俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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拝啓、彼方より ②

「で、話って何だ?」

 

『ああ、まず確認だが君達はローレルを倒した。 これに間違いはないか?』

 

「ああ、トドメは俺が刺したよ」

 

東京での決戦からまだ日も浅い、あの時の事は今でもはっきりと思い出せる。

厳しい戦いだった、一つでも踏み外せば俺はここにいなかったはずだ。

そして……その結果、ローレルの命を絶って魔法少女事変を終わらせた。

 

『そうか、生死については確認したかい?』

 

「……待て、まさかまだローレルが生きてるなんて言うんじゃないだろうな?」

 

『いや、彼女が生きているならこうしてボクらが目を覚ますことはない。 危惧しているのは別の状況だよ』

 

そこで少し言葉を選んでいるのか、ドクターとの会話が一瞬途切れる。

スピーカーの向こうからは吹き付ける風の音だけが聞こえて来た。 ……そういえば、ドクターは今どこにいるのだろうか。

 

『今、ボクは東京にいる』

 

「はぁっ!?」

 

俺の思考を読んだかのようにドクターが告げた現在位置は想定外のものだった。

東京、2つの事件が起きた災厄の地であり……現在はその余波によって多大な魔力に汚染され尽くされた場所だ。

土地に染み付いた魔力の汚染は酷く、今はまだ魔法少女すら立ち入れない。

 

「お前、どうやってその場所に……」

 

『“壁抜け”ぐらい容易いさ、元々暗躍していたころからの拠点でもある。 侵入程度問題はない』

 

「そうじゃなくて! 東京の魔力は――――」

 

『――――()()()()()()()()()()()()()()。 無論濃度としては濃い方だが、魔法少女として活動するなら何ら問題ない』

 

「…………え?」

 

『魔力は機器で計測できない、しかしそれでも勘のいい魔法少女なら肌で分かる。 魔法少女事変でローレルが東京都内にまき散らした魔力は残留していない』

 

駄目だ、頭の回転が追いついてこない。

ローレルとあの繭のようなものが振りまいた魔力は、確かにオーキスたちへ悪影響を齎していたはずだ。

魔力汚染も一日二日で霧散するようなものじゃない、それでも少量なら染みついた魔力ごと土やコンクリを削り落とせばいいだけなのだが……

 

「どういうことだ、あの規模の魔力が一瞬で消える訳がない」

 

『ああ、だがこう考えたらどうだろうか。 魔力は霧散したわけじゃなく、逆に()()されたのだと』

 

「凝縮って……東京じゅうの魔力がか? そんなものどこに……」

 

『おそらく確認するような余裕はなかったと思うが、ローレルを倒した後に魔石は回収できたか?』

 

「……!」

 

そうだ。 魔物を倒せばその核である魔石が残される、そこに例外はない。

どうしてそんな事を忘れていたんだ? いや……心のどこかでまだ「それ」を認めたくなかったんだ。

魔女ローレルはまだ人の域であると思いたかった。

 

『仮説はこうだ、賢者の石を作ろうとしたローレルが遺した莫大な魔力は魔石にならず、別の形で凝縮された』

 

「……その別の形というのが、つまり」

 

『あの凍結現象の犯人、七篠 月夜と考えている』

 

「…………」

 

証拠もない、根拠もない。 そもそもドクターは月夜の姿を1度たりとも確認していないはずだ。

だがその推理は不思議にも腑に落ちる、頭の中に散らばっていたパーツが1つずつ嵌って行くように。

 

「……話の内容は分かった、だけどなんで俺にその話を?」

 

『消去法さ、ラピリスたちに話せばきっと東京へ調査隊を派遣するだろう。 野良で最も信用できるのが君だけだった、癪だけどね』

 

癪だけど、の部分に随分感情を込めて言ってくれるもんだ。

だがこちらもその信用を無下にするわけにはいかない、ドクターから提供される情報は希少だ。

魔法局が調査を始めたら野良である自分に東京の情報は回ってこない。

 

「定期的に連絡をくれ、それが条件だ」

 

『ああ、分かった。 魔法局が東京の状況に勘付くまでの協力関係でいよう』

 

話すことを話せばドクターからの通話は一方的に切れた。 しかしまた近いうちに着信が鳴ることだろう。

それまでに俺も頭の中を整理したい。

 

「……ローレルが魔石の代わりに作った月夜の偽物、か」

 

字面に直してみると突拍子もないものだが、既視感を覚えるのは何故だろう。

……この既視感は気のせいなのだろうか。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「まずは第一関門クリア、か」

 

ブルームスターとの通話を終え、大きく息を吐く。 選択を誤ればしばらくの逃亡拠点を早速失ってしまう所だった。

2度の事件に巻き込まれた余波で随分大破してしまったが、それでもこの東京は今の自分には十分な物資と屋根がある。

 

「それに……ここにはアレがあるからな」

 

第一魔力研究所、“災厄の日”に東京と共に喪失された人類のブラックボックス。

発見された研究内容はほとんどローレルに徴収されていたが、彼女がいない今となってはどんな資料も読み放題だ。

寄りつく魔法少女も今はいない、七篠 月夜の件も気になるが並行してこちらも調査を進めねば。

 

「しかし、魔力の実体化か……」

 

適当に束ねた資料を纏めながら、思考を纏めるためにぶつぶつと独り言を繰り返す。

我ながら突拍子もない仮説だと思う、()()()()()()()()鼻で笑っていただろう。

 

……そうだ、前例がある。 人類は過去に賢者の石の製造に挑戦し、失敗したことがあるんだ。

 

「…………災厄の日から今に至るまで―――――全ての事件は繋がっているのか……?」

 

10年前のあの日、人類は東京の喪失と共に大量の魔力と魔物を生み出してしまった。

事故の規模はローレルの比ではない、しかし今も人類は存続できる程度に魔力の濃度は薄いものだった。

今だからこそ疑問に思う。 あの日人類は一体何を生み出してしまったのだろう。

 

―――――賢者の石の失敗作は、2つある。

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