俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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片割れのU/限りなくクロに近い赤 ⑤

逆さまの視界で吹き飛んでいく騎士の兜を見送る。

兜と切り離されて残った胴体に頭は乗っていない、首から上は完全に断ち切った。

 

……だというのに、この胸騒ぎはいったいなんだ?

 

「ヤッタ! ブルームスター、今助け……」

 

「―――来るなゴルドロス! まだ終わってねえ!!」

 

おかしい、首は刎ねられたはずだ。 だというのに俺の脚を握り締める腕の力がまるで緩む気配がない。

その違和感に気づいたのは、横薙ぎに振るわれた槍がゴルドロスの体を弾き飛ばした後だった。

 

「ゴルドロス!!」

 

吹き飛ばされた体は金髪をはためかせて空を舞い、頭から地面へと墜落する。

魔法少女体なら落下自体のダメージは無いはずだ、しかし横たわる彼女の体は糸の切れた人形のようにピクリとも動かない。

 

『……成る程、“音で斬る”のか。 見事』

 

首を亡くしたはずの騎士が喋る、その首の断面からは血のように赤黒い炎が煌々と燃え盛っていた。

その炎の影はまるでドクロのように揺らめいている、鎧の中には肉体など最初から詰まっていなかったのか。

 

『だが、この身を殺すにはまだ……』

 

「うるせえ、退け!!」

 

≪IMPALING BREAK!!≫

 

胸元から取り出した羽を掌に収め、俺の脚を握る腕へ叩きつける。

そして接射された羽箒が騎士の腕を籠手の上から抉り、勢い余ってはるか上空へと飛び上がっていった。

 

『むっ……』

 

「ゴルドロス、無事か!?」

 

拘束が緩んだ隙に脚を引き抜き、身体を反転させて脱出させて横たわる彼女の下へ駆け寄る。

眼は開かない、意識はないものの呼吸はしている、だが幾ら声を掛けても目を覚ます気配がない

 

《大丈夫ですマスター、気を失っているだけです! あまり揺すらない方が……》

 

『――――仕損じたか、己もまだまだ未熟』

 

背後の騎士が改めて、と言わんばかりに槍を構え直す。

……仕損じたと、当たり前だがこいつは殺す気だったんだな。

 

「……ふざけやがって」

 

《ちょっ、駄目ですマスター! こちらも魔力の残量が……》

 

≪BURNING STAKE!!≫

 

2人纏めて串刺しにせんと迫る槍先へ向け、振り向きざまの蹴りを叩きこむ。

()()()()()()()蹴撃は槍先を砕き、更に平たくなった断面へ叩きこまれた二度目の蹴りが騎士の一撃を完全に弾き返した。

 

『……ほう』

 

炎の中に揺らめくドクロがニヤリと笑う。

ふざけやがって、何がおかしい。 お前のせいでゴルドロスは死にかけたんだぞ。

 

「テメェの相手は俺だ、首無し野郎。 ぶっ殺してやる……!」

 

『……そこな戦士も死を覚悟の上で戦いに臨んだはず、貴公が憤る道理はない』

 

「ふざけんな!!」

 

空を舞う槍の穂先を掴み、地を蹴って騎士へと肉薄する。

盾をかいくぐっても奴の鎧は堅い、貫くならさっきと同じくゼロ距離でバンカーを叩きこむしかない。

しかし相手も接近を読んでいたのか、こちらの動きとほぼ同時にバックステップを踏み、距離を取った。

 

体躯の差ゆえ一歩の差がデカい、相手にしてはわずかに退いただけでもすぐさま槍の間合いへと戻される。

上段から羽虫を叩き潰すかのように振り下ろされる巨槍―――に向け、槍の破片を握り込んだ掌を叩きつけ、バンカーを撃ち込んで辛うじて逸らす。

撃ち込んだ腕が嫌な音を立てて変な方向へ曲がるが知った事か、槍を振り下ろした今がチャンス。

 

……だが騎士はあっさりと槍を手放し、素早く引き戻した拳を握り締めた。

ムカつくほどいちいち判断が速く、振り抜かれる拳は避けきれない、羽箒を拳へ突き刺してなんとか弾き飛ばされないように踏ん張る。

 

ぶん殴られた衝撃で頭が眩むが関係ない、殺す、こいつはここで殺してやる。

死を覚悟の上でだと?お前ら魔物が現れなければ誰もそんな覚悟は必要なかったんだ、お前たちが現れなければ誰も、何も、俺も――――

 

「お前たちが、いなければ……!」

 

胸に渦巻く感情が溢れて止まらない、吐き出す言葉に呼応するかのように首に巻いたマフラーが黒ずんでいく。

握る羽箒から黒炎が漏れ出す、相打ちでも良い、こいつはここで―――

 

「――――退()けよ、盟友よ!!」

 

「……っ!」

 

上空からの声に我へと返り、反射的にその場を飛び退く。

その瞬間、騎士の周囲にいくつもの魔法陣が現れ、魔法陣から飛び出した鎖が騎士の四肢を絡めとった。

 

『むっ……』

 

「“汝、悪逆を成さんとする咎人よ! 縛り付けるは怨嗟の鎖、輝く光は聖なる銀! 我が身我が名にしたが―――あうっ!!」

 

騎士を仕留める必殺の魔術……しかしその詠唱は真下から飛び込んできた銃弾によって遮られる。

銃弾がシルヴァの本を撃ち落とし、彼女の集中力が切れたせいで周囲に現れた魔法陣と鎖が消滅してしまった。

 

「キヒッ! バレバレだっつの、ンな手はさぁ!」

 

振り向けば橋だったものの瓦礫の上で、スピネが得意げにガンスピンを見せつけている。

あいつ、あの距離からハンドガンでシルヴァの本を落としたってのか……!

 

「め、盟友~~~! 万策尽きたぁ!」

 

「シルヴァ、お前だけでも逃げろ! 俺はこいつを―――」

 

『―――どこを見ている』

 

いつの間にか背後に迫った黒騎士が、槍の代わりに握りしめた盾を横薙ぎに振るう。

速度と質量が乗った盾は軽々と俺を弾き飛ばし、未だ水温の低い川の中へと突き落した。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「盟友! き、貴様ぁ……!!」

 

「キヒッ、終わる時はあっけないねー。 でもこれでお終……ん?」

 

嗤うスピネの足元に、一筋の切れ込みが入る。

それは彼女を飲み込むように大きく口を引くと、中から伸びた腕がスピネの脚を掴んで内部へと引きずり込んだ。

 

「へっ? ちょっ、まっ!? 邪魔すんな姉ちゃあああぁぁぁあぁぁぁ……」

 

『……むっ、口惜しいが仕方あるまい』

 

続けて同じように騎士の足元にも穴が開き、その巨体が吸い込まれていった。

その後に残されたのは3名の魔法少女と、ごうごうと流れる川の音だけだ。

 

「っ……青き者よ! ここは任せた、我は盟友を助けねば!」

 

「あ、あお……私にはラピリスという名が……! いえ、いいです。 ブルームスターを頼みます!!」

 

ラピリスとやらは金色の相方の下へと走る、その姿を尻目に我は空から盟友の姿を追いかけた。

魔法少女は不死身ではない、高所からの落下などは耐性があるが「窒息」はダメだ。 幾ら我々でも空気を断たれれば死んでしまう。

 

川の流れは速い、早く追いかけねば見失ってしまう。

落ちた本を拾う余裕すらなく川の流れを辿る、このまま海まで流されてしまえばお終いだ。

 

気ばかりが焦る、このまま探して見つかるのか?

何か見つけるための魔術を構築すべきか、駄目だ詩が浮かばない。 今即興で組んだとしてこのまま探す方とどちらが速い? そもそもただ探して見つかるのか?

 

頭の中をぐるぐると思考が回る。 駄目だ駄目だ、考えている間にも体を動かせ。

こうしている間にも彼女は……

 

「…………えっ?」

 

思わず素の声が口から漏れてしまった。

川の中から突き出した岩、そこへ引っかかる人影を見つけた。

それは探し求めていたもので、予想とは異なるもの。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「七篠、さん……?」

 

特徴的な火傷が刻まれた顔は蒼白に染まり、瞼は重く閉じられている。

その姿は紛れもなく、あの喫茶店で働く青年のものだった。




【ちょっとした小話:ブルームスターのマフラー】

ブルームスターが首に巻いてるマフラーの名前は「白華帯(はっかたい)」。
外敵からの強い衝撃に対して瞬間的に硬化して急所を保護できる優れもの。
黒騎士の槍では千切れたが時間経過で修復される。
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