俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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通りすがりの狼藉者たち ②

「……気配はなかったはずだぞ」

 

「あかんなぁ、魔力だけやのうてちゃぁんと他の気配にも気ぃ配らんと。 たまに居るんよ、隠すのが上手い手合いが」

 

もうもうと立ちこめる土煙を遮り、壁のように整列したロウゼキの御札が俺たちを取り囲んでいた。

遮断された空間の外には確かに“動く何か”の影があるのは分かる。

だが魔物なら持っているはずの魔力がかけらも感じられない、目の前に現れてようやく存在を認識できたほどだ。

 

「zzz……う、うーん……ぶへ、ぺっぺっ! 砂っ! 何これ、どうなってんの!?」

 

「おはようございますネロちゃん、寝起きのところ悪いですが下がってください!」

 

「しゅこー!」

 

床で寝ていたネロも無事だ、口に入った砂に悶絶している所をハクたちに引きずられていく。

ボイジャーの魔法は戦闘向きではない、戦闘要員として数えられるのは俺たち3人だけだ。

 

「よいしょっと、行きますよマスター! 」

 

「よっと、サンキュー!」

 

ハクが合図と共に回収していたスマホを投げ、その姿がスマホの中へ吸い込まれる。

放物線を描いて飛んで来たそれを受け取ると、画面にはいつもと変わらぬ変身アプリが立ち上がっていた。

 

「なるほどなぁ、あの子がブルームスター変身の秘密?」

 

「……思ったより驚かないんだな、アオからすでに聞いていたか?」

 

「いいや、なんとなくそんな気ぃしてはったからなぁ。 変身するならはよしぃ」

 

「……違和感を覚えたらすぐに離れてくれ、巻き込まない自信はない」 ≪Are you “Lady”!?≫

 

変身を完了し、賢者の石を宿した純白のブルームスターへと姿を変える。

ハクが制御してくれているおかげで魔力の放出は抑えられているが、やはり0まで留めることはできない。

横を見れば、いつの間にかスノーフレイクも魔法少女衣装に身を包み、臨戦態勢へと入っていた。

 

『……なんだぁ? 男が一匹ガキになりやがった!』

 

『人数もなんか違くない? 聞いていたより多いんだけど』

 

『………………』

 

土煙が吹き飛び、中から現れたのは3体の魔人だった。

 

1人は耳が痛くなるほどの声量を飛ばす巨人、赤黒い肌と額に映えた角は鬼そのものだ。 おそらく天井ごと壁を吹き飛ばしたはこいつだろう。

2人目は対照的に翅が生えた数十cmほどの妖精じみた小人だ、こいつの周りだけキラキラとした粉のような何かが舞っている。

3人目が先ほどから微動だにせず鯉口を切っている武者鎧のような魔人、他の魔人に比べて常識的な背丈をしているが立ち姿に一切隙がない。

 

『そこのピンクっぽいの、私らが用あるのは白いの2人だけよ。 邪魔だからさっさと失せな』

 

「うふふ、いけずやなぁ。 うちを差し置いて何する気なん?」

 

『あんたには関係ないんだけど、それともここで死ぬ?』

 

「力づくで退けてみたらどない? 後ろのおっかない鬼さんにでも頼んで」

 

『……気が変わったわ、お前は泣き叫んだって許してあげない』

 

軽んじられたのが相当癇に障ったらしく、妖精の小さな額でもはっきりと分かるほどの青筋が浮いていた。

魔人にしても感情の機微が人間のものに近い、振る舞いだけでもこれまで倒してきた連中とはレベルが違う事を直観させる。

 

「ロウゼキさんだっけ……あまり煽らないほうが良いよ、こいつら強い」

 

「ふふ、あかんなぁ。 ついつい()()()()()()みたいになってもうたわ」

 

『……あんたら、目当ての2匹は譲る。 私はそこの命知らずを殺すから』

 

『アァ? 何言ってんだ、3人がかりでぶっ殺して来いって命令だろ』

 

『すぐに終わるわよ、あんたもそれまで好き勝手暴れられるんだから良いでしょ?』

 

『ハッハァ! そりゃそうかぁ!!』

 

高らかな笑い声を上げ、大鬼は握りしめた拳を札の壁に叩きつける。

見た目に違わぬ剛腕から繰り出された一撃を喰らい、初めの奇襲を防いでくれた壁はあっという間に紙くずとなって千切れ飛んだ。

衝撃の余波だけで店の床板がめくれ上がり、土埃が再び舞い上がる。 そしてその目くらましを好機とばかりに動き出したのはロウゼキと妖精の魔人だった。

 

「ほな、分断しよか。 鬼と武者の相手は任せたで」

 

「えっ? あ、おい!」

 

『おいおい、よそ見してんなよ男女ァ!!』

 

土埃に紛れて揺らめくような足運びで姿をくらますロウゼキ、その背中を輝く翅が追いかける。

咄嗟に追いかけようとした俺と2人の間に割り込んできたのは大鬼の拳だ。

巨体に割に相当速い、たまらず飛び退いた俺の目の前を巨大な拳が掠めていく。

 

《マスター、喰らっちゃったら即ミンチですよあんなの! 絶対に躱してください!!》

 

「分かってるよ! そんでもってテメェは邪魔すんな!!」

 

『邪魔するぜェ! そのためにやって来たんだからな!! 大人しく捕まるんじゃねえぞ、抵抗しろ!!』

 

「言ってることが無茶苦茶だこいつ……! スノーフレイク、そっちは大丈夫か!?」

 

「……ごめんお兄ちゃん、こっちも助けに入れない」

 

スノーフレイクは武者とにらみ合ったまま、一歩も動いていない。 いや、動けないのだ。

いつの間にか武者の間合いは刀が届くギリギリ一歩外の領域まで近づいている、刹那でも隙を見せればその瞬間に斬り捨てられかねない。

 

「……分かった、油断はするな。 俺もすぐにこの大鬼を片付ける」

 

味方は互いにフォローに入れるような状況じゃない、俺も目の前の大鬼へと意識を集中する。

加勢は邪魔な目前の敵を倒してからだ、そしてそれは相手も同じだろう。

1vs1が3つ。 どれか1つでも戦況が傾いた瞬間、他の戦場も一気に蹴りがつく戦いになる。

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