俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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通りすがりの狼藉者たち ⑤

放つのは手綱を握らずに扱えば天の壁まで貫きかねないほどの高密度のエネルギー。

箒の穂先から灼熱の炎として吐き出されたそれは、半ばプラズマと化しながら大鬼を飲み込んだ。

苦しむ間もない文字通りの即死、肉片の痕跡すら残さず大鬼の存在は焼失した。

 

《……完全に消滅しました、再生する気配もありません》

 

「ああ、そうみたいだな……」

 

本体が消滅したせいか、今まで蠢いていた肉片たちもすべて灰となって消えていく。

ひとまずこれで大鬼の脅威は去ったと見て良いだろう。

 

「ハク、他の魔人の気配は分かるか?」

 

《ちょっと待ってください……2人ともだいぶ移動していますね、まだ交戦中かと思われます》

 

「わかった。 大分時間食っちまったな……」

 

まだ決着がついていない、つまりどちらも苦戦が続いているという事になる。

2人の戦況も気がかりだが、先に避難したボイジャーたちの事も心配だ。

この東京には濃い魔力に釣られて自然発生した魔物だって多い。

 

「クソ、どうする……?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

『逃げんじゃないわよクソアマ! それとも調子良いのは口先だけ!?』

 

「おお怖い怖い、そないかっかして寿命縮むで?」

 

『ぶっ殺す!!』

 

障害物に溢れた街並みを羽虫のように飛び交うピンク色の影を追う。

クソ魔法少女め、あれだけ私を虚仮にした癖に逃げ足だけは速い。 本当にイライラする。

その余裕ぶった態度を血反吐で歪ませねば気が済まない、賢者の石は後回しだ。

 

「けど面白いぐらいうちに釣られてくれたなぁ、自分ら分断されてるの分かってはる?」

 

『……はぁ? 何言ってるのお前、もしかして分断して各個撃破してやるとか考えちゃったわけ?』

 

「そりゃそう――――……?」

 

クソアマの足が鈍り、大きく失速する。 

瞬く間に精彩が欠けた挙動は、飛び出した鉄骨に足を引っかけて地へと落ちた。

 

『ああ、ようやく。 ずいぶん時間がかかったから馬鹿には効かないのかと思っちゃった』

 

「ふふ、ふ……いややわぁ、何してくれたん……?」

 

ふらつく足取りにもはや再び駆け出すだけの力は宿っていない。

こうなれば私の独壇場だ、楽には殺してやらない。 徹底的にいたぶってやる。

 

『さあねぇ、何をしたと思う?』

 

「――――――か、ふ……」

 

クソアマの口から血液が零れ、足元に小さな水たまりを作る。

臓腑が焼けただれるような痛みだろう、()()()()

 

「おか、しいなぁ……毒喰らう隙なんて無かったと思うんやけど……」

 

『アッハ! 馬鹿じゃない? 魔人の力をあんたの常識で計ろうだなんて!』

 

「ほな、メイドの土産に教、え゛……」

 

『教える訳ないでしょ、足りない頭で考えてみたら?』

 

夥しい吐血を繰り返しながらも減らず口が絶えないアマだ、私が調子に乗ってそんな口車に乗るとでも思っているのだろうか。

例え今さら気づいたところで遅すぎる話だが、変に希望を持たれても鬱陶しい。 

余計な事は何も言うまい、こいつには自分の無知を思い知ったまま死んでもらいたいのだから。

 

『そうだ、一つだけ教えてあげる。 その毒はあんたの臓腑を内側からじわじわと腐食する。 アハッ、万が一私を倒したところでその時には手遅れなんじゃない!?』

 

「…………」

 

『アッハハハ! やっと黙った、怖くなった!? でも後悔しても遅いの、全部あんたの自業――――』

 

「……はぁ、もうええわ。 付き()うてられん」

 

『――――は?』

 

突然視界が揺れる、飛行している自分の身体が制御できない。

何故? その答えは簡単だ、自分の翅が一枚千切れていたのだから。

 

『ひ、ぎ――――ぎゃああああああ!!?』

 

「なんや奥の手あるんかと思ったけどほんまにそれだけか、しょうもな」

 

『な、な、なんで……なんでっ!? 私の、翅が!?』

 

「一枚取れたぐらいで五月蠅いわぁ、うちが壊したにきまっとるやろ?」

 

クソアマは呆れた顔をしながら、指先大の小石を掌で転がしている。

壊した? そんなはずがない、私に気付かれずにそんな真似ができるはずがない。

 

「あんたの手品はその翅がタネやろ? 翅の光か何かに毒性を付与してはる、光を浴びるか視認した時からじわじわ効いて来るんやろ」

 

『そ、それなのになんで……あんた、さっきまで苦しんでたのに!』

 

「うふふ、血・の・り♪」

 

……着物の下から取り出されたのは、赤い液体がこびりついた空のビニールパックだった。

 

「敵味方の区別をつけて散布できる猛毒、あんたの力は乱戦でこそ生きるからなぁ。 ふふ、よう釣れたわぁ」

 

『……なんで、私の毒が……』

 

「ごめんなぁ、うちに効かないねん。 全部“壊して”しもうたわ」

 

『―――――』

 

即座に踵を返し、残り3枚の翅を目一杯に羽ばたかせて逃げる。

間違っていた、あれは化け物だ。 喧嘩を買っていい相手なんかじゃなかった。

私が敵う相手じゃない、殺される!!

 

『速く、速く、速く――――! 死にたくない、死にたくない、死にた――――』

 

「――――どこ行くん?」

 

……振り切ったはずの声が、前から聞こえてきた。

そんなはずがない、私は真っ直ぐに逃げていたはずだ。

なのに、どうして、目の前にあいつがいるのだ。

 

「一つだけ教えるわ、うちの魔法は破壊の魔法。 どんなものでも壊してしまうんよ、()()()()()

 

笑いながら化け物が、一握りの砂を投げる。

すでに最高速度に達している私の体は急に止まれない、目の前に待つ砂粒の幕へ突撃してしまうことになる。

何も抵抗することができず、どんなものでも壊すという女が投げた砂粒へと。

 

『や、だ――――助けっ!』

 

「さよなら」

 

私に触れた砂粒は何の抵抗も無く肌を貫く。

足が、腕が、目が、翅が、無数の礫に貫かれて破壊される。

薄れゆく意識の中で私が最後に見たものは、翅の残光によって照らされ浮かぶハチの巣と化した自らの影だった。

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