俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ハイウェイ・デッドヒート ①

「う、うーん……寒いヨ……」

 

「ラピリスクン、なぜ彼女は真夏の茹だるような暑い日に毛布を被って震えているのかね?」

 

「分かりかねます、携帯も破壊されていたので何かあったのは確かなのですが……」

 

「私も何があったか覚えてないんだよネー……そこら辺なにか覚えてないカナ、ブルーム?」

 

「いや、俺もさっぱりだな」

 

ラピリス達に召集された魔法局の一室、かつて魔女事変で崩壊寸前まで陥った痕跡はほとんどない。

時刻は深夜、通話で呼び出された俺たちはそのまま魔法局へ連行されたわけだが……降りしきる雪の中で気絶していたゴルドロスは今、毛布とホッカイロに包まれて震えている。

 

「採石場から強い魔力の反応を感じたから向かってみれば……いつの間にか辺りは雪景色、気絶したゴルドロスが足元で雪に埋もれていたんだよ」

 

「さいですか……そちらも無視できない問題ですが、先にこちらの話を片付けましょう」

 

あの採石場にて、俺が正気を取り戻すまでの出来事はスノーフレイクが関わっていた。

こともあろうにゴルドロスはこっそりデバガメしていたようだが、気を失ったことで彼女に対する記憶が薄れ、一連の流れを忘却してしまったのだろう。

文句の一つも言いたいが、忘れてしまっては何も言えない。 むしろこっちにとって都合がいいので便乗してしまおう。

 

「さて話を続けよう、恐らくボクたちと君達の身に起きた出来事は連動している。 局長、地図を」

 

「はいはい、資料室から苦労して引っ張り出してきた私をねぎらってほしいねまったく……」

 

「……なあ、今更だけどいいのか? ドクターが当たり前のように参加している訳だけどよ」

 

「人手不足なので致し方ないことです。 それにドクターはもう裏切りませんよ。 流石に非公認の助っ人ですがね」

 

人手不足という理由も真実だろうが、ラピリスの言葉は既に全幅の信頼を寄せているに等しいものだ。

かつては野良の魔法少女を刀片手に追いかけ回していた人物から聞ける台詞とは思えない。

 

「今何か失礼な事考えてませんでした?」

 

「イイエナンニモ」

 

「ええい局内では刀を仕舞いたまえラピリスクン! ほら、地図に注目注目!」

 

俺たちが馬鹿やっている隣で準備を進めていた局長が、机に広げた地図をペシペシ叩く。

それはこの街の周辺に張り巡らされている交通路が描かれた地図だ、その中に採石場を含む2点が赤くマーキングされている。

 

「まず君達が報告した採石場、そしてボクらが黒い少女と出会った高速道路……この2点で強い魔力反応が残された」

 

「…………昨日の蛹事件と同じものか?」

 

「いいえ、少なくとも私とドクターが少女と邂逅した地点はそれほどひどくはありませんでした。 それでもしばらくは通行止めになるでしょうけど」

 

「問題は別にある、黒い少女が呼び出したとみられる魔人についてが本題だ」

 

「……黒い少女、か」

 

十中八九、ラピリスたちが話しているのはネロのことだろう。

ハクから聞いた限りでは吹っ飛んで行った方向も一致する……しかし地図を見るに大分距離があるが、よくもまあ無事だったものだ。

 

「魔人の体長は推定3m超。 目標は白骨の馬と首なしの騎手の2体で構成されていた、特筆すべき性能としては機動力が極めて高い」

 

「そ、それってどのくらいカナ……」

 

「直線路ならラピリスですら追いつけなかった、おまけにこちらの攻撃が通用しない。 何か絡繰はあると思うけどね」

 

「おい、ラピリスで追いつけないって相当だぞ……魔人はそのまま逃げたのか?」

 

「ああ、近くの監視カメラをいくつかハッキングして捜索したが煙のように姿をくらました。 消息は今のところ不明だ」

 

ドクターの発言に対し、ラピリスが不満げながら無言でうなづく。

本人が否定しないなら速度で負けたというのは真実か、そうなると正攻法で足跡を辿っては一生追いつけない。

 

「ラピリスクンですら追いつけない、しかも攻撃が効かない……あれ、もしや無敵ではないかね?」

 

「無敵なんてありえないさ、必ず攻略法は存在する。 それを見つけるのがボクの仕事だよ」

 

「さすが元無敵、説得力があるネ。 ところでシルヴァは?」

 

「病院で療養中です、命に別状はありませんが暫く安静にしなければなりません。 今回の魔人に関しては我々だけで対処します」

 

「ただしブルームスター、君は予備戦力として待機だ。 勝手に前線に飛び出さないでくれよ」

 

「ん? そいつはどういう事だ?」

 

突然、ドクターから人差し指と共に釘を刺される。

確かにブルームスターは非公式の魔法少女だ、機動力のあるラピリスや弾丸をばら撒くゴルドロスに比べて高速起動を相手取る力は低いだろう。

しかし何の説明もなく待機と言われても素直に引き下がることはできない。

 

「どういうことも何も、君はもとより野良の魔法少女だ。 魔法局とつるんで目立つような真似はやめてもらいたくてねぇ」

 

「待て待て、それを言うなら一度裏切ったドクターが指揮を執るのもどうなんだよ」

 

「まあまあ、とにかく今日はもう遅い。 休憩室は開いているからキミたちも泊って行きなさい、適切な休息も平和を守るために必要な仕事ではないかね?」

 

ヒートアップしそうな俺とドクターの間に、局長が割って入る。

……確かに時刻は2時近い、改めて意識してしまうとこれまでの疲労がどっと押し寄せて来た。

 

「そうですね、布団はブルームスターの者も含めて人数分ありますから」

 

「いや、俺は……」

 

「……日を改めて話したい事もありますので、今日は泊ってください」

 

断ろうとした俺の耳に、ラピリスが秘話を囁く。

日を改めるということは他の面子に聞かれたくないという事だが、あのラピリスが俺に何の話を?

 

「沈黙は合意とみなしました、では布団を敷いて今日は寝ましょう。 パジャマもありますが着替えますか?」

 

「……いや、遠慮しとくよ」

 

未だ震えが止まらないゴルドロスの手を引き、ラピリスは一足先に休憩室へと向かっていく。

新たな魔人、ネロの正体、そして俺たちの身体に存在する賢者の石……

渦巻く謎でぐちゃぐちゃになった頭を整えるため、俺たちはそのまま泥のように眠ってしまった。

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