俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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片割れのU/限りなくクロに近い赤 ④

――――それをまず見た印象は「騎士」だった。

遠目から見ておよそ2mを越す体躯、山羊の様な捩じり曲がった角を称えた兜、身に纏う鎧は関節部の僅かなゆとりを除いて一片の隙間もなく全身を覆い尽くしている。

そしてそれぞれ片手に持った巨大な馬上槍(ランス)ともはや分厚い鉄の塊にしか見えない大盾。

 

なんであんなものを片手で保持できるのか分からない、サイズとしては今までの魔物とどっこいか小さいくらいのはずだ、だというのに全身で感じる魔力の圧が騎士の姿を何倍にも感じさせる。

 

「……盟友よ、あれは“駄目”だ。 あやつを街に入れてはいけない」

 

「ああ、分かってる。 シルヴァは後方で用意を頼む」

 

橋の上で対峙するラピリスと騎士の姿を空中から見下ろす。

騎士の佇まいは一切の隙が無い、例え死角から奇襲を仕掛けたとしても命中する未来が見えない。

頼みの綱はクラゲを焼き尽くしたシルヴァの火力だ。

 

「待て盟友よ、いくつか援護の札を渡す。 これを」

 

シルヴァが本から何枚かページを引き千切ってこちらへ差し出す。

その紙片にはすでにいくつかの詩が刻まれていた。

 

「……ページを引き千切れば他人でも使えるのか、便利だな」

 

「うむ、褒めるがよい! 良いか? これとこの札が……」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

……強い、この巨大な騎士と対峙してまず浮かんだ感想がそれだ。

一挙手一投足に隙が無い、全身を覆う鎧は刀で断つのは難しいだろう。 まだ私の腕は斬鉄の域には達していない。

 

それに―――()()()()()、あれは本当に魔物なのか……?

 

「キヒッ! どぉ、強そうでしょ? あたしの最新最高傑作ぅ……まあ、まだ名無しなんだけどさ」

 

『……創造主よ、命令を』

 

「おお、ひっさびさに喋ったなお前。 んーーーーー……それじゃ、皆殺しで」

 

『―――御意』

 

騎士が動く、鉄塊ともいえる大盾を軽々と振り回し――――それは橋へと叩きつけられた。

腹の底に響く揺れを鳴らし、あまりにも過ぎる質量を受けた橋は容易く砕ける。

 

それはいつかのクモを思い出す……いや、それ以上に暴力的な威力だった。

 

 

「ゴルドロス、退避!!」

 

「分かってるヨ! 無茶苦茶だナァ!!」

 

橋下に隠れていたゴルドロスが降り注ぐ瓦礫を避けながら飛び出す。

私も崩れ去る足場から逃げるように飛び退い――――た、その眼前に槍を振りかぶる騎士の姿があった。

 

「っ―――――!!!」

 

迷いなく振り下ろされた槍を刀で防ぎ、寸でのところで直撃は免れる。

しかしその一撃はあまりにも重い、受けきれない衝撃が足場を砕き、崩落した足場ごと真下の川へと叩き落された。

 

「ラピリス!!」

 

「ゲホッ……! 私は無事です! そちらは……」

 

「違う、()()()!!」

 

ゴルドロスの警告を受け、反射的にその場を飛び退く。

その後ろを逃げ遅れた髪を一房断ち切りながら大槍が掠めた。

刀を構えて振り向くが、叩きつけられた衝撃で吹き上がる水柱に視界を奪われ、反撃すらもままならない。

 

(だがそれは向こうも同じ――――!)

 

互いに視界が切れた今が体勢を立て直すチャンス、後ろのゴルドロスと共に一度距離を取ろうと一歩足を引こうとした瞬間、水柱を突き破って巨大な槍の切っ先が現れた。

 

「なっ……くっ!?」

 

何とか身を捻り直撃だけは躱すが、空ぶったと見るや横薙ぎに振るわれた槍が軽々と私の身体を弾き飛ばす。

林の木々をなぎ倒して飛ぶ身体。 不味い、ゴルドロスと分断された。

早く戻らなければ、しかしダメージは脚まで届き、焦る気持ちに身体が追いつかない。

 

「―――おい、大丈夫かラピリス!」

 

「っ……ブルーム、スター……」

 

その背にふと聞き覚えのある声が掛かる。

やはり彼女も駆け付けていたか、不服ではあるがあの騎士相手に野良だなんだという余裕はない。

 

「無事、ですよ……そちらこそ大丈夫ですか、顔色が悪いようですが……」

 

「絶好調だよ、肩貸すか!?」

 

「必要ないです、それよりゴルドロスの援護を……!」

 

「分かった!!」

 

迷いなく彼女が雑木林を飛び抜けてゴルドロスの下へと向かう。

決断が早い、隣に立つなら実に頼もしい仲間だ。

だからこそなぜ彼女は野良に……

 

「……いけませんね、集中しましょう」

 

呼吸を整え、少しでも早くダメージの回復を図る。

先の手合わせだけで嫌でも分かる、あれは私達が全員で掛かっても勝てるか怪しい相手だ。

だからこそ一瞬でも早い復帰を、そして願わくばそれまで2人が持ちこたえていることを――――

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

禍々しい角を構えた黒い騎士が眼前に迫る。

図体も得物もデカいというのに所作の一つ一つとっても重々しさを一切感じさせない。

速くてデカくて硬くて強い、それだけでも十分な脅威だというのにそこへ“知性”が加わるのだから厄介だ。

 

単純なスペックだけなら軽く狛犬を凌駕しているというのに、繰り出す攻撃の端々にその技能の高さを感じさせる。

こちらに銃を構える余裕を与えず矢継ぎ早に攻め立てるかと思えば、意識が槍に振られたところに盾を構えた豪快な突進攻撃(シールドバッシュ)や砂利を跳ね飛ばした目潰しなどの搦め手まで織り交ぜてくる。

 

「コノ……! こいツ、強い!!」

 

間合いが離せない、中・近距離を保たれながら息つく暇のない猛攻が続く

紙一重の回避もいずれ限界が来る、防戦一方なこちらの僅かな隙を突いて、大槍が上段から振り下ろされた。

 

回避、無理――――防御、無理――――ああ、これは死ん――――

 

「――――“吹き飛べ、爆ぜる五番”ッ!!」

 

死を覚悟した瞬間、私と騎士の間にモノクロの影が割り込む。

その影が抱えた紙に槍の切っ先が触れた瞬間、乾いた音が弾けて振り下ろされた槍を跳ね除けた。

 

「……ブルームスター!!」

 

「悪い、遅くなった! 後は任せろ!!」

 

言うや否やブルームスターは体勢を崩した騎士へと肉薄する。

無茶だ、流石の彼女でもあの騎士との1対1は分が悪すぎる。

 

『む―――貴公、は?』

 

「っ! こいつ、喋るのか……!?」

 

二度三度たたらを踏んだ騎士はそこでようやく目の前の敵を認識する。

そのがら空きの腹に向けて全力の箒が振られ、そしてへし折れた。

 

「かったい……!」

 

「ブルーム、どいて!!」

 

駄目だ、そこらの素材で作った箒では盾どころかあの鎧すらも貫けない。

ブルームスターが射線を飛び退くと同時にロケットランチャーの引き金を引く、しかし煙を巻き上げて飛来する弾頭は直撃することはなく、横一文字に振られた盾に阻まれた。

 

「ああもう、紙っ切れみたいに振り回すナァ!!」

 

『……良い、貴公も戦士か』

 

「“凍氷よ、その牙を突き立てろ”!!」

 

新たな紙片から作った箒が騎士の足元へ投げつけられる、すると箒を中心にみるみると騎士の脚を氷が覆い尽くした。

 

「ハク!!」

 

≪BURNING STAKE!!≫

 

騎士の機動を完全に封じ、その隙を逃さんとブルームスターが跳ぶ。

迎撃しようと突き出された騎士の槍が彼女のマフラーを引き千切る、それでも紙一重で炎を纏った蹴りが騎士へと吸い込まれるように叩きこまれた。

 

『……温いな』

 

「なに……!?」

 

しかし騎士はまるで怯む様子も見せない、それどころか蹴りを決めた彼女の脚を掴み上げた。

そのうえ足元の氷すら膂力だけで容易く砕いて脱出する、こいつは本当に化け物か……?

 

「ブルー――――!!」

 

「―――“其は泥沼、汝が敵の行く手を沈めるもの”」

 

逆さまに掴み上げられたブルームスターの懐から新たな紙片が箒となって落下する。

それはまるで水面に溶けるかのように地面へ呑まれると、氷から抜け出した騎士の脚が地中へと沈み込む。

 

『むっ……?』

 

「今だ、ラピリス!!」

 

ブルームスターが声を張り上げ、それを合図にどこからか金物がぶつかる高い音が響く。

 

 

「……摂理反転、私は―――その距離を拒絶する」

 

ラピリスの声とともに、鎧と兜の継ぎ目から騎士の頭が切り飛ばされた。

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