俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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「ワイズマン」 ⑤

「Hello、今良いカナ?」

 

「おう、おはようコルト。 昨日の件だろ?」

 

店を開けてしばし緩やかな時間が過ぎたころ、今日初めてのドアベルを鳴らしてコルトが入店してきた。

コルトは店内でコーヒーを淹れていた俺の姿を見つけると、安堵と呆れが入り交じった大きなため息を零す。

 

「コルトちゃんいらっしゃーい、お好きな席にどうぞ」

 

「はーい、いらっしゃったヨ。 ……あの惨状の後だってのにサ、随分のんきなもんだネェ?」

 

「着信無視してたのは悪かったって、充電が足りなかったんだよ。 まあ立ち話もあれだ、なんか食っていくか?」

 

落ちてきそうな雷を逸らすため、丁度淹れたばかりのコーヒーと砂糖のボトルを差し出す。

コルトもまた朝食を済ませていなかったのだろう、小さく鳴った腹の音を誤魔化すように、乱暴に椅子に腰を掛けた。

 

「で、今日のモーニングセットはなにカナ! 美味しくなかったら怒るからネ!」

 

「はは、大丈夫だって。 ……いつもと変わらない味を提供するよ」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「なるほどネ、電気を奪う魔物……そりゃ相性が悪かったネ」

 

「ええ、酷い目にあいましたよー」

 

八分目まで腹を満たし、機嫌も大分直ったコルトが食後のコーヒーを飲み干す。

砂糖とミルクで自分好みに調整した味で満足感も十分だ、おかげでこちらも昨日のあらましを話しやすかった。

 

「それで、蛹が孵化して中から魔人が……とんでもないピンチだけどどうやって切り抜けたのサ?」

 

「俺もよく覚えてないんだが、シルヴァが助けてくれたんじゃないのか?」

 

「こっちも昨日の夜にシルヴァーガールが運び込まれて大変だったヨ、本人に目立った外傷はなかったけどネ」

 

「…………そうか」

 

分かっていたが、やはりあの惨状はシルヴァの仕業ではなさそうだ。

となるとやはり、真相を知っているのはあの月夜もどきだけ……

 

「……おにーさん? ちょっと怖い顔してるけどどうしたのカナ?」

 

「何言ってんですかコルトちゃん、マスターの顔が怖いのはいつもの事dあいたぁー!?」

 

「ほら、無駄口叩いてないで空いた皿を片付けろ」

 

空のお盆でハクの頭を引っ叩くとスコーンといい音が鳴った、中身が詰まってないのかこいつ。

 

「ハク、食器の洗浄は頼んだ。 ああ、それと裏のゴミ袋をダストボックスに入れといてくれ」

 

「はいはーい、まったく魔人使いの荒いマスターですねー……」

 

文句を言いながらも、慣れて来た手付きで食器を回収し、厨房の方へ向かうハク。

一人分の食器、それと調理に使った器具の洗浄にゴミ出しも含めて数分は戻ってこないはずだ。

 

「……で、大事な相棒を退場させてまでする話ってなにカナ?」

 

「なんだ、気づいてたのか」

 

「あれだけ露骨だとネ、主従似通ってるのか本人は鈍ちんみたいだけどサ」

 

猿芝居は無駄な努力だったらしく、少しこっぱずかしい。

だがそれならいっそ開き直ろう、ハクが退席している時間も長くはない。

 

「コルト、少し表に出よう。 ハクにも……できれば、優子さんにも聞かれたくない」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「へーい、マスター。 ゴミ出し終わりましたよーっと……って、あれ? いない」

 

課せられたタスクを終えてテーブルスペースへ顔を出すと、数分前まで談笑していたはずの2人がいない。

また魔物が現れたのだろうか? いや、それなら私が呼ばれない理由がない。

表口のガラス窓にもクローズドの立て札は掛かっていない。 急用なら一報があると思うので、些細な離席だろう。

 

「はーぁ、人に仕事押し付けて全く勝手なもんですねー! まったくまったく!」

 

文句を口にしながら、厨房に用意されたパイプ椅子へ乱暴に腰かける。

……しかしマスターにしては珍しい、いつもなら手伝うと言ってもほとんどの仕事を自分で片付けるというのに。

 

「もしかして私だけハブられた……? いやいや、それこそマスターに限ってあり得ませんって……」

 

不安を誤魔化す独り言を述べていると、カランカランとドアベルが鳴る。

マスターたちが戻って来たと思い、迎えるために顔を出すと……入店してきたのは一人の少女だった。

あけ放たれた戸口から差し込む逆光で顔立ちは良く見えないが、背丈は自分より少し低いぐらいだろうか。 

 

「っと、いらっしゃいませ。 ごめんなさい、今は料理人が席を外してまして……」

 

「別にいいわよ、こんなところで飯食いに来たわけじゃないし」

 

こんなところ、と言われて少しムッとする。

「だったら何のようだ」と文句を言うよりも早く、少女は図々しく店内へ踏み込み、私の目前までやって来た。

 

「……へぇ、欠陥品の癖にずいぶん幸せボケした顔してるじゃない」

 

「…………えっ?」

 

目の前までやってきたことで、ようやく少女の顔立ちがはっきりと確認できた。

犬歯をむき出して笑い、私を見上げる顔は――――()()()()()()()()()

 

「それで、雑草組だっけ? あの片割れ、あんたの宿主はどこにいるのよ、欠陥品」

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