俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者の本質 ⑤

「……おにーさん?」

 

見間違えるはずがない、あの顔に張り付いた痛々しい火傷痕はおにーさんのものだ。

だがあの服装はどういうことだろう、まさか趣味の悪い私服なんてオチではあるまい。

何より異質なのは……この魔力量の只中で、何事もなく生存していることだ。

 

「どうしたんだヨ、その格好……それに、なんで……」

 

今の彼はブルームスターに変身しているわけではない、当然魔力への耐性も常人並みのはずだ。

ありえない、この即死級の魔力の中で生きていられるはずがない。

いや……むしろ、この魔力の発信源はおにーさん自身だ。

 

「なんだヨ、それ……返事してヨ、そんなのまるで……」

 

その在り方はまるで、魔物――――いや、魔人のようではないか。

 

「――――離れて、それ以上近づくと死んじゃうよ」

 

「……へぁ?」

 

無意識のうちに歩み寄ろうとしていた脚が、横から差し出された杖によって牽制される。

いつの間にか私の隣に立っていたのは、真っ白い燕尾服に身を包んだ見知らぬ魔法少女だった。

 

「だ、誰カナ……?」

 

「私が誰かなんて今はどうでもいい話だよ。 それよりワイズマンの間合いに踏み込まないで、魔法少女でも無事じゃすまない」

 

「なに――――ケフッ!?」

 

何かがのどに詰まり、反射的にせき込む。 私の口から吐き出されたそれは赤黒い血だった。

少量だが体内への確かなダメージを表している、しかし攻撃を受けた覚えはない。 これは魔力による体内損傷だ。

 

「高濃度の魔力だ、お兄ちゃんの知り合いなら下がってて。 ああ本当に、余計なことしてくれたなぁあの黒いの……」

 

「お、おにーさんに……何があったのカナ……」

 

「賢者の石が暴走してるんだ、念のため町から離れておいてよかった。 誰かが傷つくとお兄ちゃんも悲しむから」

 

私を引き剥がすと、謎の魔法少女はおにーさんに向かって歩み出す。

その足取りは私が出血した距離を超え、なおも魔力の爆心地であるおにーさんへと近づいていく。

しかしその身体には何の変調も現れていない、魔力の影響などどこ吹く風だ。

 

「遠距離攻撃は出来る? 可能なら支援をお願い、流石に二度目は私だけじゃ厳しいかも」

 

「支援って、どういうことだヨ……おにーさんを攻撃する気!?」

 

「あれを今までのお兄ちゃんと思わないほうが良い。 正気に戻すつもりだけど、不可能なら私諸共存在を消すしかないから」

 

「消すって……待っ――――!」

 

言葉が届くよりも早く、少女の姿が消える。

まるで元からその場に誰もいなかったかのように自然に、何の痕跡も残さずに。

時間にして一秒にも満たない消失、そしておにーさんの背後に再び現れた彼女は迷うことなく杖を振り下ろす……が。

 

「―――――やっぱり、届かないか」

 

「…………」

 

背後からの不意打ちは、いつの間にかおにーさんの腕に握られていた斧のような武器によって防がれる。

水晶で作られているのか、ギラギラとした輝きを放つ斧は一見脆いように思えるが、少女が振るう杖に負けず劣らず拮抗している。

そして鍔迫り合いでは埒が明かないと判断したのか、少女が大きく後退――――した瞬間、杖を握った腕が炎上する。

 

「……チッ」

 

だが腕の炎上も特に気にする事なく、少女が杖を振るうと炎が凍結して砕け散った。

砕けた後に現れたのはほぼ無傷な腕、両者とも一挙手一投足が手品じみた奇天烈さにまみれ、とてもじゃないが割り込む隙も無い。

 

「何が起きているんだヨ……おにーさん! 何しているんだヨ!!」

 

「…………」

 

返事がなく、うつろな瞳はこちらに見向きもせず敵対している少女へと向けられている。

心ここにあらずという様子だ、これではまるで先ほどまでのハクのような……ハク?

 

「あー! そうだ、ハクはどこに……」

 

「ご、ゴルドロスちゃぁん……」

 

「おびゃー!?」

 

色々と衝撃的な展開が続いてすっかりハクのことが頭から抜け落ちていた。

どこに行ったのかと一瞬肝を冷やすが、探し人はヘトヘトになりながら私の足元に縋りついていた。

 

「な、なんか山あり谷ありの中で数㎞歩き尽くしたような疲労感があるんですけど……何があったんですかぁ……?」

 

「こっちが聞きたいヨ、というか正気に戻ったんだネ! ほら、あれ見て!」

 

「ほぁ? な、なんですかぁあれェ!?」

 

ハクの頭を引っ掴んで無理矢理戦火の渦中へ向ける。 本当にここまでの出来事を何も覚えていないのか、新鮮な驚きだ。

それでもハクの意識が戻って来たのは喜ばしい、おにーさんとずっと戦ってきた彼女なら何か分かるかもしれない。

 

「よく分からないけどおにーさんが暴走してあの白い魔法少女とバッチバチに戦り合っているんだヨ! ハク、どうしたらいいカナ!?」

 

「ちょっと待ってください情報量が多すぎます! え、えーとえーと……すごい魔力の密度……なんですかあれ、()()()()()()()()()()……?」

 

何度も同じ戦場を駆け抜けていた相棒に向けられる疑問の声、それだけ今のおにーさんの状態が異質ということだ。

白い魔法少女の戦闘力は未知数だ、いつどちらに天秤が傾いてもおかしくはない。

少女が勝っておにーさんが止まるならそれに越したことはない。 しかし実力がこのまま拮抗する場合、少女はおにーさんごと……

 

「……なんだろう、何かがマスターの意識に介在している……? ブルームスターとは異なる魔力に上書きされて……」

 

「つまりそれってどうすればいいんだヨ!」

 

「要はもう一度ブルームスターの魔力でマスターの意識を呼び起こせば……おそらくは……けどあれだけの出力を上書きするとなると……」

 

「上書き……」

 

つまりあの異質な姿からさらにブルームスターに変身すればいいという訳か。

しかし通常の形態ではパワーが足りないという、ならば……

 

「……OK、やることは決まったカナ。 ハク、私の命を預けるヨ」

 

「へっ? ご、ゴルドロスちゃん……何をする気です?」

 

終わったらきっと、おにーさんは良い顔をしない。 それでも二度と会えなくなるよりずっとましだ。

おにーさんの意識が寝こけているなら、私が直接起こしに行こうじゃないか。

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