俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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嫉妬の対価 ⑦

はじめはちんけな魔物だったと思う、漫然とした意識がいつの間にか「ワタシ」になっていた。

ただある日から力を手に入れてから何もかもが変わった、何でも欲しいものを手に入れる力があった。

強くて美してキラキラしたものばかり集めて、嫌いなものは何でも壊せたわ。

 

―――とくに、あの音楽はとてもキラキラしていたの。

 

「どうやったら手に入るのかずっと悩んだの、誰かに取られるなんて我慢できない。 手に入らないくらいなら私が全部奪おうと思ったの!」

 

鬱陶しい箒をへし折る。 弱い魔法、こんな小汚い箒を何本作ったって無駄でしょうに。

可愛そうになるほど美しくない魔法少女、弱くて小汚くてぜんぜんキラキラしていない。

 

「そんな下らない理由をよくもまあ自信満々に語れるな……!」

 

「くだらない? そんなわけないじゃなァい! だって私よ、私が望んでいるの! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

激昂する顔も醜くて仕方ない、なんで他人のことをそんなに怒れるのだろうか。

理解できないしやる気も失せる。 面倒くさい、あの時ちゃんと直撃して死んでいたらよかったのに。

 

「はァーあ……やだ、相手したくない。 他の子と遊んでなさい」

 

私の言葉と同時に、天井を突き破って下僕が一匹、箒女の頭上から襲い掛かる。

なんだっけ、ボロッボロのコウモリみたいな魔物。 汚らしい癖に襲ってきたから“服従”させたやつ。

弱っちくても足止めぐらいできる―――

 

『ギギャアアアアアアアアア!!!!!』

 

―――はずだと思ったが、耳障りな断末魔を残してコウモリの身体は一瞬で燃え尽きた。

バラバラと崩れる炭の中、無傷のまま依然としてそこに立つ魔法少女の姿は、まるで炭に擬態するかのように黒く染まっていた。

 

「……やっぱり、お前は他の魔物を操れるんだな」

 

「アッハ、分かっちゃうゥ? ま、私より頭の悪い奴ならちょいちょいっとね」

 

「そうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――――……」

 

煤けた魔法少女が、これ見よがしにその手の中に摘まんだ細い針を見せつける。

さきほどまでコウモリだった炭クズの中から見つけたのか、間違いなくその針はワタシの……

 

「その顔は当たりってところかぁ、ブッサイクな面してる割には分かりやすくて大変助かるよ」

 

「……決めたわ、あんただけはぶっっっっっ殺す」

 

「はっ、大方俺が喰らったのもこの針だろ。 サイズは大分違うが伸縮自在ってわけだ、そんでもって次の手は……」

 

また箒を投げるでもなく、殴りかかってくるわけでもなく、ただそこに突っ立ってるだけの魔法少女に向けて、私はゆっくりと照準を定めた。

 

「……ほらな、分かりやすい」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ほら、早く! ブルームが引き付けている間に逃げるヨ!」

 

しわがれた枯れ木のような腕を引き、所々崩壊した避難路を走る。

外の戦闘音は鳴りやまない、鼻が潰れてしまいそうなほど強い魔力の気配をひしひしと感じる。

東京のような濃さはないが、さまざまな魔物の気配が入り交じった嫌な臭いだ。 外の惨状が想像できる。

 

「こっちのルートは駄目、あっちも駄目……ああもう、こんな時に無線機も使えないってどうなってんだヨ!」

 

「……うっさいわい、小娘が」

 

「あーもう、いつものふんぞり返った態度はどこ行ったんだヨ! バンクの魔法だって長くは持たないんだからネ!」

 

蜂女とエンカウントした瞬間、すでにブルームはバンクに噛まれていた。

相手と結んだ縁が爺さんからブルームに移ったことで、こうして彼女を囮にして避難ができるというのに、もたもたしていたら意味がない。

 

さきほどから爺さんの様子はずっとこんな調子だ、まるで魂を抜かれたかのように生気がない。

何らかの魔法に当てられたわけじゃない。 だが原因なんて分かり切っている。

 

「なんだヨ、あの蜂女が吐いた理由がそこまで気に食わなかったのカナ」

 

「……あの日からじゃ、ずっと(いだ)いていた。 許すものかと、殺してやると」

 

その声は震えて弱弱しくて、年相応の老いを思わせる頼りないものだった。

 

「だが、()()()()()()? あんなものに……あれほどくだらない理由で、皆殺されたのか? ワシの孫は死んだのか……!?」

 

「……ああ、そうだヨ」

 

もし「恨み」ならば、正当な復讐を果たせたかもしれない。

もし「妬み」ならば、相手の非才を嗤って見下せたのかもしれない。

もし「怒り」ならば、こちらも同じ怒りをもって立ち向かえたのかもしれない。

 

しかし与えられた理由はただただ傲慢な理不尽だけで、納得も理解も出来るはずがない。

長年懐き続けて来た憎悪の答えに、子供じみた幼稚な動機を突きつけられたのだ。

 

「あいつらはそういうもんだヨ、理不尽に表れて、理不尽に殺して、理不尽に奪っていく。 そこに大層な流儀も意味もない」

 

魔法少女として随分戦ってきたが、それでも魔物の考える事なんてまるで理解できない。

今もぬいぐるみの中で眠っているバンクのことだって、本当はほとんど何も知らないんだ。

 

「だけどネ、それは今足を止めて良い理由にはならないんだヨ」

 

歩く気力すら失った爺さんの胸ぐらをつかみ、無理矢理担ぎ上げる。

片手は塞がってしまうが、魔法少女の力があればこんな爺さん一人運ぶぐらいなんて事はない。

 

「あいつを殴れるのは魔法少女だけだヨ、ここで爺さんが諦めたらその魔法少女たちも裏切ることになる!」

 

「…………小娘」

 

「ここまで巻き込んでおいて、相手が馬鹿すぎたからもういいやなんて絶対に許さないからネ! 絶対に生き残って、最後にあの蜂女をゲラゲラ笑ってやらなきゃダメだヨ!!」

 

「…………ふん、生意気な口を利きおって」

 

ほんの少しだけ、いつも通りの口の悪さが戻って来た。 そうだ、それでいい。

相手の狙いが爺さんならば、相手の思い通りにさせたら負けだ。 なんとしても相手の望み通りにしちゃいけない。

 

「外にシルヴァも待機してるはずだヨ、このまま―――」

 

ようやく避難通路の終わりが見えてきた瞬間――――私達の目の前を、強烈な衝撃が通り過ぎていった。

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