俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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白雪が降るころに ④

「――――――」

 

「ふふ……久しぶりだね、お兄ちゃん」

 

日本人離れした雪のように白い肌、対照的に艶を持った黒い髪の毛が風も無いのにさらりと揺れる。

見間違うはずもない、忘れるはずもない。 その顔は―――――

 

《マス、ター……あの子は……?》

 

「七篠 月夜――――じゃあねえな、誰だお前は」

 

「うん、そのセリフも二回目だね。 “私”はちょっと悲しいよ?」

 

あの日と何も変わらない顔に笑みをほころばせ、月夜のような何かがコロコロと笑う。

二度目……今、こいつは俺の台詞を聞くのが二度目だと言った。 同じような言葉を吐いたのは直近では1度しかない。

 

「あの時の事は夢じゃなかったのかよ、それともまた魔物の仕業か?」

 

「違うよ、“私”はちゃんとここにいる。 ちゃんと触れ合えるしこうやって会話することもできる」

 

「黙れよ、それ以上月夜の声で喋るな」

 

《マスター、落ち着いてください。 状況は分からないですけどあまり刺激しては駄目です》

 

ハクの言う事は分かっているが、冷静ではいられない。

七篠 月夜は過去に死んだ、それが今こうして目の前にいるはずがない。

死人は蘇らない、時間は決して巻き戻らない。 妹の形をしたこれは彼女を冒涜した何かに過ぎないのだ。

 

「……うん、やっぱりお兄ちゃんは私を認めないんだね。 殺気がビシビシ伝わって来る」

 

「分かってくれるなら何よりだよ、それで何しに来やがった。 わざわざ人を煽りに来たわけじゃないだろ」

 

「何って……お兄ちゃんの顔が見たくて妹が会いに来るのは変かな?」

 

――――咄嗟に手が出なかった自分を褒めちぎってやりたい。

 

《マスター、得体のしれない相手です。 くれぐれも慎重に……》

 

「うるさいなぁ、私とお兄ちゃんの間に挟まらないでよ泥棒猫」

 

《うぇあっ!?》

 

ハクとの会話はスマホに宿った魔力を通じて行っている、外に音声が漏れることはないはずだ。

しかしこいつは俺たちの会話を聞き取り、その上でハクに対して不快感を示している。

 

「ああ、そういえばそのスマホから出られるようになったんだっけ? そっかぁ、ふーん……ふーーーーーん?」

 

「お前……一体どこまで知ってんだ!?」

 

「これまでのことも、そして()()()()()()も知っているよ。 だからお兄ちゃんにちょっとだけ良い話」

 

月夜もどきが悪戯っぽい笑みを浮かべ、内緒話をするかのように人差し指を口の前に当てる。

見た目や声は俺が覚えている月夜と何ら変わりない、しかし……それでもその所作や性格にはどことなくズレを感じて仕方ない。

 

「今朝も魔物を1体倒したでしょ? カッコよかった、でもあれが始まりなんだよ」

 

「……始まり?」

 

「これからどんどん強い魔物が現れる、そしてこの世界も終わりに向かっていくんだ。 溢れる魔力は誰にも止められない」

 

彼女の手の内にはいつのまにかガラスのコップが握られ、何もないはずの内部がどんどん水に満たされていく。

その間も続く例え話をなぞる様に、とどまることのない水はやがて容量の限界を超え、コップから溢れ出した。

 

「……どういう手品だよそれは、月夜は間違ってもそんな器用な真似は出来なかったぞ」

 

「うん、知ってる。 でも“私”は七篠 月夜だから、前の月夜の()()()()ってだけだよ」

 

≪――――Are You Lady!?≫

 

次の瞬間には手に握った箒を月夜もどきに向けて振り下ろしていた。

素材が何だったかも覚えていない、多分手近にあった椅子や食器だったと思う。

ただどんな素材で作った箒だろうと結果は変わらなかったはずだ。 振り下ろした箒は直撃することなく、その数センチ手前で制止してしまったのだから。

 

《マスター!?》

 

「わあ、もしかしてプレゼント? 嬉しいな、大事にするね」

 

「っ……! お前、それは月夜の……!!」

 

夏場だというのに肌を逆立たせる冷気が教えてくれる。 それは七篠 月夜(スノーフレーク)の魔法だ。

あらゆるものを凍らせ、停止させてしまう「凍化の魔法」。 

物理も魔法も温度も速度も関係なく0へと変える、身内びいきを差し引いても俺が知る限り最強の魔法に違いない。

 

「だって私は月夜だもの、その格好もカッコいいよお兄ちゃん」

 

徒手で摘ままれた箒があっさりと奪い取られる、別に力を抜いていたわけじゃない。

魔法少女に変身すらしていないのに、目の前にいるこいつは明らかに格上だ。

 

《あなた……あなた何なんですか、一体何者なんですか! 突然踏み込んできていきなり訳知り顔で勝手な事ばかり言って……!》

 

「黙っててよ、泥棒猫。 その場所だって本当は私が座るはずだったのに」

 

「…………はっ?」

 

「うん、丁度いいかもしれないね。 本当はお兄ちゃんとお話するだけでよかったんだけど―――――邪魔な奴も消してしまおうか」

 

「っ……!?」

 

月夜の周囲に霜が生え始める、背筋に感じる寒気は冷気ばかりのせいじゃあるまい。

途端に死地と化した間合いから跳び退こうとしたその瞬間……店の扉を弾き飛ばしながらその闖入者は現れた。

 

「―――――園! ラピリス達に連絡を、その間の相手は私が務めますわ!!」

 

「あいあい、グッドラックお姉」

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