俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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Hack on STAGE ②

「分かったわ、うちの店で働きなさい」

 

「優子さん???」

 

正座のまま弁明を続ける事10分、優子さんが出した結論はとんでもないものだった。

 

「やります!!」

 

「ハク!?」

 

こっちも即答だった。 よく見ればハクの瞳は期待に輝いている。

まあ、実体化したハクの見た目は中学生程度。 頑張れば背の低い高校生と言い張れなくもない。

店長である優子さんが認めている以上、上手く誤魔化せばハクもこの店で働くことに問題はないが……

 

「せっかくこうして会えたんだもの、それに戸籍もお金もないのに見捨てる訳にもいかないでしょう?」

 

「て、店長……!」

 

そういえばこの2人は俺の知らないところで面識があったんだったか。

こうして顔を合わせた感じを見るかぎり相性も悪くない、というより優子さんが一方的にハクを気に入っているようにも思える。

 

「ずっと死蔵していたバイト用の制服、ようやく日の目を見る機会を得たわ」

 

「本命はそっちか……」

 

「ウェイトレスが足りなかったのは本音よ、この店には華が足りないと思っていたから」

 

まあ、顔が悪い俺と不愛想な店長の2人しかいない寂れた店に華はあるまい。

たまにアオも手伝ってくれるが魔法少女業で忙しい彼女を毎回引っ張り出すわけにもいかない、ハクの加入は願ったりかなったりという訳か。

 

「ふっふーん、バシバシ手伝っちゃいますよマスター! 私が入ったからにはこのお店も大繁盛間違いなしです!」

 

「まあ働くのは良いけどケガだけには気を付けろよ……まったく」

 

多少の不安はあるが、本人が納得しているならそれでいいか。

……そういえば、アオには何と説明すればいいだろうか? まあ、そのうち考えるか……

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「いらっしゃいませー! ……って、葵ちゃん?」

 

「……は、え……?」

 

和装の上にエプロンを重ねた明治の給仕服を思わせる衣装がふわりと揺れ、雪のような白い短髪と対照的な黒い瞳がくりくりと私を見つめる。

店を間違えただろうか? しかし内装は私が良く知る店内で、表の看板にも間違いはない。

この「如何にも私は店員です」といった格好をした女性は誰なのだろうか?

 

「どうしたヨ、サムライガール? 入り口で固まって邪魔n……What!?」

 

「どしたのどしたの? あれ、いつの間にか綺麗なバイトさん雇った?」

 

「し、知らない人だ……」

 

私の後ろに続いてコルトたちもぞろぞろとやって来た。

そしてこの姦しい状況に気付いてか、厨房の奥から慌てて飛び出してきたのは……一週間ぶりのお兄さんの姿だ。

 

「アオ!? おまっ、退院はまだじゃなかったのか!?」

 

「お兄さん、お久しぶりです! 怪我は気合いで治しました!」

 

「んなわけあるかバカ!!」

 

「え、えへへ……」

 

怒られているというのになぜか嬉しくなってしまう。

久しいお兄さんとの再会に話したいことは山ほどあるが、まずは目の前のこの人についてだ。

 

「お兄さん、こちらの方は?」

 

「あ、ああ。 伝えるのが遅れたけどアルバイトが入ったんだ、ほら自己紹介」

 

「ど、どうも! 白々木(しららぎ) ハクと申します、いやーあなたの事はマスターから色々と聞いていたんですよ、よろしくね葵ちゃん!」

 

「マスターとは……?」

 

「……あ、あはは。 実質こちらのコックさんが店主(マスター)みたいなものですから、つい?」

 

なるほど納得だ、厨房から母が悲しそうな視線を向けてくるが気にしない事にする。

それよりも気になるのはお兄さんと白々木さんの関係だ、先ほどからこの2人……何というか距離が近いような気がする。

 

「あの、失礼ですが白々木さんは……」

 

「サムライガール、ごめんネ! ちょっとこの2人借りていくヨ!!」

 

「あ、ちょ、コルトー!?」

 

声をかけて求める暇もなく、お兄さんと白々木さんはコルトに背を押されて裏口の方へ消えていった。

まあ、相変わらず店内にお客さんの影はないため多少の離席は問題ないが。

 

「……えっと、どういう状況?」

 

「私にもさっぱり……」

 

「とりあえず娘の退院を祝ってコーヒーでも淹れるわよ」

 

「「「結構です!!」」」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「どういうことだヨ!?」

 

「いやー、どういう事なんでしょうかねうぇへへ」

 

「笑い事じゃないからネ!」

 

コルトの詰問に対し、ハクは相変わらず上機嫌で上の空だ。

よっぽど制服を着て自由に動き回れるのがうれしいのか、実体化してからずっとこの調子が続いている。

 

「それがこっちでも原因についてはさっぱりなんだよ、三日ほど前に突然“これ”だ」

 

「“これ”って……ハクは魔人なんだよネ?」

 

魔人。 忘れがちだがハクはローレルと同じ区分に属する人類の脅威だ。

コルトの懸念は分かる。 立ち振る舞いこそ人間と一切変わりはないが、中身は電脳世界に住む常識から逸脱した存在に他ならないのだから。

 

「害がないことは確認済みだ、ハクだってその気はない。 身体能力だって常人並みに近い」

 

「腕相撲なら葵ちゃんたちに負ける自信があります!」

 

「自慢することじゃないカナ……けどオニーサン、ブルームスターの方は大丈夫?」

 

「ん、ハク」

 

「はいはーい」

 

黙ってスマホを取り出し、ハクの前にかざす。

するとその身体が一瞬で光子に変わり、ハクの姿はスマホの中へと吸い込まれた。

 

「スマホが近くにあれば出入りは自由らしい、実体化中は充電食うのが問題だけどな」

 

《エネルギー使っちゃうんですかね、携帯充電器買います?》

 

「無茶苦茶だネ……なんだか疲れて来ちゃったヨ」

 

「魔力が常識外れなんて今さらだろ? あと悪いけどこのことは……」

 

「分かってる、皆には内緒にしとくヨ。 ブルームスターにも関わる秘密だからネ」

 

流石コルトだ、話が早い。 今度デザートをサービスしよう。

口裏を合わせる相手も増えたことでハクの正体も誤魔化しやすくなる。

 

「長く席を外しすぎたネ、そろそろ戻ろうヨ。 ……なんだか異臭もしてきたからサ」

 

《マスター、そういえば優子さんが厨房に出入りしてました!》

 

「まずい、急いで戻るぞ!!」

 

アオも折角退院したところで病院にとんぼがえりはあんまりだ。

被害者が出る前にハクを再度実体化させ、皆が待つ店内へと駆け戻った。

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