俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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あっけらかんとくたばって ④

「……帰ってきていない?」

 

「ええ、朝っぱらからどこに行ったのかしらね」

 

メディカルチェックなどを一通り済ませ、店へと戻ると出迎えてくれたのは母だけだった。

表戸にはクローズ戸の立て札がかけられ、室内にお兄さんの姿はない。

何処かへ出かけているのだろうか、しかしお兄さんが何も告げずに出ていくとは珍しい。

 

「てっきりあなた達と一緒だと思ったけど、どうも違うみたいね」

 

「そんなわけないじゃないですか、私達は今の今まで……」

 

「……? どうかしたの?」

 

「いえ……なんでもないです」

 

なんとなく脳裏に違和感を振り払う、きっと気のせいだ。

私達が戦っている間、お兄さんが店を離れる。 そういう偶然もあるだろう。

ただの不幸な偶然で、日が落ちれば帰ってくるはずだ。

 

「連絡を送っても未読無視、電話は一切通じない。 どこかでまた不良の喧嘩に巻き込まれているのかしら」

 

「むぅ、あり得ない話ではないですね……」

 

そうだ、お人好しなお兄さんのことだからきっとどこかでトラブルが起きているだけだ。

いつもより手の込んだトラブルのせいで連絡を取る暇もない、きっとそうなのだろう。

 

……ふと確認した手元の中では、今だ既読が付かないブルームスターへのメッセージが点灯している。

 

「とにかくあんたが戻って来たならちょうどいいわ、今お昼ご飯作っていたのだけど……」

 

「ちょっと疲労困憊で食欲がないため部屋で休んでますね!」

 

調理場から運ばれてきた名状しがたき不浄な色彩を放つ鍋から逃げるように階段を駆け上がる。

折角生きて帰って来たのにこんな所で死んではたまらない。

慌てて逃げ込んだ部屋は自室ではなく、お兄さんの部屋だった。

 

「ま、間違えた……」

 

元は物置だったものを片付け、母がどこからか貰って来たベッドや家具を運び込んだ部屋。

その室内はいつ来ても変わり映えがない、個人の私物といったものがほとんど増えていないのだ。

もしその気になれば、最低限の私物だけを持ってどこかへ消えてしまえそうな……

 

「…………っ」

 

込み上げてきた恐怖から目を逸らし、部屋の扉を閉じる。

何をバカな事を、お兄さんがどこかへ消えるはずがない。 そんな理由は、どこにもないじゃないか。

 

「ブルームスターじゃ、あるまいし……」

 

閉じた扉に背を預けて、ずるずるとその場にへたり込む。 なんとなく、この場を動く気になれなかった。

離れてしまえば二度と戻ってこれないような気がした、二度と大事な人が戻ってこないような気がした。

自分でもなんのことだか分からない、多分疲れているんだ。 だから変な考えばかりが頭を過ぎってしまう。

 

「……お兄さん」

 

会いたい、どうかこの圧し掛かる不安を退けてほしい。

自分の考えは世迷言だと笑ってほしい、何事もなかったかのように帰ってきて美味しいご飯を作ってほしい。

 

――――しかしそんな私の希望とは裏腹に、お兄さんとブルームスターがいなくなって三日が過ぎ去った。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「……酷い顔してるネ、サムライガール」

 

「…………コルトこそ、目の下にクマが出来ていますよ」

 

客足の途絶えたせいか、電灯も点いていない店内に踏み込むと、幽鬼のような顔つきのサムライガールが二階から降りて来た。

目じりは赤く、泣きはらした後がある。 きっと彼女も私と同じくろくな睡眠を取れていないはずだ。

 

「サムライガールのお母さんは? こんな時に大人しくしている人とは思えないけどサ」

 

「街に出かけてますよ……たぶん、お兄さんを探してます」

 

「そっか、やっぱりまだ帰ってきていないんだネ」

 

分かってはいたが、それでも気分は落ち込むものだ。

デュラハン討伐から三日、あれからおにーさんの姿は消えてしまった。

ブルームスターを探す名目で魔法局の力も借りたが、それでもあの人は影すら掴ませていない。

 

「ブルームスターも相変わらずだヨ、本当にどこにいったんだか……」

 

サムライガールが絶不調の中、新たに魔物が現れていないのは不幸中の幸いか。

しかし、今までの出現ペースを考えるとかなり不自然な平穏という気もする。

まるで誰かが、魔法局が気付くより先に魔物を倒しているかのように――――

 

「……まったく、今度会ったらけっちょんけちょんにしてやるヨ! サムライガールも手伝ってよネ!」

 

「………………」

 

まごう事なき重症だ、ご飯もまともに食べていないんじゃなかろうか。

テーブルに座って動かないサムライガールの脇を抜け、調理場に忍び込むが、最近使われた形跡はない。

 

「だめだヨ、ちゃんとご飯も食べないといざって言う時に動けないからネ」

 

「最近はコンビニや出前で済ませています」

 

「おにーさんが聞いたら卒倒するネ、栄養バランスとか考えているのカナ?」

 

たった三日でこの始末だ、おにーさんも不安だがサムライガールも放っては置けない。

本当にあの人たらしは、こんな美少女たちを放っておいてどこで道草を食っているのだろうか。

 

「……そういえばサ、なんでサムライガールはおにーさんの事――――」

 

サムライガールへと振り返った瞬間、私達の携帯がけたたましい着信音を鳴らす。

 

――――それは三日ぶりとなる、魔物の出現を知らせる魔法局からの連絡だった。

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