それでも使わなければ俺はここにいなかったよ、ハク」

 

《それは、そうですけど……!》

 

デメリットも強大だが、それでも黒に救われた回数は多い。 だからこそハクも制限時間を設けた制御法を見つけてくれたんだ。

卑怯な形になるが、ハクも共犯者のようなもの。 今さら使うなとは言えない。

 

《……それでも、ローレルはいなくなったんです。 これからは危険な力に頼る必要なんてないんですよ》

 

「それでも必要なら使うよ、魔物という脅威がなくなったわけじゃない。 ローレルみたいなやつだっていつまた現れるか分かりゃしないんだ」

 

《…………》

 

「ハク、面倒見れないと思ったらいつでも見捨ててくれていいぞ?」

 

《そうしたら、あなた生身で無茶しますよ。 誰かを庇ってすぐに死んじゃいます》

 

「うん、そんな気がする」

 

別に死ぬのが怖くないわけじゃない。 誰にだって怒られてきた。

この世から自分の生きてきた痕跡がすべてなくなって存在ごと消えてしまうだなんて、考えただけでも恐ろしくて震える。

()()()()()()()()()()。 優先順位をつけるなら、そんなものよりまた目の前で誰かの命を取りこぼす方がずっと怖い。

 

《死なないでくださいよ、マスター。 あなたに力を与えた私のせいになるんですから》

 

「ああ、できるだけ頑張る」

 

《この拳が届くなら5回ぐらいぶん殴ってますからね、ほんっとに……》

 

俺が死ぬ時に悲しんでくれる人はきっと0じゃない。

……ああ、それならいっそ忘れてしまうのは悪いことじゃないと考えてしまう俺はきっと地獄に落ちるんだろうな。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

ガラス板一枚の距離が酷くもどかしい。 この数㎜の板を私は一生超える事が出来ないのだろう。

目の前にいるはずのマスターを引っ叩くことも、その腕を引いて無茶を止める事も不可能だ。

随分と無責任だと我ながら思う、私はただ力を与えるだけ与えて見ているだけなのだから。

 

《……酷いなぁ、私》

 

はじめはただの便利で利用しやすそうな人間だったのに、一度だけでも力を貸してしまったのが間違いだった。

危なっかしくて見ていられなくて、変身を繰り返すたびに情が湧いてしまった。

ずるいから「相棒」なんて呼ばないでほしい、死んでほしくないと思ってしまうじゃないか。

 

この0と1しかない世界の中で、孤独を凌ぐ宿をくれたあなたに私は恩がある。

私が力を与えてしまったせいで、戦う事を覚えてしまったあなたが呪いとなって離れられない。

私はあなたの唯一の共犯者だ、あなたが死ぬなら私もこの命を絶つことをあなたはきっと知らないのでしょう。

 

最近あなたが変身することが怖い、どんどん私の知らない色を身に纏うあなたがどこか遠くに行ってしまいそうで叫びたくなる。

黒や赤に変身するたびにざわめき立つ心は気のせいなんかじゃない、あれは取り返しのつかないものだ。

それでも泣いて縋りついたところで彼は立ち止まってはくれないんだ、死力を尽くせずにまた大事な人の命を取りこぼせばその痛みにきっと耐えきれない。

 

だから私は叫びたくなる気持ちを抑え、下手くそな笑顔でまた軽口を叩くんだ。

私のマスターがどこまで遠くに行っても、また「日常」の中に戻ってくることができるように。

 

……ガラス板一枚の距離が酷くもどかしい。 私の力ではこの薄っぺらい仕切りを叩き割ることも出来ない。

本当に彼の隣に立って、「相棒」なんて言えたらどれだけ良いだろうか。

 

結局この小さな箱の中で傍観することしかできない私は、きっと地獄に落ちるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

ああ、力が欲しいなぁ

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