俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者の本質 ②

「まずいネ、急にキレたヨ。 何も見えなくなった……!」

 

双眼鏡越しの景色は吹きすさぶ雪の壁に阻まれ、何も観測できない。

先ほどまでは穏便に会話を交わしていたように見えたが、相手の少女が虚空から杖を取り出してから状況が一変した。

中の様子は全く分からないが、少なくとも吹雪くほどの気温にさらされて生身の人間が無事で済むはずがない。

 

「こうしちゃいられないヨ、ハク! はやく助太刀に……」

 

「―――――……」

 

「……ハク?」

 

傍らのデバガメ仲間は、こちらの言葉が聞こえていないのかふらふらと立ち尽くすばかりで何の反応もない。

夜灯りに照らされるその顔色は、確実に先程までよりも悪い。 

額に浮かんだ脂汗は玉のように滲みだし、大きく見開いた瞳の瞳孔が小刻みに震えている。

 

「ど、どうしたのカナ? 具合悪い?」

 

「…………行かなきゃ」

 

「ちょ、ちょっと待っ……」

 

ふらりと踵を返した彼女は、そのまま鉄塔を降りる階段へと向かう。

明らかに異常なその様子を制止しようと腕を掴むが、確かに握ったはずの掌は霞を掴むようにすり抜けてしまった。

 

「What's!? ど、どうしちゃったんだヨー、ハクー!」

 

何度も進行を妨害しようとするが、どれもこれもがすり抜ける。

私が触れようとした瞬間だけ、実体化した肉体をスマホの中にいる時と同じ状態にしているのだろうか。

方法はどうあれ、このままでは彼女の行動を止められない。

 

「ハクー! 止まってヨ! どうしようこれ、勘だけど絶対に合わせちゃいけない気がする……!」

 

おそらく向かう先はあの吹雪の中心だ、しかし制止しようともこの調子じゃ止められない。

移動手段が徒歩であること、十分距離があることは幸いだが、これでは到着も時間の問題だ。

 

「ハク、ハクー! 目を覚ましてヨ、ハクー!?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

吐き出した吐息が白く染まり、月明かりを受けてキラキラと輝く。

いつの間にか俺たちの周囲には猛吹雪の壁が作られ、逃げ場が封じられている。

音すら凍り付いた夜の中で、対極的な“白”を纏った月夜もどきが舞い降りた。

 

「……なんだ、スノーフレイクの姿までは模倣できないのかよ」

 

「ごめんね、賢者の石の権能が上回るんだ」

 

大気中の氷礫が擦れ、キャラキャラと鳴る硝子質なバックコーラスの中、降り立ったスノーフレイクの姿は俺が知る魔法少女然としたドレス衣装ではなかった。

金糸を刺したマントコートを着重ねた、燕尾が伸びた礼服。 「男装の麗人」という言葉が似つかわしい。

先細りした形状の長杖を剣のように携えた姿は、さながら御伽噺から飛び出した騎士のようだ。

 

「もし助っ人がいるなら呼ばないほうが良いよ、私の方が絶対強い」

 

「馬鹿言え、俺一人だよ。 誰も呼んじゃいない」

 

「そっか、ちゃんと約束守ってくれたんだね。 ふふ、嬉しい」

 

穏やかな笑みとは裏腹に、激しい気温の低下は一向の止まる気配がない。

体感だけですでにマイナス数十度の世界だ、魔法少女としての力なら俺が記憶しているスノーフレイクよりはるかに高い。

 

「それで、わざわざ変身して俺をどうする気だ?」

 

「うん、こうする」

 

スノーフレイクが空を撫でる様に杖を振る、その途端に距離を取ろうとしていた俺の手足が凍り付いた。

手足を覆う氷の冷気は感じないが、いくら力を込めてもビクとも動かない。

 

「ごめんね、気は進まないけど少しだけお兄ちゃんを痛めつける。 私の言う事を聞いてくれるまで」

 

「なるほど、分かりやすくて助かるよ……だが、それで俺が首を縦に振ると思ってるのか?」

 

「振ってもらわなきゃ困るんだ、思ったより進行が進んでいるもの。 お兄ちゃんも異常には気づいているでしょう?」

 

「…………」

 

分かっている。 どれほど鈍かろうが、この場に満ちる魔力はとっくに致死量を超えていることくらい。

氷点下を大きく下回るこの気温でさえ、常人ならば命にかかわる。 だというのに俺の身体は何の変調も来たしていない。

 

「ワイズマンは寄生した対象から不要な機能をオミットしていく、味覚や色覚のような人間らしいものから始まり、自分の目的にそぐわないものを次々にそぎ落とす」

 

「……はっ、その目的って何だよ。 ハク(あいつ)がそんな小難しいことを考えるタマか?」

 

「それは――――」

 

「――――賢者の石の完成」

 

スノーフレイクの言葉を遮り、吹雪の壁の向こうから何者かの影が現れる。

それは高速で吹き荒れる雪の礫をまるで気にする事もなく、両手で壁をかき分けながら姿を現した。

 

「――――ぜぇ……ぜぇ……! ぺっぺっ! うぇえ口に入った……ちょっと、何なのよ本当この世界は、勘弁してよね……! 何で賢者の石が2つもあるのよっ!!」

 

「お、お前は確か……ネロっ!?」

 

雪をかき分けて現れたのは、ハクによく似た黒い影。

昼間に出会った、ネロと自称する少女だった。

 

「…………お兄ちゃん、誰よあの女?」

 

そして予想外な闖入者の登場に対し、スノーフレイクの身から魔力とも違うどす黒いオーラが立ち上り始めた。

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