俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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あっけらかんとくたばって ⑤

『こちらシルヴァ、こちらシルヴァ! 2人とも、聞こえているか!?』

 

「通信は良好です、ただいま現場へ向かっています!」

 

「サムライガール、飛ばし過ぎだヨ!」

 

ビルを蹴り、風すらも追い抜かす勢いで空を駆ける。 目的はただ一つ、魔物の討伐だ。

不思議だ、あれだけ落ち込んでいた気分もこの瞬間だけは忘れられる。

職業病と言ってもいい。 魔法局の連絡と同時に、私の体は一も二もなく駆け出していたのだから。

 

「……あるいはやつあたり、ですかね」

 

『む? すまない、風音が五月蠅くてよく聞こえなかった』

 

「いえ、なんでもありませんよ。 現場へ急ぎます」

 

三日も振るっていなかったというのに、腰に下げた刀はとても手に馴染む。

どこか懐かしい飢えにも似た感覚。刀が今か今かと魔物の血肉を求めているかのように。

ああいやだ、思い出してしまう。 お兄さんが家にやって来る以前の頃を。

 

「―――――……」

 

お兄さんは私にとって大切な人だ、迷走していた私に大事な事を教えてくれた。

どこかで幸せになってくれるならそれでいい、しかし私にはまだ返しきれない恩が―――

 

「ちょっと、サムライガール! 前見てヨ前!!」

 

「へっ……うわっ!」

 

呆けたまま跳躍した先に待ち受けていたのは、ビルの側面から突き出した大型看板。

激突する寸前に刀から風を吹かし、間一髪のところで回避する。

危なかった。 直撃したところで怪我一つ負わないが、魔法少女が公共物を破壊するというのは外聞が悪い。

 

「Hey、あとでおやつ奢ってほしいカナ!」

 

「も、申し訳ありません。 すこし考え事をしていたもので……」

 

「魔物はそんな言い訳聞いちゃくれないヨ、頭を切り替えないと先にサムライガールが死ぬんじゃないカナ?」

 

「むぅ……」

 

ゴルドロスの言う通りだ、返す言葉もない。

久々の魔物に気が逸っているのか、余計な事ばかりを考えてしまう。

 

「ほら、そろそろ目的のポイントだヨ。 目は覚めてるカナ?」

 

「ええ、面目ないところをお見せしました……行きましょう」

 

最後に立ちふさがるビルを飛び越え、一気に視界が(ひら)ける。

昼間の日射が差し込む駅前の大通り。 ここは忘れもしない、春の初めに大蜘蛛の魔物が現れた場所だ。

私が敗北を喫し、ブルームスターと出会った場所。 そんな苦い思い出の残る場所で待ち受けていたのは……

 

『―――――ピギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

「…………え?」

 

四肢を千切られて悶える魔物と、その返り血を浴びて佇む()()()()―――

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

バケツをひっくり返したようにぶちまけられた青銅色の血は、すぐに魔力へと変換されて消失する。

遠距離攻撃を持たない魔法少女なら苦戦していただろう、本来なら強酸性の猛毒を含んでいたはずの体液は俺を焼くことはない。

足元にはただ、万策尽きたクモの化け物がちぎれた四肢を躍らせて悶えるだけだ。

 

『●×△#%〇+‘*――――z___!!!』

 

クモの胴体から人間の半身が生えたような魔人だが、人らしい部位からはただ言葉にもならない鳴き声が零れるばかりだ。

何をしゃべりたいのかは何となくわかってしまうが、どうでもいいことだ。

どうせこいつは今ここで死ぬことになるのだから。

 

「……決めたよ、やっぱりお前は火あぶりだ」

 

『@&%□―――!!!』

 

傷口から流れ込んだ魔力をプラズマに変え、一瞬で魔人の身体を焼き尽くす。

断末魔を上げる暇もない火力に貫かれた後には、魔石の欠片すら残らない。

ただこの場には、俺の身体から溢れた魔力だけがこの世界を汚染し続ける。

 

「ああ、すこし手間取ったか……」

 

人ごみにまぎれた擬態が巧く、逃げ足も速い魔人だった。

そのせいで処理にいつもより時間がかかってしまい、魔力の消費も増えてしまった。

やはり錯覚なんかじゃない、瞬殺できていたはずの魔人のレベルが日に日に上がっている。

 

「こいつらを倒せるのは俺だけだ、他の魔法少女が手を出すと余計に被害が増える。 ……これが最小限なんだ」

 

分かっている、自分が出張るたびに魔力の汚染が広がることくらい。

しかし討滅に時間が掛かればデュラハンのような事態になりかねない。

そうでなくとも魔人の生態は人を傷つける事に適し過ぎている、制作者の悪意が詰め込まれているかのように悪辣だ。

 

「だからもう、魔法少女はいらないんだよ。 ラピリス」

 

「……どう、して……?」

 

魔法局は優秀だ、俺が手間取った僅かな隙に位置を突き止め、魔法少女を派遣できるほどに。

久しぶりに見たラピリス達の顔は酷く疲弊していて、信じられないものを見るような顔だった。

 

「どうして……ここに、いるんですか……()()()()……」

 

俺はこの時に初めて、七篠 陽彩(ばけもの)として魔法少女と対面した。

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