俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者の本質 ④

「ガハ……ッ!?」

 

「お兄――――!!」

 

「あーら、下手なことするんじゃないわよ。 精密作業中の私に何かあればこの入れ物もお陀仏よ?」

 

瞬く間に距離を詰めていたネロに対し、反応が遅れたスノーフレイクは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

スノーフレイクに脇をすり抜けられる隙は無かったはずだ、それを上回るネロの瞬間移動……いや、意識の間隙を縫うようなこの消出現には覚えがある。

 

「自分の存在を……希釈させたのか……!」

 

「ふん、あんたらみたいな出来損ないの技と一緒にしないでよね。 あと繊細な作業中なんだから動くなってのっ!」

 

ネロの腕は俺の鳩尾を確実に貫いているが、異物感こそあれ痛みは感じない。

出血すらも無く、あるのは自分の胸の内でうぞうぞと他人の腕が蠢く不快感だけだ。

スノーフレイクが解除したのか、いつの間にか両手の自由は効くようになったが、ネロの腕に固定された身体は動かない。

 

「うーんと、これがこうなって……うっわ、中身ズッタズタ。 酷使したってもんじゃないわ、何して生きてたのあんた」

 

「うっせぇ、だから何だってんだよ……っ」

 

「まあ私には関係ないわね、すぐに終わるわ……よっと」

 

深く沈みこんだネロの腕が、俺の体内に存在する硬質な何かに触れった。

内臓とは異なる異質な手ごたえ、その輪郭を細い指先が撫でた途端、俺の全身に灼けるような激痛が迸る。

 

「ッ゛―――――!!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「あら、まだ痛覚は残ってたの? なによ、全然コンバート進んでないじゃない」

 

「お前……! お兄ちゃんに何をした!!」

 

「動くなっつったのが聞こえなかったァ? こいつの中に眠っていた賢者の石を起こしただけよ、それが私の仕事だもの」

 

制限を解除した黒衣の比ではない、全身の神経が引きちぎれそうだ。

浅く繰り返す呼吸だけでも内臓が全て焼き爛れるような激痛が続き、口からは声にならない吐息ばかりが零れる。

 

「さーて、さっさとこの世界を塗り替えちゃってよ。 賢者の石の力でね」

 

「お、前゛……なに゛を――――」

 

痛みに耐えかねて膝をついた俺の顎を手で引き――――ネロはそのまま、自らの唇を重ねた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「は、ハクー……そろそろ止まってヨぉ……」

 

「………………」

 

障害物、強風、落とし穴、投げ縄、熱、冷気、セクハラ、色々と手をつくしたが、どれもハクの進行を止めるには至らなかった。

目の前に壁があればすべてすり抜け、風や寒暖の影響すらも無視、せめて目撃者が増えないように進路を誘導するのが精いっぱいだ

 

「まずいネ、そろそろ距離がない……!」

 

ハクが目指そうとしている場所は変わらず、あの吹雪が舞う採掘場だ。

正直、辿り着いたところで何が起きるかは分からないが、おにーさんたちにとって良いことが起きる気がしない。

そもそもの責任はハクを連れてきてしまった私にある、どうにかここで止めなければ。

 

「ハク、聞こえ……えっ?」

 

「――――……」

 

ダメもとの呼びかけを繰り返していると、突然にハクが足を止める。

こちらの声が届いた……というわけではないらしい、彼女の瞳は変わらず進行方向にある吹雪の壁に向けられている。

 

「と、ともかく今がチャンスだネ。 多少強引にでも今のうちに……」

 

「……―――――来る」

 

「えっ? 何g」

 

――――瞬間。 鼻をつくほど濃密な魔力が、吹雪の壁を突き破って溢れ出した。

 

「ウギャー!?  What's!? なにこの……ゲホッ!」

 

思わずむせ返ってしまうほどの濃い魔力、嗅覚に近い感覚で感じ取ってしまう自分にはなおのことキツイ。

暴風となって荒れ狂う魔力の渦に対し、涙で霞む瞳を擦りながらなんとか吹き飛ばされないように耐えるだけで精いっぱいだ。

 

「うううううぅぅぅっぅぎゃあああぁぁぁああぁぁぁぁ……!!」

 

「ン? なんか今、ハクみたいな顔が飛んで行ったカナ……?」

 

今一瞬、黒くて目つきの悪いハクが風に乗って飛んで行ったように見えたが、たぶん気のせいだろう。

現にハクは私の目の前に……いたはずだが、彼女はこの突風すらも無視して魔力の中心地へズカズカと進んでいく。

 

「お構いなしだネ、ほんとにサー! ちょっと待ってヨー!!」

 

止む気配のない風に圧されながらも、鈍い足取りでハクの背中を追う。

胸の中でざわめく嫌な予感は高まる一方だ、この魔力の気配を私は知っている。

なにせ昨日、街に降り積もった雪と共に残された魔力と全く同質のものなのだから。

 

「ハク、Hold it! 一人で行くのは危険だヨ、おにーさんが心配なのはわかるけど……ぷげっ!」

 

霞む瞳のまま歩を進めていると、再び足を止めていたハクの背中に顔をぶつけてしまった。

鼻がツンと詰まる痛みに顔を擦っていると、あれだけ吹き荒れていた風が止んでいたことに気付く。

 

「ハ、ハクゥ……止まるなら止まるって言ってよネ……」

 

「…………マスター」

 

「へっ? おにーさん――――?」

 

ハクの呟いた先、打ち捨てられた採石場の中央にぽつんと立っているおにーさんの姿が見えた。

……ぽつぽつと降り始めた雪の中、純白のローブに身を包んだ状態で。

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