俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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100億ドルの花束を ③

「……そういえば、今日は誰も来ないな」

 

朝の支度を終え、誰もいない店内で来客を待つこと数時間、ふと愚痴が零れた。

 

「何言ってんですかマスター、お客さんが来ないのはいつもの事でしょう」

 

「店長の前でいい度胸ね、まかないからデザートを引いておくわ」

 

「ひえぇー! 藪蛇でしたぁ!!」

 

「下手な事は言うもんじゃないな……ってそう言う事じゃない、昨日からアオも帰ってこないだろ」

 

旅客機墜落からまだ日が明けたばかりだ、色々と後処理に忙しい魔法少女は家に戻らないことは珍しいことじゃない。

それでもここまで連絡もなく、顔も見せないのは珍しいことだ。 

 

「また次の厄介ごとが転がり来たんですかね、てんやわんやで連絡する暇もないとか」

 

「はははまさか、優子さんはどう思います?」

 

「そうね、たった今連絡が来たわ」

 

優子さんがポケットから引っ張り出した携帯は、独特の着信音を鳴らしながら身を震わせていた。

たしか優子さんが気に入ってるあの曲は、アオから着信が入った時のみ流れるものだ。

 

「はい、私よ。 ……そう、遅くなりそう? 分かった、ただ顔は見せに来なさいよ、それじゃ」

 

「優子さん、アオはなんて?」

 

「私達にも話せないような仕事が入ったみたいよ、しばらく忙しくなるようね」

 

「うーん? 魔物が出たって訳じゃなさそうですね?」

 

ハクと優子さんが揃って小首をかしげる。

家族である優子さんにすら詳細を明かせないとなるとただ事ではない、考えられるとすればツヴァイたちのような密命を受けたか。

まさか魔法局も昨日のどたばたから休息を挟まず、急を要する別件をあてがうほど人手出不足じゃあるまい。

だとすれば、あの旅客機が何らかの形で関わっているのだろう。

 

「……推測は出来ても出来る事はないか、帰って来た時に労える準備だけはしておこう」

 

「私は何か手伝えることあるかしら?」

 

「「座っててください」」

 

俺とハクが声をそろえて拒絶すると、不貞腐れた優子さんが二階に引っ込んでいった。 

気の毒だが、上達の芽がない以上は厨房に立ち入らせるわけにはいかないんだ。

と、階段を上って行った優子さんと入れ替えで入店を知らせるベルが鳴った。

 

「あら、お客さんですね。 いらっしゃいま……」

 

「フン……掃除は行き届いておるようじゃな」

 

ドアベルを鳴らして扉を潜って来たのは腰が折れた枯れ木のようなご老人だった、日本語が上手いが外人の方だろうか。

そしてその後ろからぞろぞろついて来たのはガタイの良い黒服が数名と……申し訳なさそうな顔をしたアオ&コルトだった。

 

「お兄さん……お客様が1名です……」

 

「あ、アオ? この大所帯は一体どうした?」

 

「詳しいことは話せないのですが……こちらのご老人は“然る御方”ということで」

 

ふん、と老人が鼻を鳴らす。 しわが刻まれた彫りの深い顔立ちは神経質に店内を窺っていた。

黒服たちはSP、それにアオたちが警護につくとなるなんて並大抵の事じゃない。

なるほどこれが電話口で話していたことか、しかしこの老人はどこかで見覚えが……

 

「どっこいせ……若いシェフよ、メニュー表はどこにおいてあるのかのう」

 

「あっ、と……失礼しました、今お持ちします!」

 

すぐさまストック棚からメニュー表を引っ張りだし、水の入ったグラスと共にテーブルへ提供する。

SPの方々は座りもせずに老人の周りから離れず、アオとコルトも隣のテーブルに気が気じゃない様子で座っている。 あの2人にはついでに胃薬も渡しておくか……

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「どうしてこうなったんだろうネ……」

 

「コルト、私語は慎みなさい。 職務中ですよ」

 

テーブルに突っ伏した私を、背筋を伸ばして椅子に座るサムライガールがたしなめる。

気を張ってるが、サムライガールも雷親父の警護に精神をすり減らしているのは同じだ。

あの爺さんも勝手が過ぎる。 腹が減ったのはしょうがないが、やれ「高い店は腹が膨れない」だの「下手な店じゃ気が休まらん」だの。

 

挙句の果てに「信用できる店を探せ」と聞き出されたのがこの店だ、せっかくおにーさん達には機密のはずの仕事がこれじゃ台無しだ。

 

「これサー……やっぱ説明しとかないと駄目だよネ」

 

「そうですよね……私が行きましょう、少し席を離れます」

 

重い腰を上げ、サムライガールが厨房の方へと向かっていった。 

……もしかして、この状況は私と爺さんが取り残された形になるのでは。

 

「なんじゃ、あのサムライ娘はどこにいった?」

 

「厨房だヨ、この店はサムライガールの実家だからネ。 従業員に誤魔化しながら事情を説明に行ったんじゃないカナ」

 

「ふん、なるほどな。 だから信用できる店というわけか、合点が言ったわい」

 

わし鼻を鳴らし、爺さんはこちらに向けていた視線をまたメニューへと落とす。

相変わらずいけ好かない爺さんだ、何かあればすぐにこうして魔法少女の落ち度を突っつこうとする。

アメリカでもこうした護衛の仕事で何度か顔合わせしたこともあったが、そのたびに毎度毎度……

 

「して、ジャリ娘よ。 あの若造の顔は何じゃ」

 

「……おにーさんの火傷の事? 何って言われても、流石にそこから先の言葉次第じゃ私も穏便じゃないヨ」

 

「違うわ阿呆! 相変わらず喧嘩っ早いガキじゃ、聞かれたくないなら黙ってるわい」

 

「そうしてほしいカナ、あまりいい思い出じゃないみたいだからサ」

 

「そうか……悪かった、魔法少女に謝るなど癪に障るが謝罪しよう」

 

「一言二言ぐらい余計だネェ本当にサ!」

 

口を開けば魔法少女の悪口を言わなければ閉じられないのかこの爺さんは……それでも、過去の事を考えると仕方ないことなのかもしれない。

 

爺さんの孫娘は――――魔法少女のせいで死んでしまったのだから。

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