俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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「ワイズマン」 ⑧

「……そうですか、マスターの妹さんのそっくりさんが」

 

「そういう事だよ、だからお前は連れていけない」

 

ハクのツイストから逃れ、自由になった体の無事を確認する。

俺の隠し事を全て聞き出したハクは、なんとも言えない複雑な面持ちを見せている。

ハクからすれば俺が一人で行くことは反対だろう、しかしドクターの命が握られているため、下手な事は出来ない。

 

「ま、心配なのはわかるけどどうしようもないヨ。 おにーさんは頑固だからサ」

 

「しかしコルトちゃん、マスターだけなんてそんな……」

 

「相手が殺すつもりなら最初の出会いで死んでいるヨ、相手にもなにか目的があるんじゃないカナ?」

 

「それはそう、ですけど……」

 

「心配してくれるのはうれしいけどな、他に方法が浮かばないんだ」

 

ハクは納得がいかない様子だが、それでも状況の悪さは理解しているのか強くは出てこない。

一人テーブル席から俺たちの様子を観戦していたコルトへ視線を向けると、何も言わずに強く頷いてくれる。

万が一ハクが暴走しそうなときは、きっとコルトが止めてくれるはずだ。

 

「まあ今は2人とも熱くなってるから話し合いは難しいと思うヨ、おにーさん」

 

「ん……そうだな、少し席を外すよ。 俺も少し頭を冷やしたい」

 

このところ、立て続けに色々な事が起こりすぎて頭が混乱している。 自分も散歩がてら少し情報を整理したい。

……月夜もどきはまだいいとして、あのハクに似た少女は一体何者で、どこから来たんだ?

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ほらほら、インスタントだけどコーヒー入ったヨ。 飲む?」

 

「ありがとうございます……はぁ」

 

コルトちゃんが淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、口いっぱいに広がる苦みが心を落ち着けてくれる。

マスターが料理下手な店長のために備蓄しているものだ、確か外国製の商品で値段の割にはとても香りがいい。

 

「溜息なんて美人が台無しになるヨー、秘密にされていたのがショックだったのカナ?」

 

「それもあります、けど……なんというか、悔しくて」

 

マスターの妹さんに似た誰かが現れた時、自分は意識を失っていた。

それだけではない、蛾の魔人に追い詰められたときからすでに魔力が切れて、私は何もできなかったのだ。

 

「それはハクが悪いわけじゃないヨ、未来が見える訳でもないし不幸な事故みたいもの……」

 

「それでも、私はマスターを殺しかけたようなものです」

 

コップを握る腕に力が籠る。 頭に浮かぶのは最悪の「もしも(if)

戦うほどに命を削るマスターの姿は、いつ終わりが来てもおかしくない危うさがある。

そのたびにもうやめるべきだと言いたくなる、しかし決してマスターは首を縦に振らないだろう。

 

実際、ブルームスターがいなければこれまでの事件は解決を迎えていなかったかもしれない。

だけど戦いを重ねるほどにマスターから大事な何かがすり減って行く、その後押しをしているのは私に他ならない。

始まりの共犯者は私で、ずっとずっと彼の手を地獄の底へ引き続けている。

 

「……私が、いなかったら……もしかして―――」

 

「ハクー、ちょっとこっち見なヨ」

 

「えっ? 何―――あだぁー!?」

 

顔を上げた途端、向かいの席から飛んで来たデコピンが私の額をはじいた。

 

「何考えてるのかなんて大体わかってるヨ、同じ事をおにーさんに言ったらきっとすごく怒られるだろうネ」

 

「だ、だって私が……私がブルームスターを作ってしまったんですよ!」

 

「でもネ、ブルームスターに救われた人間は少なくないヨ。 私を含めてネ」

 

コルトちゃんがたっぷり砂糖とミルクを溶かしたコーヒーを一口すする。

 

「確かに失ったものも、取り返しのつかない事も多いかもネ。 けど“自分がいなければ”なんて、これまで助けて来たものを否定することになるヨ」

 

「そう、ですね……すみません、軽率でした」

 

「ふっふっふー、ハクもおにーさん大好きだネ。 誰かに粉かけられる前に告白とかしないのカナ?」

 

「えっ? いやマスターへの恋愛感情なんてありませんよ、確かに宿を貰った恩義はありますけど」

 

「Really? 意外だネ、てっきりかなりラブなのカナって」

 

「うーん、なんて言ったらいいんでしょうかねー。 好きとか嫌いとかそういうじゃないんですよ」

 

確かにマスターの事は大切だ、死んでほしくないしずっとそばにいたいとも思う。

けどこの気持ちを恋愛感情と称するにはなんだか違うような気がする、今一実感がわかないような……

 

「……そもそも、私は魔人ですから。 人間相手に恋なんてあり得るんでしょうか」

 

「なーに、問題ないヨ! 犯罪的な年の差で婚約を狙ってる私の同期に比べれば健全もいいところだネ!」

 

「わー、何故でしょう。 誰の事だかわかりますその匿名希望さん……」

 

「ま、おにーさんのことを大事に思ってるのは分かったヨ。 ところで、ハクは今夜の予定空いてるカナ?」

 

「へっ? まあ、御店を閉じてしまえば基本暇ですが……」

 

「OK、それならお出かけしようヨ――――私もネ、おにーさんの事は大事だから、どこの馬の骨ともわからない女と密会なんて許せないしサ」

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