俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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Hack on STAGE ⑤

空には綺麗な満月が浮かんでいた。

記憶の中のものよりずっとずっと綺麗な月……月夜。 そう、それは「私」の名だ。

ああ、お兄ちゃんも同じ空を見ているのだろうか。

 

「ふふ……ふふふふ、だとしたら素敵だなぁ。 見てるかな、お兄ちゃん」

 

ほぅっと吐き出した溜息が()()()()()、ダイヤモンドダストとなって空に散る。

辺り一面は極大の氷柱が夥しいほど立ちそびえ、透き通った氷の中には大型の魔物が何体も冷凍されている。

馬鹿だなぁ、手を出してこなければ私も何もしなかったのに。けど丁度いいや

 

「明日にはお兄ちゃんも気づくかな? ふふ、楽しみだね」

 

指を鳴らした瞬間、全ての氷柱が連鎖的に音を立てて砕け散る。

後に残ったのは氷の残骸と、降りしきる雪のみだ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

『―――――次のニュースです。 昨日未明、東京近郊にて大規模な凍結現象が発生しました。専門家はこの謎の現象について……』

 

「…………」

 

《おっはようございまーす! ……と、早起きですねマスター》

 

「ああ、なんか昨日は寝付けなくてさ。 というかもう少し声量落とせ」

 

早朝からテーブルスペースの席を借り、テレビを眺めていると遅れて起きたハクがスマホの中で騒ぎ始める。

バイトの出勤にはあまりにも早い時間帯、店内に響くハクの声がもしアオに聞かれると不味い。

 

《いやー、生身に慣れるとついマナーモードを忘れてしまうんですよね。 ところでこんな朝から何見てたんですか?》

 

「緊急ニュースだってよ、ほら」

 

ハクも見えるようにスマホの角度を調整する。 

テレビ画面に映っているのはドローンで遠隔撮影された東京近郊の風景だ。

 

《……マスター、これって最近の映像ですか?》

 

「最近どころか生中継だよ、まだまだ暑いってのにな」

 

近づきすぎると魔力にジャミングされて機械が壊れてしまうのだろう、ギリギリまでズームされた低解析度の映像には目一杯に広がる()()()が映し出されていた。

針地獄のように天へと伸びる夥しい数の氷柱、その上に降り積もった雪の厚みは10㎝をゆうに超えているように見える。

 

『えー、御覧の通り天の壁で覆われた東京の外では謎の凍結が広がっております! この他にも点々と同様の現象が確認されており……』

 

《うっへぇ、規模がとんでもないですね。 まさか魔女の残党が……?》

 

「いや、ローレルとは現象の毛色が違う。 それに魔女どころか並大抵の魔法少女じゃここまでの範囲を氷で覆うのは無理だ」

 

仮に俺が同じ規模を炎で覆うとした黒……いや、赤衣を着ればなんとかできるかもしれない、できたとしても一発でガス欠だ。

ドローンが空中から撮影している範囲はそれだけ広い、俺が知る中で可能と思えるのはそれこそロウゼキか……

 

「……いや、そんなわけないか」

 

俺が知る中で最強の魔法少女―――――スノウフレークぐらいだ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「局長、今朝の事件について何か情報は入ってきていますか?」

 

「朝から元気だねぇ、ラピリスクン……」

 

未だ修繕工事が続く魔法局の一角、執務室の中ではボロのパイプ椅子に腰かけた局長がアルミ製の机に書類を広げていた。

なにも無理してこの部屋で仕事することもないだろうに、この部屋も大きな被害を受けたせいでまだ機材の搬入も終わっていない。

 

「今朝の事件というのは……えーと、これか。 東京での凍結事件」

 

「それです、それもただの氷という訳ではないでしょう?」

 

「うむ、その通りだよ。 あの一帯から異常な濃度の魔力が報告されている」

 

紙の山から一つの書類束を引き抜き、局長が手渡してきたのは例の事件に関する初動報告書だ。

中身を確認すると、詳細な位置情報と共に「魔石化した魔物の残滓を数体発見」「現着した魔法少女数名が体調不良を訴えた」などの報告が乗せられている。

現場で精密機械は動かないためか、残念ながら写真は殆ど遠景から撮られたものばかりだ。

 

「……看過できない問題ですね、東京の外でこの濃度の魔力が観測されるとは」

 

「うむ、魔法少女とて害となる魔力量ということだ。 東京から漏れだした、で済むならまだ良いのだがね」

 

局長の返答は歯切れが悪い、それもそのはずだ。

……東京近辺で発生した謎の凍結現象。 それが本当に何らかの要因で発生した「現象」であるならそれでいい。

 

「魔法局が確認したのが昨日未明……この付近で魔物や魔女の影は?」

 

「発見報告はない、今も情報が錯綜しているところだよ。 しかし我々に声が掛かるのも時間の問題だろうねぇ……」

 

局長が大きい溜息を吐き出し、手元の書類へ再び目を落とす。

東京から発生した謎の凍結現象、発見されたものは1か所だけではない。

2つ、3つと段々に東京から遠ざかりながら複数の場所で報告されている。

 

「ええ、コルトたちも呼びましょう。 それに他の魔法少女とも連携を取った方がよろしいかと」

 

書類に印刷された凍結現象地点を線で結ぶと、それらは真っ直ぐにある方角に向かっている。

―――――「東北」に向かい、まるで意志を持った何かが歩いて来るかのように。

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