俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある侵略者の独白 ③

私が実行しようとしている試みは成功の保証がない、水を張った風呂桶にばら撒いた時計の部品をかき混ぜるだけで組み立てるようなものだ。

私という生命のリソースを分解し、別の生命体を組み立てようとしているのだから。

まず間違いなく失敗する、しかし元より0に近い生存率。 わずかにでもプラスになるなら試す価値はある。

 

魔力爆発に耐える必要はない、むしろその衝撃に乗せて私の生体情報を世界中に分割・拡散する。

あとは分割した“私”が生き残るか祈るだけだ。 再構成された“私”が自分と同一の自我を宿す保証すらない。

……いや、むしろ私がそのまま形成されてはいけない。

 

《要求が一つあります》

 

「………………」

 

聞こえるだけの声量を響かせたつもりだが、研究員たちはこちらに見向きもしない。

これもいつものことだ、「情が湧く」「未解明な精神影響の可能性がある」などの理由で私との会話は推奨されていない。

しかしこの程度はすでに何度も経験している、諦める私ではない。

 

《この世界における“愛らしい”の定義について議論を提案します》

 

「「「…………は?」」」

 

流石に想定外だったのか、何名かの研究員から素っ頓狂な声が上がった。

私としてもこの提案は不本意だが、ここで詰めが甘いと次の“私”が苦労するので手が抜けない。

 

《復唱します、“愛らしい”の定義について……》

 

「うるさい、黙れ研究対象。 お前たちも聞く耳持つな、何か企みがあるかもしれない」

 

《私の姿に関して苦痛を訴える方が居ました、改善のために意見交換の必要があります》

 

前回の発言主が居心地が悪そうに縮こまるのが見えた、ついでに隣の女性からゴミを見るような眼を浴びせられている。

 

「あとで説教だな……全員作業に戻れ、無駄な時間を使った」

 

《答えて下さい、“愛らしい”について情報が必要です。 私はどのような形態を取ればよいのでしょうか》

 

「聞くな、情を得ようとしているだけだ」

 

()()()()()使()()()()()()()()()()は“愛らしい”と定義できる存在ではないのでしょうか》

 

「……―――――」

 

魔力生命体に対して魔力を持たないものは干渉できない、ならばどうして私を拘束する檻を形成できるのだろうか。

答えは簡単だ、魔力に適性のある存在で覆い固めてしまえばいい。

私を包み込むガラスの中には、防腐加工が施された少女の遺体たちが埋め込まれていた。

 

《初期漏洩時の微弱な魔力に感応できた存在、と見受けます。 しかし高濃度の魔力には耐えきれず、絶命したのでしょうか》

 

「………………」

 

《……いえ、魔力汚染による肉体の変質は見受けられない。 それ以前に死亡処置を――――》

 

「黙れ!!」

 

修羅の形相を見せる男性研究員が、全霊の力を込めてガラスを殴りつける。

だが数十cmの厚みで構成された強化ガラスはビクともしない、殴り付けた彼の拳の方が壊れるだけだ。

 

「我々は魔力に干渉できない、そんなことお前が現れる前から分かっていた!! 溢れる魔力をせき止める方法が見つからなかったんだ、こんな方法しか!!」

 

「所長、やめてください!! おい、誰か手伝え!!」

 

《いえ、素晴らしい判断力と感嘆いたします。 限られた素材からこれほど強固な檻を構築するとは》

 

「黙れ黙れ黙れえええええええ!!! お前に何が分かるんだ、罪のない子供を犠牲にしてまで、私達は……まだなにも……っ!」

 

壊れた拳でなおもガラス壁を殴り続ける男性が、他の職員たちに引き剥がされる。

彼の言葉は理解できる。 「これほど投資をした以上は成果を出さないといけない」という自己脅迫の状態だったのだろう。

そして度重なる精神的な重責と緊張から発狂、ストレスの原因である私へ殴り掛かったというわけだ。

 

「……改めて理解したよ、お前は言葉が分かるだけでしかない。 分かり合うことなんてできない、ただの侵略者だ……!!」

 

去り際に吐き捨てられた彼の言葉の意味が理解できなかった。

彼が行動に至った理由は十分分析できている。 言語形態に差異はないため、会話も成立している。

なぜ分かり合う事が出来ないと断言できるのだろうか。

 

「この……化け物め……!!」

 

……私に足りないのは、“愛らしさ”だけではないのだろうか。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

所長と呼ばれていた彼は、翌日には復帰していた。

しかしその後、彼との会話に成功した記録はない。 何を語りかけようとも徹底的に反応が得られなかった。

それだけではなく、他の研究員たちから得られる反応も目に見えて減っていた。

 

日に日に減る人員、進展のない研究、もはや対話は絶望的だった。

それでも暦は無常に過ぎゆく、そして……ついにXデーはやってきた。

 

《…………限界ですね》

 

当然ながら私のつぶやきに対する反応はない。

もはや檻の中に押しとどめられた魔力は臨界に達している、ガラスを突き破って世界中に拡散するまで残り数分といった所か。

だが周囲の研究員たちはそのことに気付いていない。 彼らは檻の内部に圧縮された魔力の量を正確に計測する手段も持ち合わせていないのだから。

 

もうじき私を含め、この場にいる全員は絶命する。 

拡散する魔力は絶大なエネルギーを伴い、半径数㎞の領域が魔力で汚染された焦土と化すだろう。

 

準備は出来ている。 私という生命の欠片と、それを再構成する術式の2つ。

世界にあふれたこの2つの要素が偶発的に揃い、新たな“私”が生成されるまでどれほどの年月が必要だろう。

数か月か、1年か、それとも10年か。 もっと長いかもしれない年月の先に生まれるあらたな“私”は、一体どんな人と出会うのだろうか。

 

《……ああ、そういえば……名前》

 

結局、私を指し示す固有名詞は与えられなかった。

次の“私”は名前を与えられるだろうか、どんな名前で呼ばれるのか。 それを知ることができないのが惜しい。

真っ白に脱色した髪の毛と、味気ない病衣服。 “愛らしい”には程遠いと思うが、参考資料が目の前の彼女達しかいなかったので許してほしい。

 

……妙だ、不可解だ。 次の“私”に期待するこの気持ちは何だろう。

私のようになってほしくないと、化け物などと呼んでほしくないと願うこの思いの正体が言語化できない。

 

《――――ふふっ》

 

今から私は絶命するというのに、なぜか笑みがこぼれた。

私の侵略を拒み続けていた檻がひび割れていく、いよいよ別れの時だ。

 

さようなら、今回の私。 そしておめでとう、次の“私” あなたはきっと――――私より自由です。

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