俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者の本質 ①

「……ゴルドロスちゃん、彼女が何を話しているか分かりますか?」

 

「ンー、この距離だと読唇術は難しいカナ。 おにーさんに張っておいた盗聴器も調子が悪いヨー」

 

「いつの間にそんなものを仕掛けていたんですか……」

 

「HAHAHA、ひーみつー……ってハク、顔色悪いヨ?」

 

「へぁ? そうですか?」

 

驚いた顔で指摘され、触れてみた自分の頬は酷く冷たかった。

指先からも血の気が引いている、きっと私の顔は蒼白に染まっているはずだ。

 

「さ、寒いカナ? カイロも湯たんぽもあるヨ!」

 

「いえ、多分そういう事じゃ……ないと思います」

 

頭が痛む、彼女の体内に浮かぶあの赤い宝石を見てからだ。

記憶の扉を乱暴にノックされるような不快感、ただの体調不良でないことぐらい嫌でもわかる。

 

「なんなんですかね、これ……私は、いったい……」

 

透き通った体内で怪しい光を放つ宝石、当然だがそんなものを見るのは初めてだ。

しかし胸中に湧き上がるのは激しい既視感。 どうして、私は……

 

「……あれが、なにかを……知っている……?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……ハクが、ワイズマン?」

 

「そう、単体じゃ能動的に動かない賢者の石の制御機関。 それがあの魔人の存在意義だよ」

 

「待て……待て、話がおかしい。 ハクが制御装置だっていうなら俺の所にいるのは――――」

 

――――おかしい、のか?

違う、そうじゃない。 前提がそもそも間違っている、月夜もどきたちは言っていた。

 

「……賢者の石は一つじゃないよ、お兄ちゃん」

 

「俺の中にも、賢者の石が……」

 

「想定外があった。 1つは一時的にお兄ちゃんの中には私から移動したものと、ワイズマンが運んできた賢者の石が埋め込まれたこと」

 

賢者の石は2つあった。 

月夜もどきや、あのネロという少女に指摘された……俺の中に存在する石。

 

「もう一つは、制御装置が組み込まれたことでお兄ちゃんの身体が賢者の石を受け入れ、ブルームスターというイレギュラーを生み出してしまった事」

 

ただ一人、異質な存在であるブルームスターという魔法少女。

その成り立ちすら、あの出会いすらも賢者の石に踊らされたものだったのか?

 

「ああ、本当ならお兄ちゃんの身体にあんなことやこんなことするのは私だったはずなのに……あの泥棒猫」

 

「あん?」

 

「ゴホゴホゲフンッ、ともかくお兄ちゃんの存在は本当にイレギュラー中のイレギュラーだよ。 これから先どうなるのかは私だって読み切れない」

 

「これから先、か。 そいつは現状よりももっとひどくなるって事か?」

 

「うん」

 

一瞬も迷ったそぶりがない即答が帰って来る、まるで見て来たかのような言い草だ。

だが、その短い言葉にはこれまで喉の話よりも重みと説得力に満ちていた。

 

「賢者の石は悪意の塊だ、この世界は魔力に馴染めない。 それでも致死性の猛毒を常にまき散らしている……いや、まき散らすよりもっとひどいかな」

 

月夜もどきがおもむろにパチン、とこすり合わせた指を鳴らす。

するとその瞬間、辺り一面の景色が凍り付き、極寒の冷気に鳥肌が立つ。

 

「っ!? お前……何をした!?」

 

「ほんの一瞬、ほんの少しだけ賢者の石の枷を外したの。 それだけでこの始末なんだ」

 

辺りの気温は間違いなく氷点下を割っている、むせかえるほどの魔力の気配は命にかかわる濃度だ。

まるで昨日の雪景色と同じ……いや、魔力の濃度だけで言えばそれ以上かもしれない。

 

「ワイズマンはこの力を好きに制御して振り回せる。 お兄ちゃんがその気になれば、全ての魔法少女をなぎ倒して世界を滅ぼせる」

 

脳裏によみがえるのは、魔法少女たちの屍の上でシルヴァの首を絞めたあの夢――――

 

「―――やめろ! 世界を滅ぼせる? おれにそんなつもりはない!」

 

「お兄ちゃんにはなかろうとワイズマンはどうだろうね、ただただ魔力を振りまくだけで簡単に世界は滅ぶんだよ」

 

「馬鹿言うじゃねえ、俺の相棒がそんな真似するか!!」

 

「だって昨日は仲間の魔法少女を殺しかけたじゃない」

 

「―――――……」

 

夢の中の冗談で終わってほしかった、可能性。

街を覆う魔力まみれの雪景色を、月夜もどきのせいにして目を背けてしまいたかった。

 

「覚えてないよね、お兄ちゃんは死にかけていたんだもの。 けどあの雪景色に私は関与していない、全部お兄ちゃんがやったんだ」

 

「……黙れ」

 

「お兄ちゃんの中に宿った、ワイズマンがあの街を殺したんだ」

 

「黙ってくれって言ってんだよッ!!」

 

「黙らないよ、お兄ちゃん。 私はそのためにここにいる、お兄ちゃんを化け物にさせないために」

 

月夜もどきが虚空に手を伸ばすと、空気中の水分が凍結し、形を成してその掌に集まり始める。

それは彼女の背丈ほどもある文字通りの「杖」――――見間違えるはずがない。 あれは月夜の……

 

「私は穏便に終わらせたいの、お兄ちゃん。 あの女の事は忘れて、戦う事をあきらめて」

 

「……なんだ、結局そういう話なら昨日あの場所で引き剥がせばよかっただろ」

 

「残念だけどそれは出来ないの、乱暴に引き剥がせるほど賢者の石は素直じゃない。 だからお願い」

 

「断る」

 

その否定の言葉は、自分でも驚くほどすんなりと口から出ていた。

 

「……ハクは、俺の相棒だ。 あいつにはまだ何も返せていない、何者だろうが関係ない。 ハクは、俺が守るよ」

 

「そっか、うん……お兄ちゃんならそう言うと思った。 じゃあちょっとだけ手荒になるよ」

 

月夜もどきが杖を構える。

その所作は憎たらしいほどに、俺の記憶にある月夜と寸分違わないものだった。

 

「―――――変身」

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