俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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片割れのU/限りなくクロに近い赤 エピローグ

「……どういうつもりぃ、お姉ちゃん? もう少し待っててくれれば一人二人ぐらいは殺れたのにさー」

 

「あーかーねーちゃーん? もう、治りかけなんだから安静にしてって言ったでしょ!」

 

薄暗い廃墟の中、少女二人の声が響く。

その声はどちらも怒気が混じっている、銃をぶら下げた少女に至っては地団太を踏んで足元のコンクリ片を踏み砕くほどの憤りだ。

 

「それにほ、ほら。 黒騎士君もぼ、ぼろぼろだから……ね?」

 

『……姉君、この身の損傷は気にせずとも』

 

「だーめーでーす! 万が一があったらどうするの!!」

 

確かに頭部と腕部の損傷は激しく、内部から我が身を構成する魔素が流出しているが致命的なものではない。

継続戦闘には支障はないとは思うが、姉君の言う通りリスクを考えれば撤退も考えられない手ではなかった。

 

「や、槍も折れちゃったしぃ……どどどどうする? 直る?」

 

「ちっ、直すよこんなもん……ほら、お前もだよ! ニャロー、あんな馬鹿力隠してやがったとは……」

 

創造主が我が手を引いて“工作室”へと向かう、この身に負った傷は我が不徳の致すところだ。

あの黒炎の少女との死闘は心躍るものだった、次に会えば……今度こそどちらかの命が散る戦いを臨みたい。

 

『……我が創造主よ、次は勝つ』

 

「ンなの当たり前だよ、はじめっから勝てや。 てか今日お前よく喋んね、機嫌良いのかよ」

 

機嫌か、確かに血肉が湧き踊る体験だった。

この胸に灯る高ぶりはそのような表現を当てはめて差し障りがないものだろう。

己は、今、機嫌がいい。

 

「……あっ、そうだ。 今から焼きそばパン作るから、お腹減らしてま、待っててねっ!」

 

「…………買ってくるだけで良かったんスけど」

 

学習、姉君は融通が利かず凝り性である。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……なるほど、ボクが寝ている間にそんなことがあったのか」

 

≪治シマッセー、癒シマッセー!≫

 

≪包帯巻キマッセー≫

 

≪ヘ゛ェアハァ゛……私ノ才能ニ不可能はァ……ナァイ!≫

 

飲めるタイプのヨーグルトをストローで啜りながら、ドクターがゲーム機を操作する。

今彼女が起動しているのは医療ゲーム、ゲーム機の指示に従って動く小人たちはよく分からないプロセスを得て私とコルトの治療を進める。

お通夜の様な空気の作戦室ではただボタンを叩く音と包帯を巻く衣擦れの音だけが響いた。

 

「……あいつ、今までのどんな魔物よりも強いヨ。 一撃喰らうだけでこのザマだもノ」

 

「ええ、攻防一体の武装にあの図体で俊敏に動ける機動力。 シンプルに強い故対策が取りにくいです」

 

「……事実上、ブルームスターとシルヴァの2人と協力して倒せなかった。 オマケに頭を刎ねても死なないなんて……」

 

頭を抱えた縁さんがブツブツ独り言を繰り返しながら、部屋の中を彷徨う。

彼女なりのルーティーンだ、邪魔をしない様に周囲の職員が器用にうろつく彼女の進路を避ける姿はどこか面白い。

 

……勝てなかった、その事実が胸を突き刺す。

もしあの時に奴らが撤退しなければ全滅、そうでなくとも街までの進撃を許していたことだろう。

魔法少女として大切な人を守る使命を帯びているというのに、あまりの情けなさで無意識に首から下げたペンダントを握り締める。 ……ペンダント?

 

「……そうだ! ドクター、このペンダントなのですが……」

 

「ん? ああ、そういえば説明を忘れていたね。 だけどその様子なら即戦力には出来ないかな」

 

「ン? どういうことだヨそれは?」

 

「黙れ金髪」

 

「なんで私の時だけ辛辣なのサ!?」

 

確かに対応は辛辣だがコルトの疑問はもっともだ。

今は少しでも期待できる材料が欲しい、だというのに使えないというのはどういう事だろうか。

 

「……葵、それはまだ原石の様なものでね。 君の強い意思に呼応して花開くように出来ている、逆に言えば意志が弱い限り使えないということだ」

 

「何でそんな面倒な仕様にしたのサ」

 

「ボクに質問するな」

 

「よぉーし分かったヨ表出ろお前!!」

 

「はーいそこまでそこまで!」

 

喧嘩が始まりそうな二人の間に縁さんが割って入る。

……意志の力で開く力、つまりまだ私の意思が弱いということか。

 

「……面倒な仕様になったのは不可効力だよ、それは疑似的な“杖”だと思っていい。 君の新たな決意と共に形となる」

 

「決意……わかりました、すぐにでも形にして見せましょう」

 

いつまたあの騎士が現れるかも分からない、それまでに一秒でも早くこの力をものにしなければ。

傷が治り次第訓練室に籠ろう、今日は家に帰れないかもしれない。

 

「……言っておくけど無茶な特訓はドクターストップするからね」

 

「むぅ……」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

暗い闇の底から意識が引き上げられる。

寒い、なんでこんなに寒いんだ? 俺は確か……

 

「―――黒騎士! っ……!」

 

《ちょっとマスター、まだ無茶は厳禁ですよ!》

 

起こした体に激しい痛みが走る、最後に騎士の盾でやられたものか。

―――あれから一体どうなった?

 

《マスターがどんぶらこしている間に何故か騎士たちも撤退してしまいました、コルトちゃん達も無事です》

 

「どんぶらこってお前……いや、無事ならよかった」

 

痛む腕で頭を抱える、もはや突っ込む気力もない。

……そういえば腕が折れていたような気がしていたのだけど、気のせいか?

 

《大分下流の方に流されましたけど……ぐ、偶然河岸の方に流れ着きましてね! あははは……》

 

「そうか、ここがどこか分かるかハク?」

 

《ええ、ナビゲーションは任せてください。 ……風邪もひきますし、今日はもう帰りましょう》

 

「……そうだな、店に戻るか」

 

痛む体を引きずり、ハクが導くまま帰路を辿る。

……最後は川に叩き落されたことは覚えているが、何故か戦っていた時の記憶はおぼろげだ。

記憶の端に黒い炎がちらつく、確かあの炎が灯っていた時はいつも以上の力が出せた。

 

あの力だ、騎士と戦うにはあの力が必要だ。 あの炎さえ使いこなせればきっと……

 

「黒い炎があれば……」

 

《――――……》

 

そういえば優子さんにはなんて言い訳しよう、買い物帰りに負った怪我にしては酷すぎる。

まあ、どうにかなるか……どうでもいいや。

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……おかえり、遅かったわね。 夕飯は昨日の残り温めておいたから、先に風呂に浸かってきなさい」

 

「……へっ?」

 

恐る恐る喫茶店へと戻ると、朝と変わらない様子の優子さんが待っていた。

てっきり怒鳴られるものかと身構えていたのだが、彼女は少し眉をひそめるだけでそれ以上は何も言わなかった。

 

「何よ、私の顔に何かついてる?」

 

「あ、ああいやなんでもないっすよ。 あはは……」

 

愛想笑いを残し、逃げるように二階の自室へ駆け込む。

不気味だ、優子さんにしては大人しすぎる、何か変なものでも食ったのだろうか?

 

「なあ、どう思うハク?」

 

《さーて、私は何もわかりませんよー》

 

取り出したスマホの中では不貞腐れた様子のハクがふよふよと画面端へ消えて行く。

またか、最近ハクはたまにこのスマホの中からいなくなる時がある。

それでもしばらくすれば戻ってくるから気分転換にどこかをほっつき歩いているのだろうけど……まあ、都合の悪いことでもないし優子さんの事はあまり気にしなくてもいいか。

 

「はぁーぁ……ん?」

 

汚れた衣類を脱ぎ捨てる、その時にふとベッドに投げたスマホの画面が目に入った。

いつもと変わらないホーム画面、しかし何というか拭いきれない違和感がある。

目を凝らすと変身用のアプリの下、背景に紛れて透明なアプリの枠が薄っすらと映る。

 

「なんだこれ……新しいアプリ?」

 

変身用、燃える蹴り、羽箒に続く第四のアプリ。 その下には同じく背景に紛れた文字でこう綴られていた。

 

「Hazard」――――“危険”と。




【ちょっとした小話:一般人は絶対に魔物を倒せない?】

一応昔に魔物を倒そうとする作戦を自衛隊が決行したことがある、内容は以下の通り

①巨大な落とし穴を掘る
②魔物をそこへ誘導して落す
③鬼のように生コンを流し込んで窒息させる

しかしコストが高すぎるうえ成功率もかなり低く、結局魔法少女だよりになってしまった。
それでも魔物でも酸素が必要という研究結果は有用であり、最終手段として「魔物を水中におびき出し、水中内の酸素ごと破壊する」荒唐無稽な作戦も提案されたが、結局机上の空論として棄却された。
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