俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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「ワイズマン」 ③

《お、ぐ……ううぐぐぐ……》

 

「二日酔いのおっさんみたいな声出してんなぁ」

 

《マスターには分からないでしょうねぇ、電力切れの不快感は……って、マスター!!》

 

「おう、おはよう。 まだ朝も早いんだからそう騒ぐなって」

 

覚醒する意識、いつもと調子の変わらないマスターの声。

小物に立てかけられたスマホの内側から見える風景は、いつもの朝と変わらない店の厨房。

時刻を確認すると蛹との戦闘から一夜明け、デジタル時計の数字は「5:00」を刻んでいる。

 

《無事……ですね、あれから何があったんですか?》

 

「シルヴァがギリギリで助けてくれたよ、危なかったが何とか倒せた。 その後魔石を回収して回復も間に合ったんだ」

 

《そう、だったんですか……?》

 

私達の魔力は底を尽いていた、もはや変身すらままならぬ状況。 そこにシルヴァちゃん一人の救援で事態は好転するだろうか。

マスターの言葉にはそこはかとない違和感がある。 例えるなら、これまでに何度も見て来た自分の疵を隠す時特有の……

 

《マスター、今から実体化するのでとりあえず一発殴らせてもらえますか?》

 

「どうして……」

 

《いや、確証はないですがなんとなーくいつもの通りの隠し事がある気がするので。 それじゃあ実体化も完了したので歯を食いしばってくださいそぉい!!」

 

「待て待て待て、同意した覚えはないぞ何も隠してない俺は無実だだからその拳を降ろsゴッフゥ!!」

 

我ながら寝起きとは思えない良いボディブローが決まった、ここがリングの上ならKOを知らせるゴングが鳴っているところだろう。

しかし腹を抱えて悶絶するマスターの口は堅い、こうなれば禁じられた絶技・ハクちゃん固めでその口を割るしかない。

 

「ふふふ、実体があるって良いですね。 今まで溜まった鬱憤もついでに晴らさせてもらいましょうか!」

 

「お前鬱憤が溜まるような生活してねえだろがよ……!!」

 

『……えー、それでは次のニュースです』

 

口を割るか背骨が割れるかという取っ組み合いの最中、乱闘の拍子に落下した衝撃でリモコンが起動したようだ。

テーブルスペースに設置されたTVから早朝のニュースが流れる、映っているのは昨夜の戦闘が行われた街並みのようだが……

 

「…………なんですか、あれ」

 

「…………チッ」

 

見慣れたはずの街並みが、うず高く積もった雪に埋もれて銀世界と化している。

思わずカレンダーを確認するが、季節はまだ9月。 秋も盛りの真っただ中だ。

しかし画面の中の景色はCG合成などではない、ドローンで撮影したであろう映像は真に迫るものだ。

 

「マスター、昨日何があったんですか……」

 

「………………」

 

「シルヴァちゃん一人にできる規模じゃないです、もちろんマスターにだって……答えてください!!」

 

「何もなかったよ、お前は気にしなくていい」

 

「じゃあ自分の背骨にお別れを告げてください!」

 

「あだだだだだ!! 止めろお前馬鹿止めろお前!!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……なるほど、本当は妹さんの介入で助かったわけですね」

 

「月夜もどき、な。 どうやってあの蛾男を倒したのかは俺も覚えてない」

 

度重なる追及の末、流石に隠しきれないと根を上げた俺はハクに昨日の出来事を話した。

ただし詳細な部分はぼかしたうえで、ハクもまだ怪しんではいるが話の内容に嘘はついていない。

 

「俺も目を覚ましてからあの雪については知ったよ、しかもただの雪じゃない」

 

「ええ。 全て溶けるまで何年かかるやら……」

 

俺が昨日目を覚ました廃ボーリング場を含め、蛾男との戦闘が繰り広げられた区域には魔力が籠った大量の雪が積もっている。

そして内に籠った魔力の影響か、あの雪は熱で溶ける事がほぼない。 影響をまるで受けないわけではないが、融解速度は微々たるものだ。

当然、魔力が汚染された区域一体は人が住める環境ではなくなっている。 すでに一帯の避難が完了していたのは不幸中の幸いか。

 

「それとマスター、今気づきましたけど不在着信がびっしりですよ。 主に8割が葵ちゃん、残る2割がコルトちゃんと詩織ちゃんからです」

 

「うっへぇ、充電切れてたからな……しゃあない、あとで変身して直接会いに――――」

 

 ――――お兄ちゃん、二度と変身しないで

 

「―――――……」

 

月夜もどきの言葉が、脳裏を過ぎる。

俺がブルームスターに変身するたび、この症状は進行していくのだろうか。

味覚と色覚、その次は聴覚か嗅覚か、それとも触覚か。 ……行きつく先には何が残されているのだろう。

 

「……? マスター、どうかしました?」

 

「いや、なんでもない。 ドクターの事も含めて話したい事がある、気が重いが直接話をする必要はあるな」

 

アオたちから届いたメッセージを確認すると、油断できない状況は続いているが、ドクターの容体は現在安定しているらしい。

だが、その安定もいつ崩れるか分からない。 すべては月夜もどきの気分次第で覆る。

どうにかしてドクターに掛けられた呪いを解くには……

 

「……ねえ、マスター」

 

「ん、どうした」

 

「まだ何か隠し事してないですかね、私に」

 

「…………さあな」

 

今夜、七篠陽彩として再びあいつと会わなければならない。 ドクターの呪いと、「ワイズマン」の秘密を解くために。

そのことはハクにまだ話していない。 出来ればこのまま俺一人で向かうつもりだ。

……この一件に関しては、俺はどうしてもハクに何も伝えたくなかった。

 

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