俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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修羅・抜刀 ①

「……うーん」

 

かれこれ1時間、ベッドの上に寝っ転がっていろいろとスマホを弄ってみては唸るを繰り返している。

隠されたアプリを見つけた後日、色々と操作を繰り返してみてもうんともすんとも言わない。

 

《ちょっとマスター、何やってんすか。 とうとう頭がイカれtあだまがいだみ゛っ!!》

 

「急に飛び出してくるなよハク、思いっきりどついちまったじゃねえか」

 

《嘘だぁ絶対故意だぁ今のは! ……ってあれ、なんかここだけ色違くないですか?》

 

ハクも気づいたか、その様子を見る限り彼女もこのアプリに関しては知らないらしい。

もしすっとぼけてんならとんだ演技派だ、アカデミー賞をくれてやる。

 

《わっ、剥がせた。 うーん、何ですかねこれ? 私気になります》

 

「俺としてはこのスマホの中がどういう構造なのか知りてえよ」

 

ハクはアプリの端を引っ掻いてとっかかりを作り、そのままベリっと剥がして見せる。

相変わらず人のスマホで好き勝手やりやがるなこいつ。

 

《うーん……剥がしてみましたけど用途が分かりませんね、誰かに仕込まれたスパイアプリって訳でもないみたいですし》

 

「俺もウイルス貰うようなサイトに触れた覚えがない、だとすればブルームスターに関係するもんだと思ったが……」

 

変身や大技に並んだ見知らぬアプリ、てっきりニワトリの時のようにハクがまた新しいアプリを作ったのかと思ったがどうも違うらしい。

誰かに仕込まれたウイルスという訳でもない、勝手に生えたアプリケーション……謎だ。

 

《言っておきますけど私もそうポンポン作れませんからね、もっと魔石を食べて力を溜めないとそうそう作れませんから》

 

「だとすれば本当に謎なんだよなあ……まあいいか」

 

確認するには少し覚悟が必要だが、多分あれだろうという予感は1つある。

ベッドから体を起こし、出かけるための支度を始める。

 

《おや、どこか出かけるんですか?》

 

「ちょっと試したいことがあってな、人気のない所探してブルームスターになる」

 

《……やめといたほうがいい気がするなぁ私は》

 

ハクの懸念も分かる、前回変身した時に全身を襲った黒炎のことだろう。

あれから一度も変身してはいない、あの炎が前回限りの不具合なのか、毎回発生するものなのかも分かっていない状況だ。

ぶっつけ本番にまた激痛で動けなくなるよりは一度試した方が良い、謎アプリのついでにそちらも確かめようと、階段を降りたところで優子さんと鉢合わせた。

 

「……なに、どこか出かけるの?」

 

「ええ、ちょっと散歩を……アオはまだ帰ってないんすか?」

 

「ええ、しばらく鍛え直すので泊まりますだって。 あんのバカ娘は」

 

優子さんが頭を抱えてため息を吐く。

アオはあれから帰ってきていない、よっぽど騎士に太刀打ちできなかったのがこたえたのか、魔法局の訓練室に入り浸っているらしい。

あれ以上強くなるのはブルームスターとしては恐ろしいものはあるが、強くなれば魔物に殺される危険が減ると考えれば……いや、一番はもちろんそんな訓練が必要なくなることだが。

 

「夕飯までには帰ってきなさいよ、でないと今度は手製の粥を作って待っているわ」

 

「分かりました、たとえこの身に替えても」

 

参った、ちょっと出かけるだけのはずなのに命懸けの事態になってしまった。

どうにか今日は何事も起きないことを願おう……

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

遥か地下に作られた訓練室、地下シェルター並みの強度を誇るこの部屋はたとえ魔法少女(わたしたち)が本気で暴れてもそう簡単には壊れないように作られている。

殺風景でだだっ広い部屋の中央、そこにはあの黒騎士の姿が浮かんでいた。

 

『葵ちゃん、それはホログラムだけどあなた達のデータから戦闘行動を再現した動く虚像よ。 切った張ったの攻防は出来ないけど訓練には使えると思うわ』

 

「ありがとうございます、縁さん。 これでも助かります」

 

たとえ物理的な攻防が不可能でもあの俊敏な動きを再現できるなら十分だ。

堅牢な盾や鎧を斬る手段もそうだが、まず本人の動きについていけなければ話にならない。

取り敢えずホログラムの攻撃を避けつつ……このペンダントの覚醒を促す事から始めよう。

 

騎士の幻影が槍を水平に構え、床を蹴る。

やはり速い、それだけでなく静から動への切り替えがあまりに滑らかなため僅かにこちらの反応が遅れてしまう。

一撃必殺の巨体を避けるだけでも並大抵の苦労ではない、こちらももっと速く、もっと強くならねば。

だから起きろ、私の新しい力――――。

 

 

 

 

「……精が出るネ、何時間やってるのサ」

 

「やあ、差し入れ持ってきたよ」

 

躱して、躱して、躱して―――ようやく動きに目が慣れてきたころ、いつの間にかドクターとコルトが2人揃って現れた。

部屋の壁に取り付けられたデジタル時計を見れば既に昼を過ぎている。

 

「ほら、アクアエリス。 汗だくだし水分とった方がいいヨ、調子の方はドウ?」

 

「ありがとうございます……まあ、ぼちぼちですかね」

 

受け取った水筒に口を付ける、火照った体に染み入る冷たさが心地いい。

騎士の動きに身体が追いつくようになっては来たが、実践なら何度死んでいたことだろう。

加えてこれは少ない戦闘データから作った疑似映像だ、実物はこの何倍も強い、それどころかこうしている間にも更なる実力を身に着けているかもしれない。

 

「……あまりのんびりしていられませんね、そろそろ再開しましょう」

 

「待て待て待テ」

 

「オーバートレーニングだ、身体を壊しては元も子もない。 少し休め」

 

「ですが……」

 

「家に帰っていないだろう、一度親に顔を見せてくると良い。 ペンダントの覚醒に重要なのは肉体的なトレーニングより心の成長だ」

 

「むぅ……」

 

確かに幻影の騎士相手に幾ら立ち回ってもペンダントはうんともすんとも言わない。

この訓練では駄目なのか、いやまだ私の努力が足りないだけでは……

 

「こんな地下じゃ気分も塞ぐ、少し外の空気を吸って気分転換してきた方が良い」

 

「そーだヨ、サムライガールは頑張り過ぎなのサ。 私を少しは見習った方が良いネ!」

 

「……君はもう少し頑張っても良いと思うけど」

 

「あいにく訓練に使えるほど備蓄に余裕がないんだよネー」

 

「ではコルト、素手で良いので私と組み手をしましょう。 お互い徒手になると脆いところがあるので良い鍛練になるはずです」

 

「HAHAHA、サムライガールに組み付かれたら可憐でか弱い私はへし折れちゃうヨ? ん? ちょっと待って何でにじり寄って……」

 

このあと滅茶苦茶関節決めた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「まったく、コルトは本当に全く全く……」

 

時刻はお昼時、どこからか腹の空く匂いが漂う街並みをのしのしと歩く。

いざ戦闘になればとても頼れる仲間だが、あの帰国子女は不真面目過ぎる。

 

訓練に使う魔石が勿体ないという意見は分かるが、それなら縁さんに頼んで訓練用の模擬銃でも用意してもらえばいいはずだ。

そうでなくとも筋トレなど他にも方法が……いや、コルトも負けてへらへら笑っていられるほど馬鹿ではない。

彼女には彼女なりのやり方がある、サボらない様に適度な監視こそは必要だが過剰な束縛は止めよう。

 

それよりも今は早く家に帰ってオニイサンニウムの補給が最優先だ、失った活力を蘇らせるにはそれしかない。

あの顔を見るだけで24時間戦える、さあ早く帰らなければええい待ち切れないな変身しちゃおうかなもう。

 

「……むっ?」

 

足早に歩く道すがら、ふと視界の端を過ぎた景色に違和感を覚えて立ち止まる。

建物と建物の間に出来た路地、その暗がりを覗き込んでみると何やら人影の様なものが蠢いていた。

 

暗がりに馴染む黒いローブに対照的な白い髪、その姿には見覚えがある

 

「……ブルームスター?」

 

「ハァ……ハァ……だれ、だ……?」

 

そこには路地裏に置かれたゴミ袋に埋もれた、宿敵(ブルームスター)の姿があった。

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