俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ハイウェイ・デッドヒート ⑨

――――(きた)る、王を呼び起こす門の完成が。

我らが王、大創造主の召喚を何者が邪魔できるだろうか。 否、如何に遮ろうとも我らが蹄鉄は決して止まらぬ。

この地に刻むは我が怒り、王の凱旋を妨げる世界そのものへの怒りを刻まん。

 

敷くべき陣の完成は目前、唯一の脅威足る「魔法少女」も我らが脚に迫る術なし。

去らば魔法少女。 邪道を走り、我が眼前に躍り出た刹那こそが最後の好機であった。

同じ轍を踏まず、もはや貴様らに我の首を取る好機はない。

 

「―――――」

 

後ろから迫る鉄塊の上に乗る魔法少女が何かを呟いた気がする。

……彼奴等に好機は、ない。 我ら馬身一体、油断慢心など非ず。

さりとて伽藍洞の胸が騒ぐ、すぐそこに“死”が迫ると(うろ)の心を波立たせる。

 

あなや、あれこそがこの世界に打たれた楔。 我等に届きうる唯一の牙。

我らに与えられた使命、その意味をようやく解する。 あれこそが敵将なり。

ならばこの命果てるまで、いざ参らん。

 

鮮血の如く赤き衣に身を包む者よ、我らが世界のために――――死ね。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「俺にしか倒せない」、ネロが吐いたという捨て台詞の意味がやっと分かった気がする。

あのデュラハンを守っているのは一種のルールだ、魔力という万能の素材で編まれた法則の鎧。

そして、その鎧を突破する手段は限りなく少ない。

 

「……ハク、状況は?」

 

《はい……灼火体への相乗は無事に完了しました、ただし同時に魔人から魔力の膨張を確認しています》

 

駆動輪の悲鳴を轟かせながら走る車体のさらに前方、目測で10歩以上離れている間合いの先に奴がいる。

ハクの言う通り、今まで頑なにこちらを無視していた奴の身体からは威嚇ともとれる魔力のうねりを感じ取れる。

あからさますぎる灼火体への警戒……だが、未確認の能力に対してあまりに対応が早い。

 

「すでに知っていたか……それとも」

 

『おい、何をぼーっとしてるんだブルームスター。 灼火体には変身したのか?』

 

「おっと、悪い悪い。 こっちは問題ない、ドクターこそショートカットは出来そうか?」

 

『仔細ない、30秒後に仕掛けるぞ。 ……だが初見の時とは違う、間違っても返り討ちには合うなよ』

 

「分かってるさ、それに俺なら奴を倒せるんだろ?」

 

『……正直、今となっても君の戦闘行為は反対だ』

 

機械音質混じりのドクターの声からは実に苦々しい。

ネロの言葉を反芻しているであろう彼女の声には、俺に対する敵意だけではないもっと複雑な感情が入り交じっている。

 

『君にしか倒せないという台詞はブルームスターと魔人の戦闘を引き起こす罠としか思えない、たとえ魔人を倒したとしても何が起きるか全くの未知数だ』

 

「だが、ここで奴を取り逃がせば……それこそ何が起きるか分からない」

 

『ああ、そうだ。 だからこれは賭けだよ、大人しく魔人を討滅する方が被害が少ないとボクは予測する』

 

そもそもがネロの手により、初めから乗るも反るもままならない状況を敷かれていた。

ネロがこちらの戦力をどこまで把握しているかは分からない、しかし確実に俺をおびき寄せるだけの手は打っていたはずだ。

 

『これはボクの選択、そしてボクの責任だ。 だから、その……君は黙って従え』

 

「ははっ、分かった分かった。 それでいいよ、素直じゃないなまったく」

 

『言葉に気を付けろよ、今すぐ君だけ振り落として轢き倒してもいいんだぞ……!』

 

「はい、誠にすみませんでした」

 

何故かドクターは俺の事を目の敵にしている節がある。

そんな俺に対して謝るような真似はしたくない、今の台詞も「責任は自分が背負うから何も気にするな」と言いたいだけだ。

だがもう少し踏み込んで茶化していたらドクターは間違いなく轢き逃げを実行に移していただろう。

 

『ふんっ。 5秒前からカウントダウンに入るぞ、2人とも備えろ。 車内のゴルドロスはラピリスの身体を絶対に落とすな』

 

「はいはい分かってるヨ、まったくドクターは友達思いだネ。 もはや過保護の域だよHAHAHA」

 

『ライナ、事が済んだら車内のラピリスだけ回収してくれ。 残った車体はボクが“処分”する』

 

「あれーシートベルトが外れないナー!? ドクター、ドクタァー!?」

 

『はいごぉー、よーん、さーん、にぃー……』

 

「ブルーム!! ヘルプミー!!」

 

「悪いなゴルドロス、骨は拾おう」

 

ドクターが刻むカウントダウンが0を宣告すると同時に、猛スピードの車体がガードレールを跳ね除けながら道路を飛び出す。

立体的に展開された高速道路の真下、そこにはちょうど俺たちの先を走っていたデュラハンの姿が見下ろせる。

流石ドクター、タイミングはドンピシャだ。 そして頭上からの攻撃なら舞い散る火の粉も無視できる。

 

「師匠、攻撃――――」

 

「いや、まだだ。 あいつはこっちに気付いている」

 

頭上は本来なら死角だ、だが頭のないデュラハンの知覚範囲を常識に当てはめて考えちゃいけない。

あいつはこれまでの追走劇の中でも、一切振り返るようなそぶりを見せなかった。

だから頭上だって見えていてもおかしくはない――――その予想を裏付けるかのように、デュラハンの姿は再び消失した。

 

『デュラハンの反応消失! これは――――』

 

「ああ……()()()()! ここだライナ!!」

 

「了解、全力全開っす!!」

 

ライナが自身の魔法を解放した瞬間、自由落下をはるかに超えた速度で俺たちの身体が真下の道路へ着地する。

全ての魔力をごく短時間に圧縮・解放したライナの全力駆動。 正確にいえばその動きは「自身に働く時間の加速」という形によって反映される。

跳躍と落下という過程すら一瞬で終わるその感覚としては映像の“早送り”が近いだろうか、そして極限まで加速された彼女の動きは僅かにだがデュラハンの速度を上回った。

 

「――――よう、詰めが甘かったな。 こっちだってお前のその技は初見じゃねえんだよ」

 

再び現れたデュラハンは俺たちの()()へと現れる。 

追跡開始からおよそ30分、魔法陣の完成度は既に9割を超えてようやく――――俺たちはデュラハンの「前」へと躍り出た。

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