俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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白と黒の邂逅 ④

「マスター、私はやっぱりネロちゃんが悪人とは思えません」

 

元は喫茶店だったであろう薄暗い廃墟の中、カウンター席に座ったハクがポツリとつぶやく。

その足元には薄っぺらい毛布に包まったネロが寝息を立てている。

ロウソクの明かりに照らされたネロを見下ろすハクの瞳は、まるで幼い子供を慈しむようだった。

 

「そうだな……俺も何となくそんな気はしてるよ。 元凶はともかくな」

 

ネロはあれから泣きつかれて眠ってしまった、不意に浴びせかけられた情報量に処理が追い付かずに感情が爆発してしまったのだろう。

つまり彼女にはそれほどまでに善悪に対する判断力がない。 いや、善悪を学ぶ環境がなかった。

ネロにとって生まれ育った世界に居たのは、この世界に魔力を垂れ流した元凶が1人だけ。 疑うことも無くただ指示に従うだけだったに違いない。

 

「ふん、どうかな? 片棒を担いでいたなら同罪だと思うけど」

 

「その割には態度が丸くなったな、今ならネロも隙だらけだぞ」

 

「…………ふんっ!」

 

一人だけ隅っこの席に座っていたスノーフレイクがいたずらに椅子をきしませながらそっぽを向く。

大分機嫌が直ったのか、再び姿を見せてくれるようになったがこれじゃ元の木阿弥だ。

 

「マスター、余計な一言が多いですよ。 そんなんじゃモテませんよ?」

 

「……お兄ちゃんはそのままでいいんだよ。 それで、()()()()の?」

 

スノーフレイクの疑問に、ほぐされていた空気が再び重くのしかかる。

どうするか、とはつまりネロの事だ。 彼女は元凶と繋がっている、流石にこのまま何もせず帰すという訳にはいかない。

可能なら目を覚ました際に協力を仰ぎたいが、難しい場合は手ごろな建物へ軟禁が必要になるかもしれない。

 

「……マスター、できれば彼女の事は私に任せてほしいです」

 

「それは……いや、分かった。 ただ何かあったらすぐに報告だぞ」

 

「むぅー……お兄ちゃん、私には何か一任してくれないのかな?」

 

「………………」

 

無言で人数分のカップラーメンと水の入ったやかんを用意し、カウンターを滑らせる。

食事は必要ないが、人間本来の営みが必要といったのはスノーフレイク自身だ。

そして本日の夕食一式を受け取った彼女は、しぶしぶとやかんを魔力で灯した火にかけはじめた。

 

「……魔力か、確かにこうして扱えるなら便利なんだろうな」

 

「人類全員が魔法少女になればあるいはね、でもそれはそれで世界が終わっちゃうよ」

 

人類総魔法少女化、ある意味恐ろしい光景かもしれない。

それに魔力の使い道は火や電力の代わりになるだけじゃない、魔法少女が魔物と戦えるようにあらゆる武器に成り代わる可能性もある。 いわば全人類が核弾頭を持つに等しい。

誰かが少しの悪意を持って振り回すだけで洒落にならない被害が生まれる、そんな世界に未来はない。

 

「やっぱり……分かり合えないな、あの野郎とは」

 

「うん。 そもそもそこらの魔法少女じゃ魔力汚染には耐えられない、結局最後に生き残るは私達だけだよ」

 

「そうだな、結局はそこに行きつく」

 

お湯の入ったカップラーメンを受け取り、重し代わりのスマホを蓋に乗せる。

 

「ちょっとマスター、私の家を雑に扱わないでくださいます?」

 

≪ハクちゃんタイマー・オーン!≫

 

「しかもしれっとハクちゃんタイマー使ってますね!?」

 

「いや、普通の用途で使う機会もなかなかないし折角だからさ。 ほら、お前の分」

 

「まあ良いですけど……なんか複雑な気持ちですね。 ネロちゃんの分はどうします?」

 

「目を覚ましてからでいいんじゃないか、麺も伸びるだろ。 箸は行き渡ってるか?」

 

「うちにも一膳おくない?」

 

「しゅこー……」

 

「ん、ほいほい」

 

食事に使える程度に洗い直した箸を揃えて渡す。

これで俺を含めて5人分、全員に行き渡って……5人?

 

「おおきに。 あら、柚子胡椒風味なんてはじめてどすわぁ」

 

「しゅこー……」

 

「…………お兄ちゃん、そっちの2人は誰?」

 

「えっと……こっちの人はロウゼキ、さん……?」

 

「ふふふ、おおきにぃ。 えらい探したわぁ、店員さん」

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