俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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賢者の本質 ⑥

ダメもとで放った氷柱は、どれもが当たる直前に霧散する。

数をどれほど揃えても結果は同じだろう、何の細工も施していない飛び道具はろくな牽制にもならない。

賢者の石の最も驚異的な能力が「これ」なのだ。

 

「わぁ、流石お兄ちゃん……使いこなすのが速いね」

 

口では称賛しているが、今行っているすべての行動にお兄ちゃんの意思は介在していないはずだ。

全て賢者の石によってあらかじめ設定された使命に基づく行動だ、宿主の命を置換しながら絶大な力を振るい続ける。

 

「駄目だよ、お兄ちゃんは私じゃないんだから……幸せにならなきゃ、ね」

 

こちらも全力を出せば拮抗することはできる。

だがそれはこの世界に致命的な魔力汚染を残すことになる、お兄ちゃんを正気に戻してもそれでは本末転倒だ。

 

「本当に、あの黒いのは……今度見つけたら生きたまま心臓を止めよう、そうしよう」

 

最少最低限の力でフル稼働している賢者の石を止める、それを成し遂げるには私一人の力じゃ力不足だ。

やはり危険だが、彼女の協力が――――

 

「―――Hey! ホワイトガール、目閉じて!!」

 

「……!」

 

私とお兄ちゃんの間にスチール缶のようなものが投げ込まれる。

それが何かを理解すると同時に、缶からは強烈な閃光と煙が放たれた。 

指示された通りに目を庇わなかったら危なかった、だが不意打ちだったお兄ちゃんは直接喰らったはずだ。 今が好機――――

 

 

「駄目です駄目です! 下がってください!」

 

「うぇっ?」

 

燕尾の裾を掴まれ、後方に引っ張られる。

次の瞬間、先ほどまで私が立っていた位置に無数の刀剣が降り注ぐ。

地面に突き刺さった夥しい数の刀剣、一対の特徴的なデザインは魔法少女の杖だろう。

 

「What's!? なんでサムライガールの杖使っているんだヨ!?」

 

「しかもあんなにたくさん! どういうことです!?」

 

私を引っ張ったのはお兄ちゃんに引っ付いた泥棒猫だった、こんな所で助けられるなんて屈辱だ。

だが助けられたの事実、私が勇み足だったのも否めない。 皮肉と罵倒の言葉は大人しく飲み込まねば。

 

「……魔力による複製だよ。 知り合いの杖? ならせいぜい殺されないようにね」

 

「ふ、複製? もうちょっと説明を……ってまた来ますよ!」

 

見ればお兄ちゃんの頭上にはチャックで開けられたような空間が広がり、そこからは数多の刀剣が刃を覗かせている。

先ほど焚かれた閃光弾は効いているようで、お兄ちゃんは視界が潰れた状態だ。

私達の姿は正確に捕捉できていない……そのうえであの物量を用意するという事は、()()()()()()()()()

 

「私の後ろに並んで、はみ出したら自己責任だよ。 特にそこの泥棒猫」

 

「ゴルドロスちゃん、あの子なんだか私への当たり強くないですか!?」

 

「よく分からないけど女の嫉妬は怖いネって話だヨ!」

 

お兄ちゃんが振りあげていた腕を降ろすと同時に、亜空間から顔を覗かせていた刀剣が四方八方に飛散する。

寸でのところで展開した氷の盾が私たちの身を守るが、飛んでくる刀の一本一本が氷を大きく削り取って行く。 力を押さえた状態じゃ何発も受けきれない。

 

「っ……ねえ、今みたいにお兄ちゃんの気を逸らす手段はある?」

 

「手段は色々あるけどサ、どうにかおにーさんに()()をタッチできない?」

 

金色の魔法少女が見せて来たのは、そこら辺にあるようなただのスマートフォンだ。

ただし、その画面内には先程まで私達の後ろにいた泥棒猫が収まっている。

 

「私のスマホだヨ、これで強制的におにーさんをブルームスターに変身させる」

 

「……なるほど、だけど正気に戻る可能性は低いよ。 変身させるだけじゃ今一押しが弱い」

 

「大丈夫、考えはあるヨ」

 

金色少女の瞳から虚勢やハッタリは感じない、確固たる自信……いや、覚悟が見える。

何をやろうとしているのかはだいたい分かった、彼女はお兄ちゃんのために自分の命すら賭ける気だ。

 

「……お兄ちゃんを助けてくれるのは良いけど、死んじゃ駄目だよ。 お兄ちゃんが悲しむから」

 

「前向きに善処するヨ、こっちだっていっつも命がけで助けてもらってばかりだからネ。 たまにお返ししたって罰は当たらないヨ!」

 

「そっか、愚問だったね。 ……勝負は一瞬で決めるよ、長引くと魔力が溢れる」

 

お兄ちゃんの身体からは今もなお膨大な魔力が溢れ続けている。

今はまだこの距離でも無事で済むが、時間が立てば立つほどこの金色少女の致死圏内は広くなっていく。

そして援護すら届かなくなれば、全力を出せない私に残される道もまた犬死か相打ちだけだ。

 

「盾を消す、打ち合わせている暇はない。 私の動きをよく見て、合わせて」

 

「あいあいさー……ハードなミッションだネ」

 

《大丈夫です、私もサポートしますから!》

 

「泥棒猫は黙ってて、気が散る」

 

《私だけ当たり強くないですかねぇ、さっきから!》

 

わめく端末を無視し、飛んでくる弾幕が途切れた一瞬に合わせて氷の盾を解除する。

ここからの数秒は値千金――――命を懸けて賢者へと挑む時間だ。

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