俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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片割れのU/限りなくクロに近い赤 ③

「んー、やっぱ酸っぱいのがクドい気がするネ。 おかわり」

 

「あんた腹下すわよ……」

 

空の器をテーブルに置き、本日五度目のシャーベットを要求する。

仕方がない、酸味が強い分さっぱりして幾らでも食べられそうなのだから。

 

「ただいまです、コルトは居ますか?」

 

「お帰りなさい、あんたの友達なら丁度そこにいるわよ」

 

「むっ、サムライガール。 何か用カナ?」

 

表口からドアベルを鳴らして葵が入店する。

その首には派手なアクセサリーを嫌う彼女には珍しく、青い宝石をとりつけたネックレスがぶら下がっていた。

 

「サムライガール、それどうしたノ? 誰かに貢がれた?」

 

「ふっ、気づいてしまいましたか。 これはドクターから作っていただいたパワーアップアイテムです」

 

「へー! そりゃすごいネ、それでどうやって使うノ?」

 

「……まだ分かりません」

 

「駄目ジャン」

 

つまり今は使い道のない高価そうなポンコツを首から下げているだけか。

もったいない、というか子供がそんなものをぶら下げていたら色々と危ない。

 

「という訳で、それは私が預かっておくヨ。 テディの中に隠しておくカラ!」

 

「嫌ですよ、そういって持って行くつもりでしょう」

 

「チッ、バレタカ。 でもそれってサー、私には使えないノ?」

 

パワーアップアイテムという響きは実に魅力的だ、使えるなら是非私にも使わせてほしい。

というかドクターも不公平だよ、葵ばかり贔屓されてグレちゃうよ私。

 

「……親としては目の前でそういう話されるのはちょっと複雑なんだけど」

 

「母さん、大丈夫ですよ。 “シフター”の彼女に私のアイテムは使えません」

 

「アンタの事が心配だっつの……」

 

 

 

 ―――――オオオオオオオオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛―――――

 

 

 

……ふと、和気あいあいとした空気を切り裂くようにおどろおどろしい雄叫びがどこか遠くの方から轟く。

方角からしてあれはおにーさんと戦った河原の方だろうか。

 

「……母さん、忙しないですが行ってきます。 晩御飯までには戻るので」

 

「ン、シャーベット美味しかったっておにーさんに伝えてね」

 

流石にサムライガールも慣れている、怖気立つ様な今の雄叫びに怯むこともなく杖を取り出した。

恐らくあと数分もせず縁からも連絡が来るはずだ、その前に現場へ向かってしまおう。

 

「……無事に帰って来なさいよ、親より先に死んだら末代まで呪うわ」

 

「その場合だと私が末代……いや、もちろん。 おにいさんのご飯を楽しみにしておきます」

 

「いーなー、私も一緒に食べたいナー!」

 

ぶーたれながらもテディへ腕を突っ込む。 毎度のことながら何故か生暖かい内部をまさぐり、綿とは違う手ごたえを見つけて引っ張り出す。

隣を見ればちょうど葵もキーホルダーの刀を引き抜いたところだった。

 

「――――SCRAMBLE!!」

 

「転刃――――」

 

二つの声が重なり、店内に青と金の光が奔る。

やがて光が収まるとそこに居るのは2人の愛らしい魔法少女だ。

 

「それでは行きますよゴルドロス、足引っ張らないでくださいね」

 

「そっちこそ魔力切れ起こすんじゃないヨ! いってきマース!」

 

周囲に誰もいないことを確認して店を出る。

ただ事ではない今の雄叫び、今回の魔物はどんなやつなのか……

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……緋乃ちゃん、悪いけど先に交番まで戻っててくれ。 おっさんとこなら安全だ」

 

「な、なな七篠さんは……!?」

 

「俺はちょっとやる事が出来たからさ、先に逃げていてくれ」

 

「で、でもぉ……いえ、分かりました……」

 

しぶしぶではあるが彼女は引きさがり、交番へ向けて走り出した。

それでいい、その背を見送ってこちらも行動を始める。

今の雄叫びに足を止めた人々の間を抜け、誰もいない路地裏へ身を滑りこませた。

 

「ハク、準備は良いか!」

 

《はいはい、いつでもどうぞ!》

 

スマホの中ではすでにハクがいつものアプリを構えて用意している。

相変わらず準備が良い、迷わずその画面をタップした。

 

≪Are You “Lady”!?≫

 

「変身!!」

 

いつもどおり、軽快な電子音声とともに黒炎が全身を覆う。

それはこれまたいつも通りに数秒で晴れ……晴れ――――?

 

「あ、っづ!? あ、ああああああ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!?」

 

《マスター? どうしましたマスター!?》

 

黒炎が晴れない、それどころか熱をもって俺の全身を焼く。

それはニワトリに喰らった炎よりも激しい痛み、あまりの苦痛に「何故?」と考える余裕すらなくのたうち回る。

 

永遠にも思える数十秒が過ぎ、やがて炎はいつものように霧散して跡形もなく立ち消えた。

 

《マスター! 大丈夫ですか、何があったんです!?》

 

「ハァ……ハァ……俺が、聞きてえよ……!」

 

ハクに応える声が高い、火傷痕も残っていない白い腕は小さい、変身自体は成功したみたいだ。

でもそれなら今のは一体……?

 

「……いや、それは後で考える。 今は急ぐぞ、ハク……!」

 

《いや、今日はもう止めましょうよ! 絶対何かおかしいですって!!》

 

「うるせえ!!」

 

ハクの制止を振り切って路地裏を跳び出し、ビルの隙間を縫うように駆け抜ける。

このまま引いたら痛み損だ、それに何か嫌な予感がする、今回の敵は今までとは何かが違うような予感が……

 

「―――フハハハハハ! 来たな我が盟友よ、今の禍々しき叫びを聞きつけ現れると思っていたぞ!」

 

「……シルヴァ、お前もか」

 

ビルの頭上を跳ぶ俺と並走するように、シルヴァが横から現れた。

顔合わせはクラゲの時以来か、相変わらずかっこつけたポーズを取りながら器用に飛ぶもんだ。

 

「今回ばかりは相手もヤバそうだ、逃げるなら今の内だぞ」

 

「ふっ、今更我が恐れるものなどあろうものか……お主こそ大丈夫? 脂汗流れておるぞ?」

 

「……大丈夫だよ」

 

黒炎の痛みはこの身体に致命的な傷をつけた訳じゃない、苦痛だけなら耐えられる。

身体だって動く、問題はない……ない、はずなんだ。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

真下に流れる川のせせらぎに耳を傾けながら、彼奴らの到着を待つ。

今の雄叫びが聞こえたのであれば、すぐに駆け付ける。 ならば今は座して待つのみ。

 

「まったく、愛しのお姉ちゃんが居ぬ間に好き勝手やろうと思ったのにさ、なーんでこんな場所で待つかなお前」

 

遮蔽の多い戦場は好まず、敵の力を測るのであれば平たく邪魔の無い場所こそが好ましい。

我が創造主の望みにもっとも適うのがこの場所というだけの事。

 

「つっまんねー……ってか我が姉ながら焼きそばパン買いにどこまでほっつき歩いてんだか、腹減ったぁー」

 

我が創造主の機嫌が見る見ると悪くなっていく、このままではどんな無茶ぶりが飛んでくるかも分からない。

出来ればその前に姿を現してくれれば助かるのだが――――()()()()()()()()()()()

 

「――――そこまでですッ!!」

 

真上の死角から、創造主目掛けて振り下ろされた刀を槍で受け止める。

角度を付けて受け止めた槍は激しく火花を散らしながら刀を逸らし、飛び掛かってきた魔法少女に大きな隙を生む。

そこへすかさず追撃――――を入れる寸前、橋を貫き、真下から飛び掛かった銃弾がこちらの軌道を塞いで目の前の魔法少女の撤退を促した。

 

「……ちょっとぉ、なーに取り逃しちゃってんのぉ?」

 

―――面目次第も無い、弁明をするのであれば見事な連携であった。

昂る、これはそこらの雑魚では味わえぬ高揚だ。

 

「……魔法少女ラピリス、馳せ参じました。 速やかな投降をお勧めします」

 

目の前の青い少女―――否、戦士が名乗る。

強いな、刀の構えに隙が無い。 しかし目の前の相手に気を向け過ぎればまたどこからか銃弾が飛ぶ。

良い、実に良い。 この戦士たちと相対する事が出来ただけで我が創造主には感謝しかない。

 

だが生憎、この身に名などはない―――せめて名乗れぬ無礼はこの槍で返そう。

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