俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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【ちょっとしたTips:魔法少女の正体がばれない理由】

魔法少女は常に無意識で全身に高濃度の魔力を纏っている。
桂樹 縁はこれを「エーテル」と名付けたこの魔力は、周囲の認識を阻害するものとのこと。
つまりエーテルを常に纏っている魔法少女は上手く認識できない。
外見の説明や衣装・アクセサリーの詳細は理解できるが、それを非変身状態の姿と結び付けられない。
要するにいくら顔出ししようとも魔法少女の正体は暴かれることはない。


修羅・抜刀 ④

「――――縁さん、何であんな真似をしたんですか!」

 

「ひぃーん、ごめんねぇ! だって咲ちゃんがやれってぇ……!」

 

黒く焦げた袖を振り回しながらいい大人がみっともなく泣きわめく。

まさか、とドクターの方へ視線を向けると彼女はやれやれというように肩をすくめて見せた。

 

「如何にも、ボクが縁に頼んだ。 この結果はやや想定外だが」

 

「理由を聞かせてください」

 

何故かは分からないが彼女は縁さんの問い詰めに対して酷く憤り、傷ついた様子だった。

それをわざとやったというのであれば、例えドクターであろうと許せるものではない。

 

「……理由は2つ、まず彼女の真意が知りたかった。 魔法局の仲間として本当に信用できる相手なのかどうか」

 

「戦闘に対するメンタルテストは登録後の規定により必須です。 今この場で急いて行うものではないかと思います、もう一つの理由は?」

 

「もう1つ、診断だよ。 君から連絡を受けた時、彼女の症状に心当たりがあると縁が言ってね」

 

「……本当ですか、縁さん」

 

「へぁっ? ああうん、本当よ。 何度かね、PTSDになった子が杖を使えなくなるってケースがあったの」

 

聞いた事がある、杖は魔法少女の心の象徴だ。

逆に言えば何らかの理由で心が折れてしまえば魔法少女としての力を殆ど失ってしまう。

 

「つまり彼女は戦う気力を失ってしまった状態だと?」

 

「うーん、ちょっと違うと思うな。 もっと根本的に心がズレてきているというか……」

 

「ふむぅ?」

 

「魔法少女として初めに(いだ)いた志と、現状の心象が異なる状態。 魔法少女のバグとでも言おうか、そのせいで体の調子に不備が起きているとボクは見ている」

 

縁さんの説明をドクターが補足する。

彼女が志を曲げる? それこそ考えられない、あの日出会った時から彼女はいつだって変わらなかった。

まして私にあんな説教を垂れておいて、自分の志を曲げるとは到底考えつかない。

 

「ちょっと葵、どこに行く気?」

 

「――――ブルームスターを探してきます、彼女を捕まえるのは私に与えられた任務だ。他の誰にも譲りません、いいですか?」

 

「……君が強情なのは知っているよ、止めるだけ無駄だろう。 行くと良い」

 

母の制止を振り切り、お手上げとばかりに両手を上げたドクターを背にして扉を抜ける。

暖かい日差しが降り注ぐいつもの大通り、しかしそこには目を瞑っても分かるほどの魔力の残滓が残されていた。

いつもの彼女ならこんなヘマを犯すはずもない、やはりドクターが言うようにどこか調子がおかしいのだろうか。

 

「……待っていなさい、ブルームスター。 あなたを倒すのは私です!」

 

ブルームスターを探すため、私は道を行きかう人々をかき分けながら駆けだした。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……良いのかい、縁? 行かせてしまって」

 

「咲ちゃんが止めないなら私が止められるわけないじゃないですかぁ、局長になんて説明すればいいんだろう……」

 

ピッチャーの水を被った彼女は、溢れる涙をハンカチで拭っている。

もはや多少涙で濡れても全身びしょ濡れなことに変わりはないと思うが。

 

「……しかし、発火能力は初耳だね」

 

「ええ、私もびっくりしました……これはどういう事なんでしょう」

 

縁の手を取り、焦げ付いた袖口を観察する。

幸い火傷は負っていないようだが、迅速な消火の割に袖の損傷は激しい、ただの炎ではないと見ていいだろう。

 

「……縁、専門家の意見を聞きたい。 これをどう思う?」

 

「うーん……彼女の魔法は触れたものを箒に変えるものだと思っていたし、複数の魔法を持つこと自体は珍しくないけどここまで脈絡がないとなると……」

 

確かに、主な魔法とは別に副次的な能力を持つということは珍しくない。

ゴルドロスの魔石増殖やボクの聴診器だって副次能力の1つだ、だがそれはメインの魔法を補助するようなものが多い。

それらに比べて『炎』と『箒』、この二つは関連性の薄い要素に見える。

 

「……まるで彼女の中に2~3人、別のなにかが混ざっているみたい」

 

「多重人格というやつかい?」

 

「それはないと思う、返答もはっきりしていたし解離性障害とは……いやでも体が動かなく……もしかして……」

 

何か思いついた節があるのか、縁とぶつぶつと独り言を呟きはじめる。

こうなると話しかけるのは邪魔になる、考察については彼女に任せよう。

 

「すみません、何か拭くものをください。 お店汚してしまってごめんなさい」

 

「え? あ、ああ子供が気にしなくていいのよ。 片付けくらい私がやっておくわ」

 

そういわけにもいくまい。 葵の母に謝辞を述べ、黒服の方々に頼んで店内を片付ける。

……出来ればボクも葵の手伝いに向かいたいが、彼女が任せろと言った以上は信じるしかない。

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

人通りのない細道をひた走る。

体が熱い、燃えてしまいそうだ、一体俺の体はどうしてしまったのだろうか。

 

《―――マスター! ちょっと、どこ行く気ですかマスター!?》

 

頭の中でハクの声が反響する、五月蠅い、ちょっと静かにして欲しい。

どこへだって? 分からない、俺は一体どこに行こうとしているんだ。

ただあれほど動かなかった脚だけは、認めたくない現実から目を背けるようにどこかへ逃げ続ける。

 

「ハク……俺、今どうなってる……?」

 

《えっ? えっと……なんていうか、黒ずんでます》

 

見れば白かったはずのマフラーや髪の毛は灰色じみた色合いに代わっている。

元から黒色のローブなどは変化がない、全体的に黒色に近づいてきているのだろうか。

 

「……縁さんが見たら何かしら分かるのかな」

 

ともかくこのままじゃ店にも戻る事が出来ない、一度変身を解除して……

 

「……あっ、箒ちゃん居たぁ」

 

虚空からスマホを取り出した時、どこからか能天気な声が聞こえた。

狭い路地に反響したその声の出どころは分からない、周囲を見渡してみるがさっぱりだ。

 

「……誰だ、どこにいる?」

 

「し、知る必要はないかなぁ……こ、こんな所でのんびりしてて良いのかな? 表の方がたたた大変だよ?」

 

「……? なにを―――」

 

――――瞬間、大通りの方からけたたましい悲鳴と爆発音がこの路地へと飛び込んでくる。

それはまるで時間がたっても治まる事はなく、それどころか混乱する人々の叫び声と逃げ惑う足音がどこまでも木霊する。

 

「あっ、始まったぁ。 じ、じゃあ私はこれで……」

 

「おい待て! 一体何を……ちっ!!」

 

姿を見せない声の主と大通りの混乱、2つを天秤にかけた僅かな葛藤を切り上げて駆け出す。

勢いよく日の当たる大通りに飛び出したその時……()()()()は両手に抱えた自動車を投げつけてきた。

 

――――車の中には運転手と思われる女性が、助手席に座る少女を庇うように抱きしめていた。

 

「――――っ! テメェ!!」

 

叩き落すわけにはいかない、投げつけられた自動車を受け止める。

軽い体は威力を殺しきれずに後ずさるが、全身で威力を殺しながらなんとか車を止め切った。

 

「大丈夫ですか!? 早く逃げて!!」

 

「あ、ありがとうございます! ありがとうございますっ!!」

 

辛くも受け止めた車を降ろし、ドアを開いて中の2人を引っ張り出す。

泣きじゃくった少女を抱きかかえた母親は震える声で礼の言葉を残して逃げる。

良かった、2人とも怪我はない。 本当に良かった……

 

「……んで、テメェはどういうつもりだ?」

 

『―――ギヒヒヒヒヒッ!!!』

 

逃げる母親の背を守る様に立ち塞がり、スクラップと化した車の山で耳障りな笑い声を上げる魔物を睨みつける。

その姿は一瞬、あの黒騎士かと見紛うようなシルエットだった。

だが違う。 全身を覆う鎧は肉々しく脈打ち、両手は槍と盾を持たない徒手の代わりに異様に長い。

頭にも兜は付いておらず、涙痕の様な模様と頬が裂けるほどの笑みを刻んだ口以外に鼻も目も髪も無い。

 

黒騎士と同じ人型、しかしそれはどこかが歪んだ異形の怪物が嗤う。

その足元に積もった廃車の山からは肉が焦げる嫌な臭いと、人の腕と思えるようなものたちが突き出ていた。

 

「……何がおかしいんだよ、お前」

 

体が熱い、胃の腑が焼き切れてしまいそうだ。

黒い火の粉が視界の端を掠めたような気がした。

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