俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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嫉妬の対価 ⑥

《マスター、無線機に通信アリです!》

 

「分かってる、構えろゴルドロス! 爺さんは下がって!」

 

無線機への着信を合図に、俺たちは弾かれたように動き始めた。

俺とゴルドロスが爺さんを挟んで前後をカバー、神経を研ぎ澄ませて遭遇に備える。

相手も爺さんがいる以上は建物をぶち抜くような無茶は出来ない、必ず襲ってくる前に姿は見せる。

 

「この距離なら間違えない、プンプン臭って来るヨ! 3時の方向、どんどん近づいて来る!」

 

「……!」

 

こちらにはゴルドロスの知覚能力もある、大抵の奇襲は防げる。

しかし敵がここまで辿り着けるという事は、裏を返せは道中のラピリス達を退けて来たわけだ。

 

……大丈夫だ、ラピリス達はそう簡単にやられない。 危機的状況なら無線機から発信されるのは救難信号に変わる。

魔法少女たちの実力は信頼できる、だから俺は俺で自分の仕事を果たすしかない。

 

「ゴルドロス、多めに武器を出しておいてくれ。 退路の確保だけは忘れ―――」

 

ゴルドロスに示唆された3時方向へ箒を構えた瞬間、廃会場の壁が爆散した。

 

「―――あれェ? こっちのはやけに人少ないわねェ、しかも一匹は昨日仕留め損ねた黒いのじゃない」

 

「……出会い頭でずいぶん失礼なやつだなオイ」

 

扉ごと粉砕された瓦礫を踏み砕き、登場したのはおよそ2m近い「蜂」だった。

人のシルエットに蜂の造形を張り付けた不格好な怪物、たった今舞い散った土埃こそ身に纏えど、その身体には刀傷一つついていない。

 

「……あ、あやつが……ワシの……!」

 

「飛び出すなよ、爺さん。 ……言葉が通じるみたいだな、外にいた魔法少女たちはどうした?」

 

「アッハ! 死んだわァ、全員」

 

「嘘だな、一矢すら報いずに死ぬ連中じゃない。 上手いこと逃げまわってきたなお前」

 

顔面の半分以上を覆う複眼の下、頬の筋肉がヒクリと引きつったように見える。 図星か。

それに遮音性の高い壁面を壊してくれたおかげで、外の喧騒も大分耳に届くようになった。

本丸がここまで到達しているというのに耐えず聞こえてくる戦闘音、大方別の魔物にラピリス達の処理を押し付けて来たという所か。

 

『こちらツヴァイ、ターゲットを逃した。 現在多量の魔物と交戦中、そちらの健闘を祈る』

 

『園、連絡が終わったら手伝ってくださいまし! 輪切りにされたミミズがまだ動いてますわー!!』

 

『退いてください、纏めて炭にします!!』

 

「…………アー、まだ生きてんだァ。 あれだけ(けしかけ)けたらすぐくたばると思ったのに」

 

無線機から響く声に蜂女がうんざりとした顔を見せる、不思議なもので人間離れした顔面でも表情というのは分かるものだ。

 

「ブルーム、気をつけなヨ。 明らかに知能が高い、やっぱりツヴァイの妹が言ってたように……」

 

「ああ、魔人だな。 だからといってやることが変わるわけじゃねえ」

 

箒を握る腕に力が籠る。 黒騎士、ペストマスク、そしてローレル……これまで出会った魔人はどいつもこいつも強敵と言っていい相手ばかりだ。

楽に倒せる相手じゃないのは明白、おまけに俺はこの足だ。

 

「爺さん、俺が合図したらすぐに逃げろよ。 ここから先は魔法少女の仕事だ」

 

「待て、箒の。 その前に一つだけ話をさせろ」

 

駄目だ、と突っぱねようと逡巡する……が、何を言っても納得するまでこの爺さんは引く気がなさそうだ。

相手の魔人もまだこちらに手を出す気はないように見える、用事を済ませるなら今が好機か。

 

「ハロー、じいさァん。 アッハ! こうして顔合わせるのは二度目かなァ」

 

「……やはり貴様があの時の魔物で間違いないのか、ただ一つだけ聞きたい事がある」

 

歯を食いしばり、今にも飛び掛からんばかりの憎悪を滲ませた爺さんが魔人を睨みつける。

それを意にも返さず、魔人は嗤う。 これから行われる問いの内容など百も承知と言わんばかりに。

 

……爺さんが聞きたい事なんて俺でもわかる、本当は止めるべきなんだろう。 

きっと望んだ答えは返ってこない、納得できるような言葉は聞けない。 ただ自分の心が余計に傷つくだけだ。

 

「何故……ワシを狙う、何を思ってこのような真似をした? ワシに何の恨みが―――」

 

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―――人の命を奪う事に大層な理由なんてない。 分かり切っていた答えだった。

目の前の魔人から感じるものはこれまで出会ってきた魔物たちと何ら変わりない。

いや、むしろより研ぎ澄まされた純粋な「悪意」しかないのだ。

 

「……なん、じゃと?」

 

「やだ、怒ってるの? でも許してよね、私はただ欲しかっただけなのに」

 

「爺さん、聞くな。 もういいだろ」

 

「人の音楽って素敵よね、とくにあなたの指揮する演奏! 私一回聴いて惚れこんじゃったの、だから欲しくなっちゃった!」

 

「……もういいっつってんだろ」

 

「だけど困ったわ、音楽ってどうやったら手に入るのかしら。 そうして考えたのよ! 耳を傾ける観衆も、あなたの演奏も、全部全部潰しちゃえば私だけのものになるでしょう?」

 

 

≪IMPALING BREAK!!≫

 

魔人に向けて投擲した箒は、こともなげに片手で止められる。

そのまま鉄筋作りの箒はまるで紙くずを丸めるかのようにグシャグシャと握り潰された。

 

「……しつけのなってない餓鬼、そんなに早く死にたいの?」

 

「―――それはこっちの台詞だよ、クソヤロウ。 御託は良いからさっさとかかって来い」

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