俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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拝啓、彼方より ⑦

『扉を開け、素早く体をねじ込み、扉を閉める。 OK?』

 

「無茶言うネェ! やるけどサ!!」

 

外側から非常脱出用の扉に取り付き、無理矢理こじ開けた隙間に身体を滑り込ませる。

予想以上にすんなり開いた扉は既に崩壊寸前だ、慌てて内部からダクトテープで補強したが時間の問題だろう。

外に残してきたブルームも気がかりだ、早くこちらの仕事を終わらせて合流しないとまたあいつは無茶をする。

 

「魔法少女ゴルドロス、救難信号に応じて馳せ参じたヨ! 生存者は!?」

 

『……返答はない、生体反応を探ってみる。 10秒だけ欲しい』

 

「頼むヨ、せめて一人だけでも……!」

 

機内の様子はなぜか暗く、良く見えないが近場の客席は鋭利な爪で切り裂かれたような痕跡だけ残されている。

耳を澄ませても生存者の息遣い一つ聞こえてこない。 予測していたことではあるが……すでにこの旅客機は巨大な棺桶と化してしまっているのか。

 

『…………検索結果が出た。 死者は0名』

 

「やっぱり、みんな死…………What?」

 

『繰り返す、機内に確認できる死者は0名。 信じられないが結果に間違いはない』

 

焦る気持ちを落ち着け、改めて周囲を確認する。

暗闇に慣れた目で改めて機内の様子を見渡す。 ……確かに、内部こそかなり荒らされているが人の死体は見当たらない。

床には血痕も零れているが、どう見積もっても致死量には及ばない。 それに……

 

「…………魔石だネ」

 

スクラップに紛れて床に転がっているのはあのグレムリンたちと同じ魔石だった。

一般人が魔物を倒したという事は考えにくい、だとしたら考えられるのは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ツヴァイ、この旅客機には護衛の魔法少女が乗っていたって話だったよネ?」

 

『肯定する、この戦闘痕から考えていまだ生存している可能性は高い』

 

「急いで探すヨ! 生きていても連絡途絶えていたなら何かあったはずサ、他の乗客も――――」

 

 ―――――ぴ…………ん…………

 

『…………待った、スピーカーが異音を拾った。 何か聞こえる』

 

すぐさまガチャガチャ五月蠅い重機をぬいぐるみに押し込み、耳を澄ます。

……かすかだが、確かに人の声が聞こえてくる。 これはこのエコノミークラスからじゃない、ビジネスクラスの方から聞こえてくるものだ。

 

「――――ぴえええええええええええん!!!! もうマジ無理死ぬ死んじゃう限界無理やだ吐きそうぴえん超えてぱおん!!! フォロワー助けて! いや駄目だわ、犠牲者増えちゃう!!」

 

「……なんかまだ、余裕ありそうカナ」

 

『彼女なりのSOS、急ぐべき。 ビジネスクラスに生存反応多数、あの扉の向こうに魔法少女“ボイジャー”が待っている』

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

《マスター、後ろ! 避けて! 次は直上、今度は受けて! ああ左右から飛んできますよどうしますこれ!?》

 

「だぁーもう! 次から次へと!!」

 

四方八方から飛んでくる新作兵器を前に命がけの時間が続く。

小鬼が振り回す武器は一機ごとに性能がまるで違う、僅かな猶予の中で対処法を見極めて被害を避け続けるのは至難の業だ。

ハクのサポートがなければとっくにお陀仏だったことだろう、だがしかしお蔭で慣れて来た。

 

「魔法少女以外に当たらない弾、外れると死角から飛んでくる矢、1秒遅れて斬られる剣……どいつもこいつも面倒な性能しやがって……!」

 

《後手後手ですね、そろそろ時間もないですよ!》

 

頭と神経を使い過ぎて頭痛がしてきた、残り時間は既に1分を切っている。

これ以上は敵を引きつけるのも厳しい……そろそろ頃合いか。

 

「ハク、5秒後に一瞬だけタイマーを切ってくれ。 一拍遅れて黒衣を解除する」

 

《…………何か考えがあるんですか?》

 

「ああ、時間がない。 頼んだ」

 

《分かりました、何する気が知りませんが後で殴ります》

 

「理不尽……!」

 

とはいえ口論する時間はない、5秒後はあっという間に訪れる。

集中しろ、感覚を研ぎ澄ませ。 呼吸を整えて狙うのは一瞬だけ生まれる好機だけだ。

 

《5,4,3,2,1……タイマー、切ります!》

 

ハクの言葉通り、制限装置が外された黒衣が牙を剥く。

自分の身すら焼く熱量は即座に全身を蝕み、足場の機体すら焦がし始める。

運悪く近くにいた小鬼たちも巻き込まれて一瞬で塵へと変わった、可愛そうに。 だが本来に狙いはそっちじゃない。

 

「「「……ギ、ギ?」」」

 

戦闘の最中だというのに小鬼たちが一瞬、戦意すら忘れてその場に呆け出す。

別に俺の姿を見失ったわけじゃない、ただ誰と戦っていたのかを“忘れた”だけだ。

 

「まったくよ、好き勝手やってくれたよなぁ」

 

「「「…………ギギィッ!?」」」

 

目当ての小鬼の背後から悠々とその手の得物を奪い取る。 

今さら俺の存在に気が付いた小鬼が驚愕の表情を浮かべるがもう遅い、目的の武器は奪い取った。

 

「ずっと探してたんだよ、出来るだけ機体を傷つけずにお前たちを倒せる武器をなァ!」

 

「「「ギ……ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

 

ありったけの魔力を注ぎ、小鬼の発明品を箒に変形させる。

振るった瞬間、その軌道をなぞる様に伸びた光線が射線上の小鬼たちを手当たり次第に焼き切って行く。

 

「良いもの作ってくれたな、ありがたく使わせて貰うよ!」

 

墜落までの猶予はすでに30秒ほど、しかし残った魔物たちを殲滅させるには十分すぎる時間だった。

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